監督:マーティン・マクドナー
出演:フランシス・マクドーマンド、ウディ・ハレルソン、サム・ロックウェル、ジョン・ホークス、ピーター・ディンクレイジ、アビー・コーニッシュ、ルーカス・ヘッジズ、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ
原題:Three Billboards Outside Ebbing, Missouri
制作:アメリカ/2017
URL:http://www.foxmovies-jp.com/threebillboards/
場所:シネ・リーブル池袋

今年のアカデミー作品賞は、前評判ではマーティン・マクドナー監督の『スリー・ビルボード』が獲るような勢いだったけれど、でも、ふたを開けてみたらギレルモ・デル・トロ監督の『シェイプ・オブ・ウォーター』にかっさわれてしまった。それぞれの部門でも、主要部門とは云え主演女優賞のフランシス・マクドーマンドと助演男優賞のサム・ロックウェルの二つしか獲れなかった。

で、実際に映画を観てみると、まあ、これは個人の好みでしかないのだけれど、レイプされて焼き殺された娘の母親が進展しない犯人捜査に業を煮やして、

RAPED WHILE DYING(レイプされて殺されたのに)

AND STILL NO ARRESTS?(まだ逮捕されないなんて)

HOW COME, CHIEF WILLOUGHBY?(どうして、ウィロビー署長?)

の文字を書いた3つの大きな看板を出すワンシチュエーションで展開する『スリー・ビルボード』のほうが『シェイプ・オブ・ウォーター』よりも面白かった。

娘を殺された怒りから、そして殺される前に娘へ発した暴言に対する自責の念も加わって、めちゃくちゃに暴走する母親役のフランシス・マクドーマンドがかっこよかった。これだったら主演女優賞も納得できる。

今まで平凡に暮らして来た人が犯罪被害者の肉親であることから、世間の矢面に立って活動家に変貌する人を数多く見てきたけれど、もしかするとそれは誰にでも当てはまるのかなあ。自分もそうなるんだろうか? フランシス・マクドーマンドのように警察署に火炎瓶を投げ込むまでに怒りを持続できるのか、それはちょっと疑問だけど。

フランシス・マクドーマンドに反発しながらも最後は犯人捜査を手助けして行くことになるディクソン巡査役のサム・ロックウェルや、この母親にしてこの子ありをうまく表現しているサム・ロックウェルの母親役のサンディ・マーティン、そして『スウィート17モンスター』に続いて素晴らしかったウィロビー署長役のウディ・ハレルソンなど、やっぱり脇役が充実していると映画は面白い。

→マーティン・マクドナー→フランシス・マクドーマンド→アメリカ/2017→シネ・リーブル池袋→★★★★

監督:ギレルモ・デル・トロ
出演:サリー・ホーキンス、マイケル・シャノン、リチャード・ジェンキンス、ダグ・ジョーンズ、マイケル・スタールバーグ、オクタヴィア・スペンサー
原題:The Shape of Water
制作:アメリカ/2017
URL:http://www.foxmovies-jp.com/shapeofwater/
場所:109シネマズ菖蒲

先日発表された第90回アカデミー賞の作品賞を獲ったギレルモ・デル・トロ監督の『シェイプ・オブ・ウォーター』を期待しながらも、それでいてギレルモ・デル・トロ作品とのいつもの肌の合わなさから期待するのは危ないと云う気持ちも半分持ちながら観に行った。

話すことのできないサリー・ホーキンスが映画館の上に住んでいて、たえず上映されている映画の音が部屋に漏れ聞こえてくる設定はとても映画オタクの心をくすぐるし、シャーリー・テンプルとビル・ボージャングル・ロビンソンやベティ・グレイブル、アリス・フェイが出てくる白黒映画が画面に現れるとちょっと鳥肌が立ったけど、ストーリーそのものに工夫がないと云うか、ひとつもふたつも調味料が足りなくて、映画としての味に深みがなかった。サリー・ホーキンスが「彼」に惹きつけられる理由がやっぱり弱いよなあ。なにか「彼」に魅力を感じる決定的な要素がひとつ欲しかった。それに、悪役のマイケル・シャノンにもまったく魅力がなかったのは、この手のパターンの映画としては致命的だった。

黒人、女性、LGBTなどへの差別をなくそうとする機運が高まりつつある時代の流れの中での、それとぴったりとマッチした作品としてのアカデミー作品賞と云う図式はよくわかるのだけれど。

→ギレルモ・デル・トロ→サリー・ホーキンス→アメリカ/2017→109シネマズ菖蒲→★★★

監督:吉田大八
出演:錦戸亮、木村文乃、北村一輝、優香、市川実日子、水澤紳吾、田中泯、松田龍平、中村有志、安藤玉恵、細田善彦、北見敏之、松尾諭、山口美也子、鈴木晋介、深水三章
制作:映画『羊の木』製作委員会/2018
URL:http://hitsujinoki-movie.com
場所:109シネマズ菖蒲

クリント・イーストウッドの『15時17分、パリ行き』かギレルモ・デル・トロの『シェイプ・オブ・ウォーター』を観ようとしたら、どちらも公開が始まったばかりなので、まだ株主優待カードが使えなかった。なので、なんとなく観たかった吉田大八監督の『羊の木』を選択。

『羊の木』は、山上たつひこ原作、いがらしみきお作画の漫画の映画化だった。

元受刑者を地方都市に移住させる国の極秘更正プロジェクトのために、過去に殺人事件を犯した男女6人を受け入れることとなった富山県の魚深(うおぶか)市(架空の市)の市職員が巻き込まれる顛末。と云うストーリーをどのように受け入れたらいいのか、その大前提が難しかった。もし自分が元受刑者と職場環境などを共にすることになったのなら、その人の更生しようとする気持ちをむやみにふみにじってはならないと云う気持ちと、また犯罪を繰り返すのではないかと疑う気持ちがぶつかって、とてもデリケートな状態のまま苦しむことになるんじゃないかと想像してしまう。だから、そこの部分をサスペンス仕立てのドラマとして見せられても、どんな顔して映画を観ればいいのか最後までわからなかった。やるんだったら、もっとハチャメチャにしてくれていたら、かえって吹っ切れて楽しめたかもしれなかったのに。

でも松田龍平は、『ブラック・レイン』の松田優作を思い出させてくれて、とても良かった。

→吉田大八→錦戸亮→映画『羊の木』製作委員会/2018→109シネマズ菖蒲→★★★

監督:ルイス・ブニュエル
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、フェルナンド・レイ、フランコ・ネロ、ロラ・ガオス、アントニオ・カサス
原題:Tristana
制作:フランス/1970
URL:
場所:角川シネマ有楽町

先日のシアター・イメージフォーラムでのルイス・ブニュエル特集上映に続いて、角川シネマ有楽町で開催された「華麗なるフランス映画」特集上映でのラインナップの中にルイス・ブニュエル監督の『哀しみのトリスターナ』があったので、それだけを狙い撃ちで観に行った。

『哀しみのトリスターナ』はシアター・イメージフォーラムで観た『ビリディアナ』に全体的な雰囲気がそっくりだった。それもそのはず、映画の原作者は両方ともベニート・ペレス・ガルドスだった。ベニート・ペレス・ガルドスはスペイン本国では国民的作家と讃えられているそうだけれど、英語圏ではそれほど読まれていない(Wikipediaより)そうで、邦訳された作品は「トラファルガル」(朝日出版社、1975年)、「マリアネラ」(彩流社、1993年)、「フォルトゥナータとハシンタ:二人の妻の物語」(水声社、1998年)、「ドニャ・ペルフェクタ 完璧な婦人」(現代企画室、2015年)くらいだそうだ。

ただ、2つの映画がそっくりに見えたのは、年老いた男が若い女に手を出してしまう部分だけで、その年老いた男を両方ともフェルナンド・レイが演じているからだった。ラストに向かって反宗教的な描写を見せて行く『ビリディアナ』に対して、さらに年老いた男と若い女のあいだの愛憎関係に焦点を当てているのが『哀しみのトリスターナ』だった。年老いたフェルナンド・レイに従属的に支配されていた無垢なカトリーヌ・ドヌーヴが病気で片足を切断することをきっかけに、かえって介護されている女が次第に歳を取って衰えを見せる年上の男を支配して行く逆転現象がとても怖かった。カトリーヌ・ドヌーヴの女優としての資質は、人間としての得体の知れない怖さを見せられるところだなあ。これが中原昌也が云うところのカトリーヌ・ドヌーヴの「うざさ」につながるのか?

→ルイス・ブニュエル→カトリーヌ・ドヌーヴ→フランス/1970→角川シネマ有楽町→★★★☆

監督:王兵(ワン・ビン)
出演:
原題:苦銭/Bitter Money
制作:フランス、香港/2016
URL:http://www.moviola.jp/nigai-zeni/
場所:シアター・イメージフォーラム

王兵(ワン・ビン)監督のドキュメンタリー映画を観ると、何気ない日常にカメラが向いているだけなのに、なぜかその描写にくぎずけになってしまう。それは『鉄西区』の線路の上をひた走る鉄道であったり、『鳳鳴 中国の記憶』の滔々と過去を語る鳳鳴(フォンミン)の顔であったり。今回の『苦い銭』でも、故郷の雲南省から遠く離れた浙江省湖州市(上海の近くにある市)へと出稼ぎに向かう姉妹がバス、鉄道、車と乗り継いでいるだけの描写なのに、いつの間にか彼女らの視線と同化して、どっぷりと映画の中に引き込まれてしまう。それは王兵(ワン・ビン)監督の被写体へ向ける視線に絶えず真摯な眼差しがあるからなんだろうとおもう。過度のドラマティックさを追求するわけでもなく、おいしい「画」を撮ろうと努力するわけでもなくて、被写体にそっと寄り添うように、そこにただカメラの視線があるだけの撮影方法に知らず知らずのうちに共感しているからなんだろうとおもう。

中国経済の実態が田舎からの出稼ぎ労働者で成り立っていることは、なんとなくそうだろうなあ、とはおもっていたけれど、実際にドキュメンタリーの映像で見せられると強烈だった。朝の7時から夜中の12時までミシンの前で縫製させられているなんて、産業革命の時に炭鉱労働をさせられる年端もいかない子供たちと同じような人権問題のレベルなんじゃないのかなあ。今後、日本で洋服を買ったときに、そこに「Made in China」と書いてあったのなら、絶対にこの映画に出てきた女性たちの顔をおもい出すとおもう。

しかしあれだけ立派な車が走っていたり路駐していたりするのに、道端にゴミが散乱していると云うアンバランスさが今の中国だなあ。

→王兵(ワン・ビン)→→フランス、香港/2016→シアター・イメージフォーラム→★★★★

監督:ギリーズ・マッキノン
出演:グレゴール・フィッシャー、ナオミ・バトリック、エリー・ケンドリック、エディ・イザード、ショーン・ビガースタッフ、ブライアン・ペティファー、ケビン・ガスリー、ジェームズ・コスモ、ジョン・セッションズ、ティム・ピゴット=スミス、フェネラ・ウールガー
原題:Whisky Galore
制作:イギリス/2016
URL:http://www.synca.jp/whisky/
場所:新宿武蔵野館

スコットランドを舞台にした映画と云えば真っ先にビル・フォーサイスの映画をおもい出す。1986年に日本でも公開された『ローカル・ヒーロー 〜夢に生きた男〜』に続いて1987年に公開された『シルビーの帰郷』の二本で強烈な印象を残して、そのまま疾風のように消え去ってしまった。1999年に1980年に撮った『グレゴリーズ・ガール』の続編『Gregory’s Two Girls』を撮ったきり、その後は映画を撮ってないようだ。

ビル・フォーサイス監督『ローカル・ヒーロー 〜夢に生きた男〜』の面白さは、スコットランドに住む人々のキャラクターの豊かさにあったようにおもう。田舎特有の素朴さを持ちながら、ちょっとずる賢くて抜け目のない住民たち。彼らが徒党を組んで一つのうねりをなすさまは異様にも見えるけど、団結力の強さを持ち合わせているようにも見える。そしてその集団に与しないものに対してもネチネチと嫌がらせをするわけでもなくて一定の理解力を見せているところが、映画全体にほんわかとしたゆる〜い印象を与えていた。

ギリーズ・マッキノン監督の『ウイスキーと2人の花嫁』はそのビル・フォーサイス監督の『ローカル・ヒーロー 〜夢に生きた男〜』に雰囲気がちょっと似ていた。

スコットランドのトディー島の住民たちは、第二次世界大戦中に配給の途絶えたウィスキーが飲みたくて、そして郵便局長ジョセフの長女ペギーと次女カトリーナの結婚式にはウィスキーが不可欠ではないかと、折良く近くの海岸に座礁した貨物船からウィスキーを盗み出してしまう。島の中で戦時中の自警団を組織する堅物のワゲット大尉は、住人たちの不穏な行動を訝しんで捜査にかかるも手がかりは掴めず。さらに座礁した船にはもう一つの宝物が眠っていて、それを巡っての駆け引きも加わってのほんわか、ゆる〜い大騒動。この感じは、そうだ、昔のイーリング・スタジオの映画にも似ている!(調べると、この『ウイスキーと2人の花嫁』(原題:Whisky Galore)は1949年にアレクサンダー・マッケンドリック監督が撮った『Whisky Galore』のリメイクだった)

手旗信号の得意な少年とか、ざっくばらんな島の牧師とか、ちょっとしたキャラクターが豊富なのも良い! なかでも堅物ワゲット大尉の奥さんが素晴らしかった。あたふたしている夫を尻目にゆっくりとビリヤードをしているし、夫の「あの音はなんだ!」の問いかけに「私、耳が悪いの」と我関せず。フェネラ・ウールガーと云う女優だそうだ。

→ギリーズ・マッキノン→グレゴール・フィッシャー→イギリス/2016→新宿武蔵野館→★★★☆

監督:ジム・シェリダン
出演:ヴァネッサ・レッドグレイヴ 、ルーニー・マーラ、エリック・バ、テオ・ジェームズ、エイダン・ターナー、ジャック・レイナー、スーザン・リンチ、トム・ヴォーン=ローラー
原題:The Secret Scripture
制作:アイルランド/2016
URL:http://rose.ayapro.ne.jp
場所:新宿武蔵野館

考えてみると、第二次世界大戦時中のアイルランドの立ち位置をよく理解していなかった。もちろんアイルランドがイギリスと歩調を合わせるわけがなくて、かと云ってナチスドイツに組みするわけでもない。となると必然と中立な立場になってたはずだけど、なかにはナチスドイツへの反発からかイギリスの軍隊に入るアイルランド人もいたようだ。でも、そのようなイギリスに味方する人間に対して「裏切り者」と云うレッテルを貼ってリンチまで行うようなアイルランド人(アイルランド共和軍の人間)がいたことをうっかりと見落としていた。

ジム・シェリダン監督の『ローズの秘密の頁』は、伯母の家へ居候しにやってきたローズ(ルーニー・マーラ)がイギリス空軍に入隊した男に好意を寄せたことから始まった悲劇だった。この二人のあいだにアイルランド共和軍の人間たちが割って入り、さらに聖職者とはおもえないくらいに感情をあらわにする若いカソリックの神父が、プロテスタントであるローズに対して好意を寄せてしまうことから、まるでこの時期のアイルランドとイギリスの関係のような複雑な境遇がローズの人生に重くのしかかってしまう。そして、その入り乱れた人間模様の中で「重大な悲劇」が起きてしまう。

この映画は、精神病院に40年以上も入院している年老いたローズ(ヴァネッサ・レッドグレイヴ)のところに新しい精神科医が面会に来たことによって、彼女が歩んで来た過去が徐々に明らかになって行く形式をとっている。で、最後に、ローズが精神病院に入ることになってしまう「重大な悲劇」の真相が明らかになるんだけど、そこへの道筋がちょっと唐突すぎたような気もする。もうちょっと伏線があったら良かったのに。

→ジム・シェリダン→ヴァネッサ・レッドグレイヴ→アイルランド/2016→新宿武蔵野館→★★★

監督:大九明子
出演:松岡茉優、北村匠海、渡辺大知、石橋杏奈、趣里、前野朋哉、古舘寛治、片桐はいり
制作:映画「勝手にふるえてろ」製作委員会/2017
URL:http://furuetero-movie.com
場所:109シネマズ菖蒲

綿矢りさの小説が原作の大九明子監督による『勝手にふるえてろ』がTwitter上でなんとなく評判が良いので、まずは新宿のシネマカリテへ観に行ったら意外にも、満席です! と云われてしまって、おもわず、ひゃー! と声が出てしまったのが先々週の土曜日。その次の週もネットで席をウォッチしていたらみるみるうちに席が埋まってしまってSOLD OUT。(800円で観られる優待券を持っているのでネット購入ができない!)そうこうするうちに109シネマズ菖蒲でも公開がはじまって、こっちではタダで観られる株主カードを持ってるうえに、菖蒲なんて田舎では満席になるはずもなく、やっと念願の『勝手にふるえてろ』を観ることができた。

綿矢りさの小説に登場する(と云っても綿矢りさを読んだことがない)めんどくさい女が主人公の映画なんだけど、高校生の時から一途におもい続けている男にするのか、それとも今勤めている会社の同僚で妥協するのか、二者択一(「イチ」にするのか「ニ」にするのか)の内面の葛藤をとても多彩に映像化していて、まったくもって他人へのおもいやりにかける自己中心的な世界を傍若無人に展開しているのにすこぶる面白かった。ただ、それを誰が演じるかによって観る人にとっては不快な映画にも写ってしまうのだろうけれど、『桐島、部活やめるってよ』や「あまちゃん」の頃から気に入っている松岡茉優が主人公で良かった。ちょっとハードルを上げて観に行ったのに、それを楽々と越えた素晴らしい出来栄えの映画だった。大九明子と云う名前は覚えておこう。

→大九明子→松岡茉優→映画「勝手にふるえてろ」製作委員会/2017→109シネマズ菖蒲→★★★★

監督:キャスリン・ビグロー
出演:ジョン・ボイエガ、ウィル・ポールター、アルジー・スミス、ジェイコブ・ラティモア、ジェイソン・ミッチェル、ハンナ・マリー、ケイトリン・ディーヴァー、ジャック・レイナー、ベン・オトゥール、ジョン・クラシンスキー、アンソニー・マッキー、ジョセフ・デヴィッド=ジョーンズ、イフラム・サイクス、レオン・トーマス3世、ネイサン・デイヴィス・Jr、ペイトン・アレックス・スミス、マルコム・デヴィッド・ケリー、ベンガ・アキナベ、クリス・チョーク、ジェレミー・ストロング、ラズ・アロンソ、オースティン・エベール、ミゲル・ピメンテル、クリストファー・デイヴィス、サミラ・ワイリー、タイラー・ジェームズ・ウィリアムズ 、グレン・フィッツジェラルド
原題:Detroit
制作:アメリカ/2017
URL:http://www.longride.jp/detroit/
場所:109シネマズ菖蒲

1967年7月23日から27日にかけて起きた「デトロイト暴動」の最中に発生した「アルジェ・モーテル事件」を描いた映画。

1964年に公民権法が制定されて黒人に対する差別撤廃の機運が高まりつつも、その根に脈々と根付いてしまった差別感情は簡単に払拭できるはずもなく、自分の境遇に対しての不満があればあるほどマイノリティへの攻撃が過激になってしまう状況は、なんだか、この2018年の状況とそんなに変わってないんじゃないのかあ、とおもいながら観てしまった。この映画で描かれた「デトロイト暴動」のあとの1992年には「ロサンゼルス暴動」が起きたし、映画界では最近でも黒人俳優が差別されてんじゃないのか、なんてことも話題になったし、日本でもSNSでのレイシズムが大きな問題になったりして、人種差別には越えられない高い壁が今もって存在しているのがなんとももどかしい。

でも、そんな虐げられた人たちの「負」のパワーが「正」に転じれば、ハングリー精神とも呼ばれる絶大なるパワーを伴って人種偏見をも超越したスーパースターが生まれることも事実だし、もしその反転するパワーがなければ味気ない世の中になってしまうのは必至のようにもおもえるし、またまたジレンマに悩まされてしまう。

キャスリン・ビグロー監督は「アルジェ・モーテル事件」に巻き込まれたミュージシャンにも焦点を当てつつ、デトロイトで生まれた「モータウン」レーベルの華やかな世界と貧しい黒人たち、そしてブルーカラーにも見えるデトロイト市警の警官たちをコントラスト鮮やかに浮かび上がらせていた。そして、前作の『ゼロ・ダーク・サーティ』でも見せた手持ちカメラ映像の細かいモンタージュが実際にその場にいるような緊迫感を生んで、まるでドキュメンタリーの映像を見ているかのようだった。だからとても疲れた。でも素晴らしい映画だった。

→キャスリン・ビグロー→ジョン・ボイエガ→アメリカ/2017→109シネマズ菖蒲→★★★★

監督:リテーシュ・バトラ
出演:ジム・ブロードベント、シャーロット・ランプリング、ミシェル・ドッカリー、ハリエット・ウォルター、エミリー・モーティマー、ビリー・ハウル、ジョー・アルウィン、フレイア・メイバー、マシュー・グード
原題:The Sense of an Ending
制作:イギリス/2017
URL:http://longride.jp/veronica/
場所:新宿武蔵野館

2011年のブッカー賞を受賞したジュリアン・バーンズの小説「終わりの感覚」をインドのリテーシュ・バトラ監督が映画化。

小説「終わりの感覚」の日本での発行元である新潮社のページの紹介文には、

歴史とは、不完全な記憶と文書の不備から生まれる確信である――。二十代で自殺した親友の日記が、老年を迎えた男の手に突然託される。それは、別れた恋人の母親の遺言だった。男は二十代の記憶を懸命に探りつつ、かつての恋人を探しあてるが……。記憶の嘘が存在にゆすぶりをかけるさまをスリリングに描くバーンズの新境地。

とあった。映画もまさに「歴史とは、不完全な記憶と文書の不備から生まれる確信である――。」がキーとなる映画だった。

自分の記憶を遡った時も、果たしてその記憶が実際に起こった事象だったのか、それとも後から良い側面だけを、または悪い側面だけが強調されて改ざんされてしまった事象なのかわからなくなってしまうことがある。自分の場合は都合の悪い記憶ほどそれが緩和されて綺麗にならされる傾向にあるようだ。でもすでに事実を確かめる術はないし、何かしらの証拠が出て来たとしてもそれは切り取られた一つの側面でしかないので、たとえ今の時代のようにInstagramやYoutubeに写真や動画が残っていたとしてもやはりおんなじ事だろうとおもう。

リテーシュ・バトラ監督は、そのような儚い人間の記憶のあやを繊細に描き出していた。もうすでに人生の晩年に差し掛かっているだろう人間が、知らず知らずのうちに封印してしまった自分の暗い過去を再び見つめ直すことによって、まだまだ人間としての成長を見せる可能性を示すラストが良かった。

→リテーシュ・バトラ→ジム・ブロードベント→イギリス/2017→新宿武蔵野館→★★★☆