監督:マシュー・ヴォーン
出演:タロン・エガートン、コリン・ファース、ジュリアン・ムーア、マーク・ストロング、ハル・ベリー、エルトン・ジョン、チャニング・テイタム、エドワード・ホルクロフト、ハンナ・アルストロム、エミリー・ワトソン、ジェフ・ブリッジス
原題:Kingsman: The Golden Circle
制作:イギリス/2017
URL:http://www.foxmovies-jp.com/kingsman/
場所:ユナイテッド・シネマ浦和

007(ダブルオーセブン)のようなイギリス風味のスパイ映画を最近のVFX、CG技術を駆使して大胆にカリカチュアした映画が前作の『キングスマン』だった。「ゴールデン・サークル」はその続編。

映画のオープニングからロンドンタクシー(本当に使われているものではなくオリジナルの車種らしい)のカーチェイスがすごかった。VFXを使ったカーチェイスはすでにいろんな映画で使われていて見飽きてはいるんだけど、マシュー・ヴォーンのアクションのイメージがいつもながら素晴らしい! カメラのポジションや視点移動のダイナミックさ、アクションの意外性やその大胆さ、シーンの最終的な落ち着きどころの心地良さ。どれもが他の映画とは一線を画している。マシュー・ヴォーンが作り出すアクションシーンを見るだけでもこの映画を見るに充分な理由になり得ている。

そして、このようなカリカチュアした映画には、いつも以上に強烈な個性を持つ悪役も不可欠だ。だからそれなりの役者が必要になる。でもそれが男優ならば、どんなに個性のある俳優を持って来ても、その俳優の持つ枠からはみ出して意外性を出すのはなかなか難しい。いや、かえってネームバリューが邪魔をして、まあ、そんな感じだよね、になってしまう。ところが女優となると、たとえ美人ではない個性的な役者であっても底辺には女性の「しなやかさ」があるので、気の狂ったマッドさを強調すればするほど意外性が出てくる。それを嬉々として演じている女優を見るのも楽しい。最近で云えば『マイティ・ソー バトルロイヤル』のケイト・ブランシェットとか、純粋な悪役ではないかもしれないけれど『パーティで女の子に話しかけるには』のニコール・キッドマンとか。今回のジュリアン・ムーアも楽しそうだった。

また続編もあるだろうなあ、楽しみだ。マーリンが死んじゃったけど。

→マシュー・ヴォーン→タロン・エガートン→イギリス/2017→ユナイテッド・シネマ浦和→★★★☆

監督:ライアン・ジョンソン
出演:マーク・ハミル、キャリー・フィッシャー、アダム・ドライバー、デイジー・リドリー、ジョン・ボイエガ、オスカー・アイザック、ドーナル・グリーソン、ケリー・マリー・トラン、ローラ・ダーン、ベニチオ・デル・トロ、フランク・オズ
原題:Star Wars: The Last Jedi
制作:アメリカ/2071
URL:http://starwars.disney.co.jp/movie/lastjedi.html
場所:109シネマズ木場

「スター・ウォーズ」もエピソード8にまで来て、ついにラストへと向かう道筋が示されるのか! と期待するところなのに、いまひとつ乗り気にならないし、そんなに期待も出来ないし、どうして「スター・ウォーズ」シリーズがここまで自分にとってどうでも良いものになってしまったんだろう。責任者に問い質したい。

で、観てみたら、案の定、文句しか出てこない。今回の最後の三部作が最初の三部作(つまりエピソード4、5、6)の写し鏡のような構造になっているのは良いアイデアだとおもうけど、だったら、三部作の中間に位置するこの『最後のジェダイ』は『帝国の逆襲』のようにスパッと次に繋げるような終わらせ方をして、乞うご期待! にするべきだった。まあ、よくもグダグダと2時間30分も尺を使いやがって。責任者に問い質したい。

それから、可愛らしい表情を見せる小動物エイリアンを出しすぎ! そんなのいらん! 責任者に問い質したい。

それからそれから、何だあの、、、、いやいや、これをやると容姿の攻撃になってしまうのでもうやめます。

→ライアン・ジョンソン→マーク・ハミル→アメリカ/2071→109シネマズ木場→★★

監督:ルイス・ブニュエル
出演:シルビア・ピナル、エンリケ・ランバル、ルシー・カジャルド、ジャクリーヌ・アンデレ、アウグスト・ベネディコ、ベルタ・モス、オフェリア・モンテスコ、クラウディオ・ブルック
原題:El ángel exterminador
制作:メキシコ/1962
URL:
場所:シアター・イメージフォーラム

今回のシアター・イメージフォーラムでのルイス・ブニュエル特集上映で一番観たかった映画。

豪荘な屋敷に集まった数十名の上流階級の男女が目に見えぬ力に縛られてその邸から外に出られなくなると云う設定は、現実世界では起こりえないことでありながら、まるで自分が夢でよく見るようなシチュエーションなので、なんでだろう、とてもリアルに感じられて、ブニュエルが得意なシュールな映画とはまったくおもえなかった。夢の中に出てくる、行きたくても行けない、出たくても出られない、ってのは、夢判断でどんな意味があるんだろう? やっぱり色々なしがらみに束縛されている結果なんだろうなあ。ああ、つまり、ブニュエルが描こうとしていたことは、そんなことだったのかもしれない。お金は無いかもしれないけれどフットワークの軽い使用人よりも、しがらみやしきたりや、ねたみ、そねみに支配されているのが金持ちなんでしょう。

映画が終わった後に、ケラリーノ・サンドロヴィッチと佐々木敦のトークがあって、佐々木敦がこの映画を評してどのようなことを云うのかとても興味があったけど、用事があったために泣く泣く帰ることに。残念。

→ルイス・ブニュエル→シルビア・ピナル→メキシコ/1962→シアター・イメージフォーラム→★★★★

監督:トム・フォード
出演:エイミー・アダムス、ジェイク・ジレンホール、マイケル・シャノン、アーロン・テイラー=ジョンソン、アイラ・フィッシャー、アーミー・ハマー、ローラ・リニー
原題:Nocturnal Animals
制作:アメリカ/2016
URL:http://www.nocturnalanimals.jp
場所:渋谷シネ・パレス

コーエン兄弟の『ノーカントリー』を観たとき、映画を通して発散される暴力の匂いにぐったりと疲れてしまった。でもそれは映画としての魅力を発揮していることに相違なくて、爽やかなハッピーエンドとは対極にありながらとても面白い映画だった。

トム・フォードの『ノクターナル・アニマルズ』は、映画の中での現実とそこで読まれる小説の虚構がシンクロする不思議なドラマだった。で、その小説で展開される暴力が異様な緊迫感を生んで、それが主人公の現実の生活にまで及んで来ることによって、映画を観ているこちらにまでその緊張が徐々に伝播して来てクタクタに疲れる結果となってしまった。でもそれは『ノーカントリー』の時と同じように、心地よい疲れと云うか、映画にのめり込みすぎた気持ちの良い疲れだった。

この映画の主題は人間の弱さについてだった。弱さを「繊細さ」や「優しさ」と捉えると長所に聞こえるけど、一般的に「チキン」、つまり「弱虫」のことだろうとおもう。個人的には「弱虫」と馬鹿にされても動じない人間こそが本当の強い人間だとはおもうけど、映画の中の小説のように妻や娘がレイプされて殺されても動じない人間が強い人間だとは到底おもえない。そこが究極のジレンマになっている。

ラストはなんとなく「死」を予感させる。「弱さ」は「死」をも引き寄せるんだろうなあ。

→トム・フォード→エイミー・アダムス→アメリカ/2016→渋谷シネ・パレス→★★★★

今年、映画館で観た映画は、山形国際ドキュメンタリー映画祭で観た12本も入れて全部で88本(回数は『メッセージ』を2回観たので89回)。
その中で良かった映画は以下の通り。

わたしは、ダニエル・ブレイク(ケン・ローチ)
メッセージ(ドゥニ・ヴィルヌーヴ)
スウィート17モンスター(ケリー・フレモン・クレイグ)
午後8時の訪問者(ダルデンヌ兄弟)
20センチュリー・ウーマン(マイク・ミルズ)
セールスマン(アスガル・ファルハーディー)
ベイビー・ドライバー(エドガー・ライト)
パターソン(ジム・ジャームッシュ)
ブレードランナー 2049(ドゥニ・ヴィルヌーヴ)
パーティで女の子に話しかけるには(ジョン・キャメロン・ミッチェル)

以上、観た順。

今年はドゥニ・ヴィルヌーヴの年だった。できたら、次の「ブレードランナー」も撮って欲しいなあ。

監督:ルイス・ブニュエル
出演:クラウディオ・ブルック、シルビア・ピナル、エンリケ・アルバレス・フェリックス、オルテンシア・サントベニャ、フランシスコ・レイゲラ(以上、砂漠のシモン)ピエール・バチェフ、シモーヌ・マルイユ、ハイメ・ミラビエス、サルヴァドール・ダリ、ルイス・ブニュエル(以上、アンダルシアの犬)
原題:Simon del desierto、Un Chien Andalou
制作:メキシコ/1965、フランス/1929
URL:
場所:シアター・イメージフォーラム

『砂漠のシモン』はキリスト教徒であれば知っているだろう「登塔者シメオン」を題材にしたストーリーだった。自分で高い塔を立てて、その上で祈祷をしながら苦しむ人々に対して奇跡を行なっていた人物、と云う設定をちょっとは面白いとおもいながらも、そんなこたあ、あるわきゃない、とおもってしまう不信心者の鬱屈を、映画の最後に軽く皮肉を込めたシーンで解消させて終わらせてくれたのは嬉しかった。

『アンダルシアの犬』は、きっちりと観たのはおそらくこれが初めてだった。いやあ、1929年にこんな映画ができていたとは驚くばかりだ。素晴らしい映画だ。

→ルイス・ブニュエル→クラウディオ・ブルック、ピエール・バチェフ→メキシコ/1965、フランス/1929→シアター・イメージフォーラム→★★★、★★★★

監督:ルイス・ブニュエル
出演:シルヴィア・ピナル、フランシスコ・ラバル、マルガリータ・ロサーノ、ロラ・ガオス、フェルナンド・レイ
原題:Viridiana
制作:スペイン、メキシコ/1961
URL:
場所:シアター・イメージフォーラム

ルイス・ブニュエルの映画はつまむ程度しか見てないので、今回のシアター・イメージフォーラムで上映される3本の映画はすべて観ておこうとおもう。

まずは1961年のカンヌ映画祭でパルムドールを受賞した『ビリディアナ』。

宗教の偽善性を揶揄した映画を見るとそれが云わんとしていることはわかるけど、その本質をまったく理解してないので身をもって面白いとおもうことがあまりない。つまり、そこまで自分の生活に宗教が根ざしていないし、その教えに縛られていることもないので、映画で語られる反宗教的な内容にギャップを感じないからだろうとおもう。どこか違うコミュニティでの内輪ウケの話しとして捉えるしかないのだ。

映画はとても素晴らしいのに、それを心底から面白いとおもえない悲しさが滲み出てくる映画でした。

→ルイス・ブニュエル→シルヴィア・ピナル→スペイン、メキシコ/1961→シアター・イメージフォーラム→★★★

監督:ケネス・ブラナー
出演:ケネス・ブラナー、ジョニー・デップ、ミシェル・ファイファー、ジュディ・デンチ、ペネロペ・クルス、デイジー・リドリー、ウィレム・デフォー、ジョシュ・ギャッド、デレク・ジャコビ、レスリー・オドム・Jr.、マーワン・ケンザリ、マーワン・ケンザリ、ルーシー・ボーイントン、マヌエル・ガルシア=ルルフォ、セルゲイ・ポルーニン、トム・ベイトマン
原題:Murder on the Orient Express
制作:アメリカ/2017
URL:http://www.foxmovies-jp.com/orient-movie/
場所:109シネマズ木場

すでに誰もが犯人を知っている有名な推理小説を映画化する時に、もちろん犯人あてのサスペンスで映画を持たせるのは無理が生じてしまうので、どこか違う部分で勝負をしなければならなくなる。ケネス・ブラナーの『オリエント急行殺人事件』はまさにそこを期待して観に行った。

卵の大きさにこだわるエルキュール・ポワロに焦点を当てたオープニングには、おっ! 新しいことが始まるな! の期待を抱かせるに充分だった。でも徐々に、VFXはすごいんだけど、その期待はしぼんで行ってしまった。もうちょっと奇をてらったことをやっても良かったんじゃないのかなあ。たとえ原作ファンに総スカンを食らっても。

シドニー・ルメット版『オリエント急行殺人事件』はオールスタア・キャストが魅力の一つだった。その点においても、今回もオールスタア・キャストが欲しかったかなあ。

→ケネス・ブラナー→ケネス・ブラナー→アメリカ/2017→109シネマズ木場→★★★

監督:アキ・カウリスマキ
出演:シェルワン・ハジ、サカリ・クオスマネン、イルッカ・コイブラ、ヤンネ・ヒューティライネン、ヌップ・コイブ、カイヤ・パカリネン、ニロズ・ハジ、サイモン・フセイン・アルバズーン
原題:Toivon tuolla puolen
制作:フィンランド/2017
URL:http://kibou-film.com
場所:ユーロスペース

アキ・カウリスマキの映画を観ると、感情をあまり表にあらわさない主人公や、それを助ける義理人情の厚い周囲の人々のさりげない行動に、出しゃばり過ぎない日本人的な奥ゆかしさを感じてしまう。それに、使われている音楽がどこか昭和のムード歌謡を感じさせたりと、フィンランド人は見た目こそスウェーデン人やドイツ人のようなゲルマン系の人種に似ているけど、DNAだけで判断すればアジアに近いんだなあと云うことをどことなく実感してしまう。

今回の主人公はフィンランド人ではなくて、時事的な話題も取り込んだシリア人でありながら、やはりそこはアキ・カウリスマキの色が濃く反映されていて、今までの映画の主人公と同じように静かなタイプの人間だった。勝手なイメージから判断すれば、アラブの人間ならばもっと感情をあらわにするんじゃないかとハラハラしている我々のおもいをよそに、役所から移民申請を拒否されても、ネオナチのような人間から暴行を受けても、それをただ甘んじて受け入れてしまうのは意外だった。だから、ちょっと風貌が似ていることから、主人公のカーリドがどんどんと山田孝之にしか見えなくなってしまって、さらに寿司屋の店員をしたりするものだから、ますます何事にも気持ちを荒げず、耐え忍ぶ日本人にしか見えなくなってしまった。

ユーロスペースの土曜日の午後5時30分の回はほぼ満席だった。日本でアキ・カウリスマキの映画が人気なのは、そこに古き良き日本の面影を感じ取ってるからなのかなあ。最近の日本はあまりにもギスギスしすぎる。

→アキ・カウリスマキ→シェルワン・ハジ→フィンランド/2017→ユーロスペース→★★★☆

監督:ジョン・キャメロン・ミッチェル
出演:エル・ファニング、アレックス・シャープ、ルース・ウィルソン、マット・ルーカス、ニコール・キッドマン
原題:How to Talk to Girls at Parties
制作:イギリス、アメリカ/2017
URL:http://gaga.ne.jp/girlsatparties/
場所:MOVIXさいたま

映画のタイトルだけから判断してしまうと、さえない男子の「彼女が欲しい」ストーリーのようなものしか期待できなかったけど、それはまったくのトラップで、こちらの想像を遥か上を行く唖然とするほどの展開が待っていた。何よりもまず、これがSFだったのだ。それもストーリーの時代設定が1977年であることから、ちょっと「プリズナーNo.6」をおもわせるイギリス風味のレトロなSF感覚で、そこに当時の時代を席巻していたパンクロックを絡ませた、ぶっ飛んだ青春+音楽+SF+ラブストーリーだった。

さらに、70年代のイギリス映画で美少女と内気な少年の逃避行となると、これは絶対に『小さな恋のメロディ』に行き着いてしまう。雑誌「スクリーン」「ロードショー」からの映画ファンとしては、エル・ファニングとアレックス・シャープのピュアな関係がトレイシー・ハイドとマーク・レスターのそれに見えて郷愁感がハンパなかった。

そして、面白い映画には必ずと云って良いほどの素晴らしい脇役の存在。すでに大女優としての地位が確定しているニコール・キッドマンなのに、こんな小さな映画の、それもロッカーとして挫折を味わった過去を持つ、やさぐれた雰囲気のマネージャー役を演じるとは。最初は、え? ニコール・キッドマン? いや、似ている女優だろう、と信じられなかった。根っからの「役者バカ」なんだろうなあ。そんなニコール・キッドマンの、自分を貶めた奴らを呪詛するセリフがかっこいい。

「余命を知っている奴らが親切ぶって生き血をすする」

→ジョン・キャメロン・ミッチェル→エル・ファニング→イギリス/2017→MOVIXさいたま→★★★★