青い街(ブルータウン)の狼

監督:古川卓巳
出演:二谷英明、芦川いづみ、二本柳寛、藤村有弘、杉江弘、千代侑子、チコ・ローランド、高品格
制作:日活/1962
URL:
場所:神保町シアター

『祈るひと』に続いて神保町シアター「恋する女優 芦川いづみ デビュー65周年記念スペシャル」で『青い街(ブルータウン)の狼』。

芦川いづみを観るためだとしても、映画としては、いやー、ちょっとひどかった。ストーリーが込み入っているのにそれをキチンと脚本が整理出来ていないし、だから飛行機が爆破されるかもしれないサスペンスが盛り上がらないし。じゃあ、肝心の芦川いづみが良かったかと云えば、唯一の見せ場が横浜のバーで歌うシーンくらい。残念ながら吹き替えの可能性が高いけど。ああ、でも、当時の日活の粗雑濫造、いや違う、玉石混交の映画群は嫌いじゃない。

→古川卓巳→二谷英明→日活/1962→神保町シアター→★★

祈るひと

監督:滝沢英輔
出演:芦川いづみ、下元勉、月丘夢路、金子信雄、小高雄二、木浦佑三、信欣三、東恵美子、内藤武敏、阪口美奈子、高田敏江、細川ちか子、奈良岡朋子、宇野重吉
制作:日活/1959
URL:
場所:神保町シアター

個人的に芦川いづみのベスト3を考えたときに、川島雄三の『風船』(1956)と中平康の『あした晴れるか』(1960)は決まりだけど、あともう一つは何だろう? 市川崑『青春怪談』の“シンデ”かなあ。まあ、まだ見ていない映画も多いので、そのなかにベストが隠れているかもしれない。

と云うことで、神保町シアターに久しぶりに来て、まだ見たことのない芦川いづみ主演の『祈るひと』を観た。

この映画が芦川いづみのベストになる予感がまったくない状態で観たら、やはりその出来もイマイチな映画だった。とにかくやたらと回想シーンが多い映画で、回想のさらにその回想まであるのはおもわず失笑するくらいだった。でも、父親と母親との関係に悩む娘を演じる芦川いづみが(いつものように)良かったので最後までまったく飽きることはなかった。

ただ、映画の途中から後ろの方の席の爺さん(とおもわれる)がずっとぶつぶつ独り言を云っていたのには面食らった。こっちは前のほうの席だったので比較的被害が少なかったけど、ああいう人への対処方法は何が正解なんだろう。近くの人が注意すべきなんだろうけど、とても普通の精神状態の人とはおもえないし。

→滝沢英輔→芦川いづみ→日活/1959→神保町シアター→★★☆

ブラック・クランズマン

監督:スパイク・リー
出演:ジョン・デヴィッド・ワシントン、アダム・ドライバー、ローラ・ハリアー、トファー・グレイス、コーリー・ホーキンズ、ヤスペル・ペーコネン、ポール・ウォルター・ハウザー、ライアン・エッゴールド、アシュリー・アトキンソン、ロバート・ジョン・バーク、アレック・ボールドウィン
原題:BlacKkKlansman
制作:アメリカ/2018
URL:https://bkm-movie.jp
場所:Movixさいたま

やっとスパイク・リーがアカデミー賞を獲った。脚色賞ではあったのだけれど。それでもその授賞式の喜びようから、やっぱりアカデミー賞が欲しかったんだなあ。

その脚色賞を受賞したスパイク・リーの『ブラック・クランズマン』は、タランティーノの『ジャッキー・ブラウン』と同様に70年代のブラックスプロイテーションの映画に対してオマージュを捧げているところや、最近流行の多様性尊重を訴える映画でありながらその主張をうまくエンターテインメントにくるんで笑える映画にしているところなどが、さすがスパイク・リー! と唸るほどの、とても好感の持てる映画に仕上がっていた。ただ、この映画の最後に、2017年8月にバージニア州シャーロッツビルで起きた、白人至上主義に反対する人々の群れに車が突っ込む実際の映像を入れてきた。うーん、この部分はいらなかったんじゃないのかなあ。映画の中に巧く織り込んだ主張が、映画を観た人々の心へとじわ〜と徐々に浸透して行くところが気持ち良いのに、そこへダメ押しのように、強烈な映像をぶち込む必要はなかったと個人的にはおもう。

それからやっぱり悪役は大切だ。やたらと鋭い洞察力を示す白人至上主義のフェリックス・ケンドリックソン役を演じたヤスペル・ペーコネンが素晴らしかった。その奥さん役のアシュリー・アトキンソンも!

→スパイク・リー→ジョン・デヴィッド・ワシントン→アメリカ/2018→Movixさいたま→★★★☆

監督:ボブ・ペルシケッティ、ピーター・ラムジー、ロドニー・ロスマン
声:小野賢章、宮野真守、悠木碧、大塚明夫、高橋李依、吉野裕行、中村悠一、玄田哲章、稲田徹
原題:Spider-Man: Into the Spider-Verse
制作:アメリカ/2018
URL:http://www.spider-verse.jp/site/
場所:109シネマズ菖蒲

今年のアカデミー賞の長編アニメ映画賞に細田守監督の『未来のミライ』がノミネートされて、外国語映画賞にノミネートされた『万引き家族』とともに日本でも大きなニュースになった。で、日本では誰もが『未来のミライ』の受賞を願っているような雰囲気につつまれていたのだけれど、その映画の出来に「?」だった自分にとっては、まあ、日本のアニメが評価されるのは嬉しいが、ほかの候補の、例えば『インクレディブル・ファミリー』とか『シュガー・ラッシュ:オンライン』のほうが面白かったよな、なんてことをおもったりして、ちょっと複雑な気分で授賞式を見守っていた。

受賞したのは、5本のノミネーション作品のうちで唯一まだ観ていなかった『スパイダーマン: スパイダーバース』だった。おー、どんな映画なんだろう? って観てみたら、主人公が黒人の高校生に設定されていて、そしてパラレルワールドのそれぞれの世界に存在するスパイダーマンたちのキャラクターも多様性に富んでいて、ああ、これなら最近の風潮に敏感なアカデミー会員にも受ける内容だなあ、ってことが第一印象の映画だった。もちろん、映画の出来もとても素晴らしくて、まあ、我々日本人にとっては特に、日本の萌系アニメーションを意識しているとおもわれるペニー・パーカーのキャラクターが日本のセルアニメ的二次元表現で、全体の3D表現のなかでぺたりと動いているところがとても共感できる部分だった。

とても申し訳ないんだけど『未来のミライ』よりもこちらが受賞できたのは、まあ、当然のことだった。

→ボブ・ペルシケッティ、ピーター・ラムジー、ロドニー・ロスマン→(声)小野賢章→アメリカ/2018→109シネマズ菖蒲→★★★☆

運び屋

監督:クリント・イーストウッド
出演:クリント・イーストウッド、ブラッドリー・クーパー、ローレンス・フィッシュバーン、マイケル・ペーニャ、ダイアン・ウィースト、アンディ・ガルシア、アリソン・イーストウッド、タイッサ・ファーミガ
原題:The Mule
制作:アメリカ/2018
URL:http://wwws.warnerbros.co.jp/hakobiyamovie/
場所:109シネマズ菖蒲

クリント・イーストウッドも88歳になって、いったいどんな映画を撮るんだろう? って期待していたら、とてもこじんまりとした映画を用意してきた。いや、もちろん、これはこれで素晴らしいのだけれど、その内容がクリント・イーストウッドの生きてきた人生を彷彿とさせるストーリーなので、どんなに才能のある人間と云えども、人生も最晩年に来たら家族に対する贖罪の念が湧き上がるものなのかと、その「人並み」なことに嬉しくもあり、がっかりでもあり、複雑なおもいの入り交じる映画になってしまった。

109シネマズ菖蒲でこの映画を観ていたとき、クリント・イーストウッドが余命いくばくもない妻役のダイアン・ウィーストを見舞ったシーンで、ぷっつりとシャットダウンしてしまった。停電だった。クリント・イーストウッドにとってこの映画の中で一番大切なシーンだったような気もするけど、それを拒否するかのように切れてしまったのは、もしかするとこちらのおもいが電波したんじゃないのかと鳥肌が立ってしまった。

→クリント・イーストウッド→クリント・イーストウッド→アメリカ/2018→109シネマズ菖蒲→★★★☆

グリーンブック

監督:ピーター・ファレリー
出演:ヴィゴ・モーテンセン、マハーシャラ・アリ、リンダ・カーデリーニ、ディメター・マリノフ、マイク・ハットン、イクバル・セバ、セバスティアン・マニスカルコ、ファン・ルイス、P・J・バーン
原題:Green Book
制作:アメリカ/2018
URL:https://gaga.ne.jp/greenbook/
場所:109シネマズ木場

ピーター・ファレリー監督の『グリーンブック』を観終わってすぐに、岩波現代文庫から出ている藤本和子著「塩を食う女たち――聞書・北米の黒人女性」を読み始めた。その本の最初の「生き残ることの意味 はじめに」に以下のように書いてあった。

わたしは黒人が「生きのびる」という言葉を使うときには、肉体の維持のことだけをいっているのではないと感じていた。「生きのびる」とは、人間らしさを、人間としての尊厳を手放さずに生き続けることを意味している。敗北の最終地点は人間らしさを捨てさるところにあると。

『グリーンブック』の中でマハーシャラ・アリが演じているピアニストのドン・シャーリーはまさに「人間としての尊厳」を手放さずに生きている黒人だった。実際のドン・シャーリーの育った環境は、奴隷としてアメリカに連れてこられた黒人の子孫とは違うのかもしれないけれど、黒人のDNAにある「人類の進化形」としての肉体的、そして精神的なたくましさからくるのであろう「人間としての尊厳」をどんなときにも維持し続けて生きている人物だった。

ドン・シャーリー役のマハーシャラ・アリの演技は、彼が画面に現れるだけでピンと背筋の立つオーラを発散させていて、品性の欠けるイタリアンを演じているヴィゴ・モーテンセンとのアンバランスさが緊張感を高めていると同時に、両極端の人間のあいだに起こりつつある化学変化に興味が引きつけられてしまう巧い映画だった。その巧さがちょっと鼻につくような気もするけど、まあ、それは贅沢な話だ。

→ピーター・ファレリー→ヴィゴ・モーテンセン→アメリカ/2018→109シネマズ木場→★★★★

ファースト・マン

監督:デイミアン・チャゼル
出演:ライアン・ゴズリング、クレア・フォイ、ジェイソン・クラーク、カイル・チャンドラー、コリー・ストール、クリストファー・アボット、キーラン・ハインズ
原題:First Man
制作:アメリカ/2018
URL:https://firstman.jp
場所:池袋HUMAXシネマズ

トム・ウルフが「ザ・ライト・スタッフ」でアメリカにおける宇宙計画の最初の七人(アラン・シェパード、ガス・グリソム、ジョン・グレン、ゴードン・クーパー、ウォルター・シラー、スコット・カーペンター、ディーク・スレイトン)の功績を描いたあとに、そのエピローグで「つぎの九人」と表現したジェミニ計画以降の宇宙飛行士たちが受けるだろう大衆の変化(つまり熱狂が過ぎ去った後のシビアな感情の芽生え)についてさらりと触れていた。そこを読んだときに、すでに月面着陸成功の大熱狂のニュースしか知らない自分にとっては、その意味することが何なのかいまいちピンとこなかった。

デイミアン・チャゼル監督が撮った人類初の月面着陸を成功させたニール・アームストロングの映画を観て、ああ確かに、相次ぐ実験の失敗、宇宙飛行士の死、湯水のように使うお金、そしてさらにベトナム戦争の泥沼化、公民権運動の激化などの時代背景から、すでに宇宙飛行士たちが受けるだろう風が逆風に転じていることをトム・ウルフの文章から察するべきだった。

だからトム・ウルフの原作を映画化したフィリップ・カウフマンの『ライトスタッフ』がチャック・イエーガーを崇める七人の使徒のような寓話として宇宙計画を描いていたのに対して、今回の『ファースト・マン』がやたらと暗く、精神的に圧迫されていて、閉塞感が漂う映画になるのは当然のことだったのかもしれない。『ライトスタッフ』が大好きな自分にとっては、その落差を埋めるのにちょっと苦労したけれど、ああでも、これはこれでとても面白かった。

アポロ11号の成功があまりにも出来すぎていたので、本当に成功していたのか? の陰謀論が出てしまうのもうなづけてしまう。当時はそれだけアポロ計画への風当たりは強く、成功せざるを得ない状況に追い込まれていた。そんな中で月面着陸を成功させたニール・アームストロングの凄さは計り知れない。デイミアン・チャゼル監督はニール・アームストロングの孤独な戦いを彼の規格外の人間的性も含めてよく描いていた。

→デイミアン・チャゼル→ライアン・ゴズリング→アメリカ/2018→池袋HUMAXシネマズ→★★★★

監督:ヨルゴス・ランティモス
出演:オリヴィア・コールマン、エマ・ストーン、レイチェル・ワイズ、ニコラス・ホルト、ジョー・アルウィン、マーク・ゲイティス、ジェームズ・スミス
原題:The Favourite
制作:アイルランド、イギリス、アメリカ/2018
URL:http://www.foxmovies-jp.com/Joouheika/
場所:Movixさいたま

ヨルゴス・ランティモスの映画はいつも人間の不気味さ、気持ち悪さを前面に押し出してくる。不快感を感じずにはいられない描写が多い。でも、実際の人間が綺麗なものかと云えば、よくよく考えるとそうじゃない。汚いものだ。その汚いものを直視させてくれているわけだから、感謝しこそすれ嫌悪すべきではない、とはおもう。映画を観ると云う行為は、汚い現実を逃避するために綺麗なものだけを観たいと云う側面は確かにあるのだけど、そればっかりだと飽きてしまうので、ヨルゴス・ランティモスの映画のようなものが時にはあるとすこぶる面白く感じてしまう。

『女王陛下のお気に入り』のオリヴィア・コールマンが演じたアン女王も醜かった。感情の起伏が激しく、肥満のうえに痛風持ちで一人では十分に歩けず、6回の死産、6回の流産を経験したことからか精神的にも破綻をきたしているように見える人物だった。まさに、ヨルゴス・ランティモスが題材に選ぶにふさわしい人物で、オリヴィア・コールマンにとってもアカデミー主演女優賞を獲るためにあるようなおいしい役柄だった。

なぜだか嘔吐のある映画に面白い映画が多く、誰だかTwitterで「ゲロ映画にハズレなし」と云っていたことに全面的に同意したのだけれど、この映画もそうなるかとおもいきや、ああ、やっぱりエマ・ストーンが個人的にダメだ。いや、この役柄はもっと華奢で可憐だけど野心むき出しのギャップを出せる女優のほうがが良かったんじゃないかなあ。エル・ファニングとか。

→ヨルゴス・ランティモス→オリヴィア・コールマン→アイルランド、イギリス、アメリカ/2018→Movixさいたま→★★★☆

競馬場

監督:フレデリック・ワイズマン
出演:ニューヨーク・ベルモント競馬場のひとびと
原題:Racetrack
制作:アメリカ/1985
URL:
場所:アテネ・フランセ文化センター

競馬の世界をカメラへ収めようとしたときに、馬の交尾からはじめるのは交配こそがすべての競馬の世界(ゲーム「ダービースタリオン」で習った)では当然のことかもしれないけれど、フレデリック・ワイズマンはそこから入るのか、と驚いたと同時に嬉しくなってしまった。そう考えると、競馬の世界にはさまざまな人たちが数多く関わっていて、大きなお金が動く世界だからこそ政治的な人々も登場してきて、1976年の『肉』や1980年の『モデル』とはまた違ったビッグビジネスを描いた業界ドキュメンタリーだった。おそらくは日本の競馬の世界もアメリカのものとそんなに違わないんじゃないかともおもえて、そこにもまたフレデリック・ワイズマンのドキュメンタリーの時代や場所を超越した普遍的な側面も見えて面白かった。

→フレデリック・ワイズマン→ニューヨーク・ベルモント競馬場のひとびと→アメリカ/1985→アテネ・フランセ文化センター→★★★☆

少年裁判所

監督:フレデリック・ワイズマン
出演:テネシー州メンフィスにあるメンフィス少年裁判所616のひとびと
原題:Juvenile Court
制作:アメリカ/1973
URL:
場所:アテネ・フランセ文化センター

今回のフレデリック・ワイズマンはテネシー州メンフィスにある少年裁判所が舞台。そのカメラに映る少年、少女たちは一様にしてどこか弱々しく、責任をたえず誰かに転嫁していて、しっかりと地に足がついている感じのしない幽霊のような人間ばかりだった。これって、最近の日本のニュースに登場する少年、少女の犯罪者とまったく同じなんじゃないかと考えてしまう。場所や時代や人種や宗教が違えども、少年犯罪の多くの原因が肉親との関係にあるのだろうから、アメリカでも日本でも少年犯罪者の心理には共通のものがあるのかもしれない。そう考えると、やはりフレデリック・ワイズマンのドキュメンタリーは、どの国のどの時代に観ても、その時々の社会問題にぴたりと寄り添ってくる。この凄さをどのように表現して良いかもわからないほどにスゴイ!

→フレデリック・ワイズマン→テネシー州メンフィスにあるメンフィス少年裁判所616のひとびと→アメリカ/1973→アテネ・フランセ文化センター→★★★☆