教授のおかしな妄想殺人

監督:ウディ・アレン
出演:エマ・ストーン、ホアキン・フェニックス、ジェイミー・ブラックリー、パーカー・ポージー、ソフィー・ヴォン・ヘイゼルバーグ、イーサン・フィリップス
原題:Irrational Man
制作:アメリカ/2015
URL:http://kyoju-mousou.com
場所:ユナイテッド・シネマウニクス南古谷

ウディ・アレンも80歳になって、はたして次の作品を撮ることができるのかどうかが心配になってくる歳だけれど、カンヌ映画祭では新作の『カフェ・ソサエティ』が上映されたのでひとまず安心。でも、もうカウントダウンになって来ているのは確かだ。

『教授のおかしな妄想殺人』はそのカウントダウンの一つとして観てしまったので、ロシアン・ルーレットや青酸カリに対して敏感に「死」そして「終了」を連想してしまったのだけれども、もともと神経症ぎみのウッディ・アレンにとっては自殺願望のある人物が出てくることは平常運転で、さしてそこにウディ・アレンの「遺書」的な映画として捉えることもなかった。とはいえ、主人公のホアキン・フェニックスにウディ・アレン自身が投影されていると考えると、80歳になってもコンスタントに映画を撮ることのできる恵まれた環境にありながらも生きる意味を見いだそうとしている姿に、そしてそれを求めるあまりに足をすくわれる不条理さに、またしてもウディ・アレンから教訓を得たような気がした。

これでエマ・ストーンとは連続して仕事をすることとなった。これもカウントダウンに関連しての話しになるけど、そんな若い女優にうつつを抜かさないで、最後にまたダイアン・キートンと仕事をしないかなあ。キャサリン・ヘップバーンがスペンサー・トレイシーと最後に一緒に仕事をしたみたいに。

→ウディ・アレン→エマ・ストーン→アメリカ/2015→ユナイテッド・シネマウニクス南古谷→★★★☆

満月の夜

監督:エリック・ロメール
出演:パスカル・オジェ、チェッキー・カリョ、ファブリス・ルキーニ、クリスチャン・バディム、ラズロ・サボ
原題:Les nuits de la pleine lune
制作:フランス/1984
URL:
場所:角川シネマ有楽町

エリック・ロメールの7本目は『緑の光線』に続いて相当に「めんどくさい女」が主人公の映画だった。でも今回は男たちも相当に「めんどくさい男」だし、主人公の「孤独」に対する考察にも納得できるものがあるし、全体的に当時の女と男の新しい在り方を提示しているような未来志向の映画にも見えたので、これはこれで充分に楽しめる映画になっていた。

今回の角川シネマ有楽町でのエリック・ロメール特集上映では8本の映画がかかり、そのうち『コレクションする女』を除いて7本の映画を観ることができた。どの映画も女と男の会話劇が中心となっているけど、そのバリエーションが驚くほど豊富で、それぞれが同じ傾向の映画にはまったく見えない。スタイリッシュで舌鋒鋭い『モード家の一夜』からゆるーい『レネットとミラベル 四つの冒険』まで、映画の最適な尺(と自分はおもっている!)である1時間30分から40分で楽しめるこれらエリック・ロメールの映画群をずっと観ていたい衝動に駆られる。もっと、DVDやBlu-rayのソフト化をしてくれないかな。

→エリック・ロメール→パスカル・オジェ→フランス/1984→角川シネマ有楽町→★★★☆

殿、利息でござる!

監督:中村義洋
出演:阿部サダヲ、瑛太、妻夫木聡、竹内結子、寺脇康文、千葉雄大、西村雅彦、きたろう、橋本一郎、中本賢、上田耕一、堀部圭亮、山本舞香、重岡大毅、羽生結弦、松田龍平、草笛光子、山崎努
制作:『殿、利息でござる!』製作委員会/2016
URL:http://tono-gozaru.jp
場所:丸の内ピカデリー2

本当はエリック・ロメールを観たかったけど、動員と云う名の付き合いで『殿、利息でござる!』を観る。

御上から搾取されている貧しい宿場町を救うために農民+商人たちが立ち上がり、その中でも裕福な有志がお金を出し合って、それを殿様に貸して、その利息を取って、宿場町の困窮を救うと云う実話に基づいたストーリーは面白いのだけれど、それをシナリオとしてまとめるときにあまりにもフツーと云うか、工夫がないと云うか、映画的な興奮がないと云うか。

少なくとも山崎努と阿部サダヲと妻夫木聡の親子関係が明らかになるくだりは、もうちょっとひとひねりもふたひねりもないと、そうだったのか!の快感がまったく湧かなかった。それに、ファーストシーンに持って来た山崎努と夜逃げする家族のエピソードは、途中で何かしら触れてくれないと、真実が明らかになった時の唐突感がはなはだしい。妻夫木聡の目のこともそうだけど、すべてのエピソードが羅列してあるだけで、その前後の繋がりが希薄すぎる。

俳優は、農民たちからの陳情を最終的に受け付ける出入司(財政担当者)を演じた松田龍平が素晴らしかった。あの冷たい演技は『野獣死すべし』の松田優作をおもいだした。

→中村義洋→阿部サダヲ→『殿、利息でござる!』製作委員会/2016→丸の内ピカデリー2→★★☆

レネットとミラベル 四つの冒険

監督:エリック・ロメール
出演:ジョエル・ミケル、ジェシカ・フォルド、フィリップ・ローデンバック、マリー・リヴィエール、ベアトリス・ロマン、ファブリス・ルキーニ
原題:Quatre Aventures de Reinette et Mirablle
制作:フランス/1986
URL:
場所:角川シネマ有楽町

ロメールの6本目は、今までの映画の中でも一番どーでも良い内容な映画だった。お嬢様キャラが入っている芸術家肌のレネットとクールな女子大生ミラベルとの、見るからにアンバランスな二人組がフランスの片田舎で出会ってからパリで一緒に住むようになる過程で起こるいろいろなエピソードは以下のような些細な事件ばかり。

・青い時間
レネットは、夜明け前の一瞬、完全に音のない世界になる「青い時間」をミラベルに見せようとする。
・カフェのボーイ
ミラベルと待ち合わせたモンパルナスのカフェで、レネットは融通の利かないボーイに出会う。
・物乞い、万引、ペテン師の女
ミラベルがパリの街中で、物乞い、万引、ペテン師の女に出会う。
・絵の販売
家賃の払えなくなったレネットがミラベルと共謀して自分の絵を画商に売りつける。

どれもこれも、どーでも良い話しばかりだけど、でもエリック・ロメールの映画って、このような取るに足らないようなエピソードを真正面から丁寧に描いているところに共感するのかも知れない。だって、女の子が自転車のパンク修理を完璧にこなしているシーンをしっかりと手順通りに見せている映画ってのはいったいどんな映画なんだよ。素晴らしすぎる。

→エリック・ロメール→ジョエル・ミケル→フランス/1986→角川シネマ有楽町→★★★★

緑の光線

監督:エリック・ロメール
出演:マリー・リヴィエール、リサ・エレディア、ヴァンサン・ゴーティエ、ベアトリス・ロマン
原題:Le Rayon Vert
制作:フランス/1986
URL:
場所:角川シネマ有楽町

エリック・ロメールの5本目の映画は、相当に「めんどくさい女」が主人公の映画だった。一人でいるのがイヤなくせにあいつとは一緒にいたくないだとか、こういうことをやったら良いんじゃない?との提案にそんなことはやりたくないだとか、ちょっと気に入らないことがあると「なんて可哀相な私」を演出して泣き出すとか、うーん、これは酷い、酷すぎる。この主人公には何も共感するところがない。最後、その「めんどくさい女」と付き合うことになって、一緒に「緑の光線」を見ることになる男に対して、おいおいその女でいいのかよ、とおもうしかなかった。

でも、『モード家の一夜』の宗教に支配された男の煮え切らなさ、『友だちの恋人』のちょっと内向的で繊細な感じ、『海辺のポーリーヌ』の解放感、『クレールの膝』のフェティシズムもどき、と来て、この『緑の光線』が来るのはバリエーションとしてベストだったのかもしれない。

それにしてもパリに住んでいる人たちにとっての、夏の長期休暇にバカンスにも行かずにそのままパリにいるのは恥ずかしい、と云う焦燥感を持つ残念さは、「周囲と同じことをする」安心感でみんなと同じ時にしか長期休暇を取れない日本人の残念さと似ているなあ。

→エリック・ロメール→マリー・リヴィエール→フランス/1986→角川シネマ有楽町→★★★☆

クレールの膝

監督:エリック・ロメール
出演:ジャン・クロード・ブリアリ、オーロラ・コルニュ、ベアトリス・ロマン、ローランス・ドゥ・モナガン、ミシェル・モンテル、ジュラール・ファルコネッティ、ファブリス・ルキーニ
原題:Le Genou de Claire
制作:フランス/1970
URL:
場所:角川シネマ有楽町

エリック・ロメールの4本目は、今までに観て来た3本の映画とはちょっとおもむきが変わっていて、近くに結婚を控えているジェローム(ジャン・クロード・ブリアリ)が友人の小説家オーロラ(オーロラ・コルニュ)に小説の題材を提供するために、若い女の子に向けて微妙に一線を越えないヘンテコな色仕掛けの実験を行うと云うもの。

中年になろうとするジェロームが、オーロラの間借りしている家の中学生の娘ローラ(ペアトリス・ロマン)に興味を抱いたことからはじまったその実験は、そのローラの姉クレール(ローランス・ドゥ・モナガン)のすらりとした肢体へと興味が移って行き、最終目的として、クレールの奇麗な膝をいかにして自然に触ることができるか! になって行く。

なんじゃそりゃ、なこの映画は、でも、ロメール特有の会話の面白さからまったく飽きない。ひげ面ロリコンおじさんの、これは結婚相手の決まっている男のささやかな実験だし、ちょっと膝を触るだけのことなんだよ、の言い訳がましさが笑えるし、それにもともとロメールの映画にはギラギラとしたエロティシズムがないので、本当に単なる膝好きおじさんに見えてしまうところがさらに笑える。

この映画の舞台となったアヌシーは、国際アニメーション映画祭が行われる場所として名前だけは知っていたけど、なんとも美しい場所(ネストール・アルメンドロスの撮影!)だった。アヌシーのアニメーション映画祭へも行きたいなあ。

→エリック・ロメール→ジャン・クロード・ブリアリ→フランス/1970→角川シネマ有楽町→★★★★

ヘイル、シーザー!

監督:ジョエル&イーサン・コーエン
出演:ジョシュ・ブローリン、ジョージ・クルーニー、オールデン・エアエンライク、レイフ・ファインズ、ジョナ・ヒル、スカーレット・ヨハンソン、フランシス・マクドーマンド、ティルダ・スウィントン、チャニング・テイタム
原題:Hail, Caesar!
制作:アメリカ/2016
URL:http://hailcaesar.jp
場所:109シネマズ木場

コーエン兄弟の映画の中には、なんだこりゃ、な映画がときどき出てくる。それが良い方向に転ぶ場合と、さっぱりつまらない方向に転ぶ場合があって、今回はむかしのハリウッド映画が好きな人にとっては良い方向に転ぶ映画になっていた。

『ヘイル、シーザー!』は、50年代のハリウッドシステムの中の映画スタジオが舞台で、その当時のハリウッドスターや監督、脚本家を彷彿とさせる人物が出てくるところが面白い。以下が、たぶんあの人がモデルなんじゃない? のリスト。

・エディ・マニックス(ジョシュ・ブローリン)
MGMに実際にいた同名のエディ・マニックスがモデルらしい。もちろんそのような細かいプロデューサーの名前は知らなかったので、なんとなく、とあるプロデューサー、の感覚で見ていた。

・ベアード・ウィットロック(ジョージ・クルーニー)
映画の中で撮られている映画「ヘイル、シーザー!」がどうみても『ベン・ハー』っぽいので、なんとなくチャールトン・ヘストンかな、と思っていた見ていたけど、あとで調べるとヴィクター・マチュアがモデルらしい。たしかにヴィクター・マチュアは大根役者って云われてた。でも、ばりばり右側のチャールトン・ヘストンが共産主義に同調しちゃうのはコーエン兄弟特有のブラックジョークにも見えるので、それでもいいのかなと。

・ローレンス・ローレンツ(レイフ・ファインズ)
『ベン・ハー』っぽい映画を撮っている監督なので、そのまま連想すればウィリアム・ワイラーなんだけど、ゲイの要素が加わっているので、ジョージ・キューカーだな、と軌道修正。ローレンス・ローレンツの語呂から、マンキーウィッツ、かなとおもったりもした。

・ホビー・ドイル(オールデン・エアエンライク)
このカウボーイ役者は、ロイ・ロジャースだな、とおもって見ていた。ジーン・オートリーと云う線もあるのかな。

・バート・ガーニー(チャニング・テイタム)
水兵の格好で歌って踊るのはどう見てもジーン・ケリー。でも、あの仏頂面はまったくジーン・ケリーには見えない。海を渡ってハリウッドを離れてしまうのはチャップリン?

・ディアナ・モラン(スカーレット・ヨハンソン)
見るからにモデルはエスター・ウィリアムズ。に加えて、スキャンダラスな感じはラナ・ターナーが入っているのかな、とおもったけど、あとで調べると、未婚で子供を産んでしまうのはクラーク・ゲーブルの子を産んだロレッタ・ヤングがモデルらしい。

・ソーラ・サッカー/セサリー・サッカー:ティルダ・スウィントン
このゴシップ記者は、ヘッダ・ホッパーかルエラ・パーソンズで間違いなし。さらに調べると、新聞の人生相談コラムで人気のあった双子のアビゲイル・ヴァン・ビューレンとアン・ランダースと云う人物がいて、それもモデルとして加わっているらしい。

共産主義者の集まりはハリウッド・テンか!

さらに、映画の編集者としてフランシス・マクドーマンドが出て来て、フィルムを送る機械にマフラーが巻き込まれて死にそうになるシーンが傑作! あの編集者のモデルはいるのかな。

このように、古いハリウッド映画が好きな人には楽しめるけど、それ以外の人には、なんだこりゃ、だけで終わってしまうんだろうなあ。

→ジョエル&イーサン・コーエン→ジョシュ・ブローリン→アメリカ/2016→109シネマズ木場→★★★☆

海辺のポーリーヌ

監督:エリック・ロメール
出演:アマンダ・ラングレ、アリエル・ドンバール、パスカル・グレゴリー、フェオドール・アトキン、シモン・ド・ラ・ブロス、ロゼット
原題:Pauline à la plage
制作:フランス/1983
URL:
場所:角川シネマ有楽町

エリック・ロメールの3本目は、ノルマンディーの別荘にやってきた15歳の少女ポーリーヌと従姉マリオンが海辺で出会う男たちとの会話劇。

今までの『モード家の一夜』と『友だちの恋人』に比べると、夏の避暑地が舞台の所為か開放的な男女関係がベースとなっているために、どちらかと云うと主人公の慎ましやかで内向的な性格に対して共感が向いてしまう自分にとってはあまり楽しめるシチュエーションではなかった上に、この映画の中での唯一、内向性を代表しているようなピエールが、見るからに女好きでちょいワルはげおやじアンリに負けてマリオンを取られてしまうストーリーも、そこに何か特別な思いが入り込む余地がまったくなかった。

マリオンとアンリ、ピエールの関係と平行するようにポーリーヌとシルヴァンの関係が同時進行するんだけど、そのふたつの対比がもっと明確に浮かび上がって来るようなストーリーだったら、たとえ片方で内向性が外向性に負けるシチュエーションだとしても、もっとポーリーヌとシルヴァンの爽やかな関係性に目が向いていたのに。なんだか、そのふたつのグループの情事は、ただ単純に並んでいるに過ぎなかった。

→エリック・ロメール→アマンダ・ラングレ→フランス/1983→角川シネマ有楽町→★★★

友だちの恋人

監督:エリック・ロメール
出演:エマニュエル・ショーレ、ソフィー・ルノワール、エリック・ヴィラール、フランソワ・エリック・ゲンドロン、アンヌ・ロール・ムーリー
原題:L’Ami de mon Amie
制作:フランス/1987
URL:
場所:角川シネマ有楽町

次のエリック・ロメールの映画は、登場人物が5人の会話劇だった。

どうしてこんなに会話劇の映画が好きになったのかはわからないのだけれど、日本語字幕と云う障害がありながらセリフの量が増えれば増えるほどその映画に対する愛情が正比例でアップしてしまう。たとえばベルイマンの『秋のソナタ』を例に取ると、リブ・ウルマンが母親役のイングリッド・バーグマンに対して数多くの言葉を重ねることによって心の奥深くに閉じこめていた感情が次第に露になって行く過程を見られることが嬉しいし、たとえばポランスキーの『おとなのけんか』では、理性的なジョディ・フォスターが売り言葉に買い言葉を続けることによって徐々にこめかみの血管が浮き立って行く過程が見られるのが好きだし、リチャード・リンクレイターの「ビフォア・シリーズ」では、言葉による相手の心の探り合い、駆け引き、愛情の高まり、失望、怒りがまるで川のように淀みなく流れて行く様子を見ることがとても楽しいし。

エリック・ロメールの『友だちの恋人』は、ビジュアルだけに頼りがちな純情で乙女チックな心の持ち主のエマニュエル・ショーレが、人生経験値の高いソフィー・ルノワールやフランソワ・エリック・ゲンドロンと言葉を交わすことによって、本当の自分の気持ちを次第に確認出来て行く過程が見られるところがとても面白い。おそらくエマニュエル・ショーレの演技経験が少ないので、演技での細かな感情の表現は乏しいのだけれども、それでもダイアローグのパワーでとても面白い映画になっている。このような何気ない男女のシチュエーションを会話だけで成り立たせる映画はとても地味だけれども、ダイアローグによって登場人物の感情の機微を察しながらドラマを見て行くことのできる会話劇ほど面白いものはない。

エリック・ロメールの作風が小津安二郎に似ているということを云う人がいるらしいけど、今までのところそうはおもえなかった。でも、この『友だちの恋人』のエマニュエル・ショーレとエリック・ヴィラールが一緒にウィンドサーフィンをするシーンをポンと挿入するところは、ちょっと『晩春』の原節子と宇津美淳がサイクリングするシーンがポンと挿入されるところをおもい出してしまった。些細な部分のことだけど。

→エリック・ロメール→エマニュエル・ショーレ→フランス/1987→角川シネマ有楽町→★★★★

モード家の一夜

監督:エリック・ロメール
出演:ジャン=ルイ・トランティニャン、フランソワーズ・ファビアン、マリー=クリスティーヌ・バロー、アントワーヌ・ヴィテーズ、マリー・ベッカー
原題:Ma Nuit Chez Maud
制作:フランス/1968
URL:
場所:角川シネマ有楽町

エリック・ロメールの映画をあまり見ていないので、今回の角川シネマ有楽町でのエリック・ロメール特集で何本かを見てみようかとおもう。

まずはエリック・ロメールの代表作とも云われている『モード家の一夜』。

冒頭から教会での司祭の説教からはじまることからもわかるとおり、主人公の「カトリックを信仰していること」が色濃く反映されている映画だった。宗教的な価値観のまったくない日本人にとってはちょっと厳しい映画になるんじゃないかと構えて見はじめたところ、おもったよりも会話を中心とした軽快なテンポの映画で、会話の内容に宗教的な価値観や哲学的な言及があるものの、会話劇が大好きな自分にとってはとても楽しめる映画になっていた。

映画は三つのパートに分かれている。久しぶりに再会した古い友人ヴィダルとのカフェでの会話、その友人の女友達モードとのその女性の部屋での会話、教会で一目惚れした女性フランソワーズとの会話。

最初のヴィダルとのカフェでの会話には、パスカルの「パスカルの賭け」を持ち出した人生観や結婚観の哲学的なやりとりが延々と続くので若干辟易する部分はあるものの、その次のヴィダルの女友達モードとの会話には、カトリックの貞操観念に縛られた女好きな男の一歩踏み出したくても踏み出せない微妙な距離感を保ったままの女性とのやりとりに、まるで自分の不甲斐なさをそこに見るようですっかり感情移入してしまった。貞操観念の希薄な男女のストレートなやり取りばかりが氾濫する日本のテレビドラマや映画が多いなか、これこそが自分にとってのリアルだとおもってしまった。ああ、なんだろう、オレはカトリック教徒だったのか。

ネットで検索すると、露な男女関係や過剰な自意識を描く他のエリック・ロメール作品とは毛色が違う、と云うのがあった。ふーん、『モード家の一夜』はエリック・ロメール作品の中でも特殊なんだろうか。

次は『友だちの恋人』を観ようとおもう。

→エリック・ロメール→ジャン=ルイ・トランティニャン→フランス/1968→角川シネマ有楽町→★★★☆