ドント・ウォーリー

監督:ガス・ヴァン・サント
出演:ホアキン・フェニックス、ジョナ・ヒル、ルーニー・マーラ、ジャック・ブラック、マーク・ウェバー、ウド・キア
原題:Don’t Worry, He Won’t Get Far on Foot
制作:アメリカ/2018
URL:http://www.dontworry-movie.com
場所:新宿武蔵野館

車椅子を扱っている会社にいろいろとお世話になっていて、だから車椅子を利用している人たちとも少なからず話したことがある。そのときに感じることのひとつに、もし自分が車椅子のお世話になったとして、すぐにその生活に納得して順応することができるのだろうか? と云うことだった。今まで簡単に出来ていたことが出来なくなったり、誰かのサポートがどうしても必要になったり、人の目が憐れみに感じてしまったりと。おそらく、どんなに心穏やかな人であったとしても、人生の途中で健常者から車椅子の生活になったとしたら、少なからず心が乱れて自暴自棄になったり、他人に責任転嫁をするようになってしまって、大きく生活が乱れてしまうような気がする。

『ドント・ウォーリー』に出てくるホアキン・フェニックスが演じているジョン・キャラハンは、母親に捨てられたことへの強い私怨からアルコールに走ってしまって、酔っぱらい運転の車に同乗したことから交通事故にあって車椅子の生活になってしまう。もともと生活が乱れていた人間が車椅子の生活を余儀なくされた場合、自分だけでは何も出来ないもどかしさに対する不満をまわりに発散させるだけの、わがままし放題の手のつけられない「身体障害者」と云うやっかいなものになってしまう。

でも、「身体障害者」=「(人のお世話になっているわけだから)迷惑をかけない人間」なんて図式がまかり通っている世の中は、やはりどこか間違ってる。健常者と同じように「身体障害者」だって良い人もいればいけ好かないやつだっているはずだ。いろいろな人間の多様性が尊重されつつある世の中ならば、不良の「身体障害者」だって、いい意味でも悪い意味でももっと話題になるべきだ、とはおもう。

この映画の中での一番印象的なシーンは、電動車椅子に乗ったジョン・キャラハンがものすごいスピードで街なかを疾走するシーンだった。手のつけられない「身体障害者」を象徴する場面なんだけど、周りに迷惑をかけないような行動を要求されがちな車椅子生活者のイメージをぶち破る良いシーンだった。自分も、もし車椅子のお世話になったとしたら、これくらいのアナーキーさを持って生活したいとはおもう。すぐにSNSで叩かれて、シュン、となってしまうかもしれないけれど。

→ガス・ヴァン・サント→ホアキン・フェニックス→アメリカ/2018→新宿武蔵野館→★★★★

営倉

監督:ジョナス・メカス
出演:
原題:The Brig
制作:アメリカ/1964
URL:
場所:シアター・イメージフォーラム

いつものとおりに事前情報をまったく入れないで映画を観に行ったので、すっかりジョナス・メカスのドキュメンタリーを観ているものだとおもいこんでいた。だから海兵隊の「営倉」で行われている人間を人間ともおもわない非道な行為に、あの『愛と青春の旅立ち』や『フルメタル・ジャケット』で行われていた教官が訓練兵士を口汚く罵る行為は、そうか、日常茶飯事に行われていた行為なんだな、なんてひとり納得して観ていた。

ところが映画を観ていくうちに、その行為があまりにもカリカチュアされすぎてやしないか、いやその前にカメラワークが的確すぎる、なんてところに気づいて、終いにはカメラが手前に引いて行き、舞台の上の「営倉」の全貌があらわになってはじめて、そういうことだったのか! と分かったくらいに映画にのめり込んでしまっていた。

以下のブログを読むと、

https://blog.goo.ne.jp/sightsong/e/42baf17b68a1ca6a56d36652fed85d88

「営倉」と云うタイトルの演劇を観たジョナス・メカスがその芝居のフィルム化をおもいつき、それに賛同した俳優たちと一緒に内緒で撮りあげてしまったそうだ。いやあ、メカスのそんなアナーキーなところもすごい。

この日はクタクタに疲れたあとの映画鑑賞だったので、もしかすると寝ちゃうかな、なんて心配をしていたけれど、寝てる暇もないくらいの強烈な、ドキュメンタリーのような、映画だった。

→ジョナス・メカス→→アメリカ/1964→シアター・イメージフォーラム→★★★★

イメージの本

監督:ジャン=リュック・ゴダール
出演:
原題:Le livre d’image
制作:フランス、スイス/2018
URL:http://jlg.jp
場所:シネスイッチ銀座

ゴダールが84歳で『さらば、愛の言葉よ』を3D映画として撮ったとき、現在の3D方式ではどのような構図で撮れば効果的になるのかをしっかりと理解していることに、さすがゴダール、とおもってしまった。何歳になろうと、映画にどんなテクノロジーが加わろうとそれに対して貪欲な姿勢に嬉しくなってしまった。

で、その次にどんな映画を撮るんだろう? と期待していたら、ビデオ・インスタレーションのようなものがやって来た。ああ、だったら、映画館の座席に縛られることなく、なにか違った環境で観るべきなんじゃないかとムズムズしてしまった。不正や暴力や不和に満ちあふれていることに対する嘆きが一つの暗闇の中に限定されることなく、例えば実際に殺人が起きた現場でこの映画が見ることができたりしたら、もっとぐさりとくるんじゃないかと、まったくの後付けだけど、川崎市の事件を知ってから痛感してしまった。そんなインスタレーションは無理なんだろうけれど。

→ジャン=リュック・ゴダール→→フランス、スイス/2018→シネスイッチ銀座→★★★☆

アベンジャーズ/エンドゲーム(Dolby Cinema、3D字幕)

監督:アンソニー・ルッソ、ジョー・ルッソ
出演:ロバート・ダウニー・Jr、クリス・エヴァンス、マーク・ラファロ、クリス・ヘムズワース、スカーレット・ヨハンソン、ジェレミー・レナー、ドン・チードル、ポール・ラッド、ベネディクト・カンバーバッチ、チャドウィック・ボーズマン、ブリー・ラーソン、トム・ホランド、カレン・ギラン、ゾーイ・サルダナ、エヴァンジェリン・リリー、テッサ・トンプソン、レネ・ルッソ、エリザベス・オルセン、アンソニー・マッキー、セバスチャン・スタン、トム・ヒドルストン、ダナイ・グリラ、ベネディクト・ウォン、ポム・クレメンティエフ、デイヴ・バウティスタ、レティーシャ・ライト、ジョン・スラッテリー、ティルダ・スウィントン、ジョン・ファヴロー、ヘイリー・アトウェル、ナタリー・ポートマン、マリサ・トメイ、タイカ・ワイティティ、アンジェラ・バセット、マイケル・ダグラス、ミシェル・ファイファー、ウィリアム・ハート、コビー・スマルダーズ、ヴィン・ディーゼル、ブラッドリー・クーパー、グウィネス・パルトロー、ロバート・レッドフォード、ジョシュ・ブローリン、クリス・プラット、サミュエル・L・ジャクソン
原題:Avengers: Endgame
制作:アメリカ/2019
URL:https://marvel.disney.co.jp/movie/avengers-endgame.html
場所:Movixさいたま

「ユニバース」と名前をつけているとおりに大きく広がってしまった「マーベル・シネマティック・ユニバース」シリーズを『エンドゲーム』として完結させるにあたって、単純にサノスとの最終決戦を持ってくるようなありきたりの方法ではなくて、そこはちょっとひねって、『アントマン』に出てきた「量子のもつれ」を使った「タイム・テレポーテーション」を利用して、いままでの作品のシーンを振り返りつつ、数が多いキャラクターの活躍の場面をしっかりと時間内に振り分けた方法は、なるほどなあ、と唸ってしまうほどのアイデアだった。

おそらく量子力学の世界にある「タイム・テレポーテーション」を現実の世界に応用するのにはとてつもなく大きな無理があるのだろうけれど、まあ、そこは細かいことは云わずに、「マーベル・シネマティック・ユニバース」のシリーズの中でも端っこにあるとおもわれていた『アントマン』からサノスを倒すための詭弁を引き出してくる意外性も面白かった。

でも、サノスは単純な「悪」だったのかなあ? 現状のままではすべてが死に絶えるので、たとえ半分が死んだとしても今後のためにリストラクチャーを行っただけだと考えることもできてしまう。それを阻止したアベンジャーズたちに「正義」があったのか、なんて考えると、やはり現在の地球上にあるいろいろな問題にも直結するストーリーだった。「悪」に見えるようなものを駆逐するだけが「正義」ではない、と云うような、、、

評判のDolby Cinemaは、宣伝通りに「黒」がしっかりとした漆黒の「黒」なので、コントラストに幅があって人物クロースアップの3D映像がくっきり際立っていた。だからグウィネス・パルトロウの目尻の皺もくっきり。すごかった。

→アンソニー・ルッソ、ジョー・ルッソ→ロバート・ダウニー・Jr→アメリカ/2019→Movixさいたま→★★★★

名探偵ピカチュウ

監督:ロブ・レターマン
出演:ライアン・レイノルズ、ジャスティス・スミス、キャスリン・ニュートン、スキ・ウォーターハウス、オマール・チャパーロ、クリス・ギア、渡辺謙、ビル・ナイ
原題:Pokémon: Detective Pikachu
制作:アメリカ、日本/2019
URL:https://meitantei-pikachu.jp
場所:109シネマズ木場

スマホゲームの「ポケモンGO」をなんだかんだとやり続けていて、だいぶ、いや、めちゃくちゃポケモンに詳しくなってしまった。もともとは任天堂のGAME BOY向けに出た「ポケットモンスター 緑」をやってはいたが、そこまでやり込んではいなかったので、第一世代のポケモンでさえもすっかり忘れてしまっていたのだった。

で、「ポケモンGO」の影響からロブ・レターマン監督の『名探偵ピカチュウ』を観てしまった。んだけど、やはり予告編の時から危惧していたモコモコとしたぬいぐるみっぽいポケモンはひどかった。「ポケモンGO」系のYoutuberたちは、次第に馴れて行った、との感想を云っていたけれど、まだピカチュウは可愛いが、そのほかのポケモンたちは、怖い! 以外の感想はまったくなかった。

ピカチュウ以外のポケモンも、コダックとか、もっとストーリーに絡んで、その特性や技なども伏線になったりしたらもっと楽しめたのに。

→ロブ・レターマン→ライアン・レイノルズ→アメリカ、日本/2019→109シネマズ木場→★★☆

バースデー・ワンダーランド

監督:原恵一
声:松岡茉優、杏、麻生久美子、東山奈央、藤原啓治、矢島晶子、市村正親
制作:「バースデー・ワンダーランド」製作委員会/2019
URL:http://wwws.warnerbros.co.jp/birthdaywonderland/
場所:109シネマズ菖蒲

原恵一監督の新作は柏葉幸子の小説『地下室からのふしぎな旅』を原作とした小学生の女の子が主人公の物語。と聞けば、まるでジブリの作るアニメーションのようで、原恵一監督にはもっと違った方向に進んで欲しいなあ、と云うのが第一印象だった。

そして映画を観始めると、出てくる主人公の女の子がまったく小学生に見えない。おそらくそれは松岡茉優の低音の声によるところが大きくて、やはりそこはプロの声優を使うべきなんじゃないのか、と映画の導入からあまり印象の良くないことばかりだった。

柏葉幸子の小説にあるとおもわれる世界観もとっつきにくくて、ああ、これはちょっとキビシイ、とおもって観ていたら、次第に馴染んで行って、その世界観に取り込まれて行ってしまった。これはやはり原恵一監督に演出力があるからで、だったらやはり『はじまりのみち』のような、おお、今回はそう来るのか! とおもわせるような映画を撮って欲しかった。

→原恵一→(声)松岡茉優→「バースデー・ワンダーランド」製作委員会/2019→109シネマズ菖蒲→★★★☆

天使も夢を見る

監督:川島雄三
出演:鶴田浩二、佐田啓二、河村黎吉、津島恵子、小林十九二、細川俊夫、幾野道子、坪内美子、長尾敏之助、磯野秋雄、大杉陽一、小藤田正一
制作:松竹/1951
URL:
場所:神保町シアター

川島雄三の映画を映画館やフィルムセンターや日本映画専門チャンネルでぽろぽろと拾って見てはいるのだけれど、まだ全51作品中の26本しか見ることができていない。今回の『天使も夢を見る』も初見だった。

鶴田浩二のキャリアが松竹からはじまったことは、渋谷実の『本日休診』や小津安二郎の『お茶漬の味』に彼が出ていたことで理解していた、のかな? でも、松竹での鶴田浩二の主演映画をしっかりと観たのは『天使も夢を見る』が初めてだった。で、そこには、東映の任侠映画に出てくるキャラクターと同じように、物事のスジを通す人間がそのまま出てきたのにはびっくりした。おそらくそれが鶴田浩二の実際の人となりとからくる配役なんだろうとおもう。だから、どの映画会社に行こうと、晩年のNHKドラマの「男たちの旅路」ででも、まっすぐな男を演じたんじゃないのかと想像してしまう。

『天使も夢を見る』は、任侠映画や「男たちの旅路」や「今の世の中、右も左も真っ暗闇じゃござんせんか」の鶴田浩二しか知らない自分にとっては珍しいラブコメディだった。そこは川島雄三の巧さなんだろうけど、すばらしくハマった鶴田浩二がいた。鶴田浩二と津島恵子の掛け合いなんて、まるでスペンサー・トレイシーとキャサリン・ヘップバーンのようだった。

→川島雄三→鶴田浩二→松竹/1951→神保町シアター→★★★★

バイス

監督:アダム・マッケイ
出演:クリスチャン・ベール、エイミー・アダムス、スティーヴ・カレル、サム・ロックウェル、タイラー・ペリー、アリソン・ピル、ジェシー・プレモンス
原題:Vice
制作:アメリカ/2018
URL:https://longride.jp/vice/
場所:109シネマズ菖蒲

2001年9月11日にニューヨークとワシントンD.C.で起きた同時多発テロを受けてのイラク侵攻への流れが、日本人の我々から見てもちょっと強引すぎやしねえのか? と誰もがおもっていて、それがジョージ・W・ブッシュ大統領の大統領たる資質に疑問を持つきっかけとなったような気がする。で、その裏側にネオコン(新保守主義)の存在が取り沙汰されるようになって、さらにイラクの石油の利権争いなども噂されるようになると、9月11日の事件は単なるきっかけでしかなくて、オサマ・ビンラディンがアメリカに敵対心を持っていようと持っていなくとも、ブッシュがフロリダ州でゴアに僅差で勝った時点でアメリカの突き進む方向は決まってしまっていたんじゃないのかと訝しむようになってしまった。

アダム・マッケイの『バイス』はまさにその当時のアメリカ政治世界の裏側を描いた映画で、ディック・チェイニーと云う普通の男がのし上がって行くさまは、時代の潮流にうまく乗った人間が自分の能力とは関係なく権力と云うものを簡単に握ってしまう怖さだった。そしてそれはどの国でも、日本でもあてはまることだった。

ジョージ・W・ブッシュもチェイニーも、そして国防長官だったドナルド・ラムズフェルドも、人間としては偏っていてダメなやつなんだけど、政治力を発揮する能力は世間一般に「良い人」と云われる人間よりも「悪い人」と云われる人間のほうに必ず宿ってしまう。だからこそ権力を握った人間に対して、そいつらはいけ好かないやつが多いわけだから、必ずアホ、バカ、死ね、と云う言葉が簡単に発せられるようになってしまう。世の理だ。

映画としてはクリスチャン・ベールやスティーヴ・カレルと変幻自在役者の品評会な部分も面白かった。サム・ロックウェルのジョージ・W・ブッシュも激似だし、タイラー・ペリーのパウエル国務長官もリサ・ゲイ・ハミルトンのライス大統領補佐官もそっくり!

→アダム・マッケイ→クリスチャン・ベール→アメリカ/2018→109シネマズ菖蒲→★★★★

魂のゆくえ

監督:ポール・シュレイダー
出演:イーサン・ホーク、アマンダ・サイフリッド、セドリック・カイルズ、ヴィクトリア・ヒル、フィリップ・エッティンガー 、マイケル・ガストン、ビル・ホーグ
原題:First Reformed
制作:アメリカ/2017
URL:http://www.transformer.co.jp/m/tamashii_film/
場所:Movixさいたま

ポール・シュレイダー監督の『魂のゆくえ』を観て、やはりポール・シュレイダーが脚本を書いた『タクシードライバー』をすぐに連想した。と同時にベルイマンの『冬の光』も頭に浮かんだ。でも、それだけではイーサン・ホークが演じているトラー牧師の行動の整合性を導き出すことはちょっと無理だった。

ストーリーを追うだけではなかなか内容を理解できない映画の場合、まずは表面的に見えるものを列挙してみる。

・トラー牧師にはなんらかの重篤な病気の兆候が見えるが、積極的に病院へ行って検査をしようとする気持ちがない。
・従軍牧師であったトラー牧師は、入隊を勧めた息子が戦地で死んだことから妻とも離婚し、再びニューヨークの小さな教会で牧師になっている。
・日記を12ヶ月間だけ書き留めて、最終的にはそれを破棄すると云う実験を行う。

●トラー牧師は自分の罪をつぐなうべく観光客向けの小さな教会での職をまっとうしようと務めているが、まだ自分が贖罪されていると感じ取ることができないでいる。

・教会で知り合ったアマンダ・サイフリッドが演じるメアリーから、極端な環境保護論者である夫に会ってくれとの依頼を受ける。その夫は人間による地球の環境破壊に絶望して鬱になっている。

●トラー牧師はメアリーの夫からの悲痛な訴えをキリスト教の教えによって解決しようと試みるが失敗する。夫はショットガンで自殺してしまう。現実の問題をなんでも可視化できてしまういまの情報化社会での既存宗教の無力を痛感する。

・トラー牧師の教会は地元の大きな教会の援助を受けていて、その大きな教会は企業からの献金で成り立っている。
・その企業は地元の環境を破壊している。
・地元の若い人との交流会に出席し、その一人から「右の頬を打たれたら左の頬をも向けなさい」なんて云われるのはうんざりだ!と云われる。

●トラー牧師は、複雑な現代社会の構造の中で、宗教人としてまっとうな努めを果たそうとしている牧師としての自分の立ち位置に矛盾を感じてしまう。

・教会で事務を務めるヴィクトリア・ヒルが演じるエスターからの好意を激しい感情を露わにして拒否してしまう。
・既存の宗教の教えとはかけ離れたスピリチュアルな体験をメアリーとしてしまう。ここでトラー牧師はメアリーとスピリチュアル的に一体化する。

●トラー牧師は、おそらくこの時点に至って、プロテスタント教会の牧師としての職分を放棄して、自分の中に独自の神を見出す。
●だからメアリーの夫が隠し持っていた自爆チョッキを身に着けて、世の中の矛盾に対する怒りを自分なりの解釈で持って解決しようとする。

●ただ、その行為はあまりにも極端なものなので、そのギャップを埋めるためには映画のストーリーだけではなかなか理解できない。
●さらに、その計画がメアリーの出現によって頓挫すると、自分の体に有刺鉄線を巻き付ける行為をする。昔の修道士のような自分を戒める行為はいったい何を意味するんだろう? 自分の中の独自の神を悪魔であると判断して、それを追い出そうとしたのか?
●最後にトラー牧師はメアリーを抱擁してキスをする。カメラはまるでポール・シュレイダーが脚本を書いたデ・パルマの『愛のメモリー』のように360度回転する。

と、映画を観た感想をまてめてみても、最後のトラー牧師の過激な行為をなかなか理解することができない。でもそこは理詰めで理解するよりも、もしかしたら感覚的に理解するだけで良いのかもしれない。トラーが牧師を放棄して還俗したのなら、最後にメアリーと肉体的に一体化したことで何かしらの昇華が達成したと考えるだけで良いのかもしれない。

いろいろと解釈の難しい映画だったけれど、正面から捉えるショットが多いことなどからも、まっすぐに人間を描こうとする姿勢が見えて、ベルイマンなどの映画と同様にこんな部類の映画は案外好き。

→ポール・シュレイダー→イーサン・ホーク→アメリカ/2017→Movixさいたま→★★★★

キャプテン・マーベル

監督:アンナ・ボーデン&ライアン・フレック
出演:ブリー・ラーソン、サミュエル・L・ジャクソン、ベン・メンデルソーン、ジャイモン・フンスー、リー・ペイス、ラシャーナ・リンチ、ジェンマ・チャン、アネット・ベニング、クラーク・グレッグ、ジュード・ロウ
原題:Captain Marvel
制作:アメリカ/2019
URL:https://marvel.disney.co.jp/movie/captain-marvel.html
場所:109シネマズ木場

もうすぐ『アベンジャーズ/エンドゲーム』が公開される。前作の『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』で、あのハルクでさえ赤子の手をひねるようにやられてしまうサノスの絶大なるパワーを見せつけられては、いったいアベンジャーズはどのような戦いを挑むんだろうと、ちょっと双方のパワーバランスが崩れているところがとても気になってしまう。

と、憂慮していたところに『キャプテン・マーベル』が来た。映画を観て、そのキャプテン・マーベルの強さにびっくり。なるほど、サノスとアベンジャーズとの対戦のバランスをとるために、ここでキャプテン・マーベルを用意してきたわけだ。

それにしてもニック・フューリーが今までのシリーズの中でキャプテン・マーベルのことを言及してこなかったのはおかしい。これじゃ、まるで後出しジャンケンないか。サノスがかわいそう。

ニック・フューリー役のサミュエル・L・ジャクソンの顔を若くする技術がすごかった。メイクアップ技術ではなくてVFXでコントロールする肌の張り、艶の良さにうっとり。

→アンナ・ボーデン&ライアン・フレック→ブリー・ラーソン→アメリカ/2019→109シネマズ木場→★★★☆