監督:香港ドキュメンタリー映画工作者
出演:
原題:理大圍城/Inside the Red Brick Wall
制作:香港/2020
URL:https://www.ridai-shonen.com
場所:ポレポレ東中野

2019年の香港民主化デモの中で香港理工大学包囲事件は起きた。中高生を含むデモの参加者と大学生が警察によって包囲された香港理工大学の構内に取り残されてしまった。その構内での学生らの統率を欠いた右往左往ぶりを追ったドキュメンタリーが『理大囲城』だった。

この香港理工大学構内の映像を誰が撮ったのかと云うと複数の「匿名人士」だった。「匿名人士」とは報道機関に属さないセルフメディアなどと呼ばれた人たちらしい。この映画の中には「PRESS」の腕章をつけた人たちが大学構内を駆け巡って写真や動画を撮っているシーンも出てくる。セルフメディアの人たちはこの「PRESS」と同じ扱いをうけて動画を撮影していたんじゃないかとおもう。

警察側は力ずくで大学構内へ突入するような手荒な真似をするわけでもなく、完全に兵糧攻めを狙って来ている戦法だった。包囲網を無理やり突破しようとしてくる学生たちを待ち構えて逮捕するだけで、警察側が大きく行動に移すことはまったくなかった。時間が経過するだけの学生側は、顔にぼかしが入っているものの次第に追い詰められて焦燥感を増している状況が痛々しいほど映像から伝わってくる。

でも、ここで不思議な感覚に襲われた。その学生たちの苦境を収めた映像がこうして映画としてまとめられている以上、「PRESS」の人たちは映像を没収されることなく開放されたんだろうとおもう。かたや学生たちはほとんどが逮捕されてしまった。自由な映像と縛られた学生たち。そのアンバランスが不思議だった。

最後は、デモに参加している中高生の通う学校の校長(とおもわれる人)たちが突然大学構内に現れて、生徒たちは警察への学生証の登録だけで家へ帰れると説得にかかる。この策略がデモ参加者全員を動揺させ、結果この香港理工大学包囲事件は、1377人が逮捕される事態となって終わった。

この映画が中国政府の理不尽さを訴えるドキュメンタリーになっていたのかどうか。リーダーのいないデモ隊内部の罵り合いばかりが目について、中国政府のしたたかさが強調されたドキュメンタリーだけだったような気もする。記録としては貴重だけれども、どこか腑に落ちないもどかしさがあとに残ってしまった。

→香港ドキュメンタリー映画工作者→→香港/2020→ポレポレ東中野→★★★☆

監督:原恵一
声:當真あみ、北村匠海、吉柳咲良、板垣李光人、横溝菜帆、高山みなみ、梶裕貴、麻生久美子、宮﨑あおい、芦田愛菜、藤森慎吾、滝沢カレン、矢島晶子、美山加恋、池端杏慈、吉村文香
制作: A-1 Pictures/2022
URL:https://movies.shochiku.co.jp/kagaminokojo/
場所:109シネマズ菖蒲

辻村深月の小説を原恵一監督が映画化。

今回の映画ではじめて辻村深月と云う名の作家がいることを知ってネットでいろいろと調べてみた。ああ、そうだ、著作のドラマ化でNHKと裁判沙汰になっていた作家がいたなあ。あれが辻村深月か。直木賞や本屋大賞も受賞している。どうやら「物語」を構築することに長けている作家らしい。

原恵一監督はその「物語」を巧くアニメ化していたとおもう。長い小説を脚本家の丸尾みほが手際よくまとめていたので、スムーズに「物語」の世界に没入できたし。でも、映画が面白かったのは「物語」の上手さであって、原恵一監督の特色が出ていたようにはおもえなかった。それは『バースデー・ワンダーランド』のときにも感じた違和感だった。原恵一監督の作品は『河童のクゥと夏休み 』から『百日紅 〜Miss HOKUSAI〜』までわくわくしながら追いかけてきたのだけれど、そんなときめきがまた欲しいなあ。

辻村深月の著作にちょっと興味が出たので読んでみようかな。伊坂幸太郎のときもそう云いながら読んでいないので、また読まないかもしれないし、読むかもしれない。

→原恵一→(声)當真あみ→ A-1 Pictures/2022→109シネマズ菖蒲→★★★

監督:三宅唱
出演:岸井ゆきの、三浦誠己、松浦慎一郎、佐藤緋美、中原ナナ、足立智充、清水優、丈太郎、安光隆太郎、渡辺真起子、中村優子、中島ひろ子、仙道敦子、三浦友和
制作:「ケイコ 目を澄ませて」製作委員会/2022
URL:https://happinet-phantom.com/keiko-movie/
場所:ヒューマントラストシネマ有楽町

今年最初の映画はTwitter界隈で話題になっていた三宅唱監督の『ケイコ 目を澄ませて』。

障害のある人を主人公とする映画を作る場合に、その障害に真正面から向き合うことを目的とする映画があってももちろんOKだとおもう。でも、ハンデのある部分をストーリーの中に溶け込ませてしまう映画のほうが個人的には好きだったりする。『ケイコ 目を澄ませて』は後者だった。

耳の聞こえないケイコ(岸井ゆきの)は、なぜか日々ボクシングに打ち込んでいる。プロライセンスを取るほどの力の入れようだ。彼女のトレーナーは記者からの「耳の聞こえない人がボクシングをやるのは危険じゃないですか?」の問いに「もちろん危険だ」とも答えているのに。なぜそんなにボクシングを続けるのか? の疑問の答えを得るためにこの映画を観続けていた。

その手がかりとなるーンがひとつあった。それはケイコがおもわずサラリーマンとぶつかってしまって怒鳴りつけられるシーンだった。耳の聞こえない人は、目の見えない人や手足のない人に比べて健常者に見られやすい。だからこのシーンように何かに付けて相手に嫌悪感を抱かせる場面があるんじゃないかと想像してしまう。そんな場面に対して絶えず受け身でなければいけないのか。いや、そこはかえってアグレッシブさが無ければ生きて行くのが辛いんじゃないのかと、健常者の自分が勝手に推測してしまった。

彼女のボクシングスタイルは、耳の聞こえないことから当然アウトボクシングに徹するだろうとおもっていた。ところが意に反して、メキシコや韓国のボクサーのように打たれても打たれても絶えず前へ出るインファイトだった。ディフェンスをしっかりしろとトレーナーに注意されるが、それでも前へ出て相手に打ち勝とうとしている。まるでアグレッシブさが自分に課せられたスタイルであると云わんばかりに。

この映画のように屈折している人物を淡々と追いかけるシーンを観ていると昔のATG映画をおもいだしてしまった。経営がおもわしくないボクシングジムの経営者を演じている三浦友和もATGに出てくるような脇役だった。こんな感じの映画は少なくなってしまったなあ。作られてはいるのだろうけれど、昔とは環境が変わってしまったので目に触れる機会が少なくなってしまった。

→三宅唱→岸井ゆきの→「ケイコ 目を澄ませて」製作委員会/2022→ヒューマントラストシネマ有楽町→★★★☆

今年、映画館で観た映画は昨年より増えたとはいえたったの40本。埼玉くんだりに住んでいるとシネコンでしか映画を観る機会がないので、そのシネコンでバラエティよく映画を公開してくれないとますます観る本数が減って配信だのみになってしまう。

その40本の中で良かった映画を10本に絞ると以下の通り。

香川1区(大島新)
マクベス(ジョエル・コーエン)
ハウス・オブ・グッチ(リドリー・スコット)
偶然と想像(濱口竜介)
ベルファスト(ケネス・ブラナー)
カモン カモン(マイク・ミルズ)
英雄の証明(アスガー・ファルハディ)
リコリス・ピザ(ポール・トーマス・アンダーソン)
みんなのヴァカンス(ギヨーム・ブラック)
スペンサー ダイアナの決意(パブロ・ラライン)

以上、観た順。
配信で云えば、Netflixでのジェーン・カンピオン『パワー・オブ・ザ・ドッグ 』ぐらいかなあ。配信では見るべき映画を探すのが大変。

監督:ジェームズ・キャメロン
出演:サム・ワーシントン、ゾーイ・サルダナ、シガニー・ウィーバー、スティーヴン・ラング、ケイト・ウィンスレット、ジェイミー・フラッターズ、ブリテン・ダルトン
原題:Avatar: The Way of Water
制作:アメリカ/2022
URL:https://www.20thcenturystudios.jp/movies/avatar2
場所:109シネマズ菖蒲

今年のしめくくりの映画はジェームズ・キャメロンの『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』を大晦日に観ることにした。それも109シネマズ菖蒲のIMAXレーザーで3D字幕版。

IMAXレーザーの大画面、大音響で、そのうえに3D映画となると、サーカスやイリュージョンのような大きなイベントを観に行ったようなものだった。それはあたかも活動写真の原点に立ち返ったような経験で、ジェームズ・キャメロンの目指しているものがわからないでもない。でもやっぱり3時間12分は長すぎる。それも3Dだから目が疲れる、肩がこる。年寄りには酷な体験だった。

ストーリーも『ターミネーター2』『エイリアン2』『アビス』『タイタニック』をぐるぐるポン!と混ぜたような内容でまるで自分自身を回顧しているような映画だった。ジェームズ・キャメロはもう引退するの?死ぬの?

→ジェームズ・キャメロン→サム・ワーシントン→アメリカ/2022→109シネマズ菖蒲→★★★

監督:ケイシー・レモンズ
出演:ナオミ・アッキー、スタンリー・トゥッチ、アシュトン・サンダース、タマラ・チュニー、ナフェッサ・ウィリアムズ、クラーク・ピータース
原題:I Wanna Dance with Somebody
制作:アメリカ/2022
URL:https://www.whitney-movie.jp
場所:109シネマズ菖蒲

大学を卒業してはじめて就職した会社はレーザーディスクというものの中に収める映画や音楽などのコンテンツを作るところだった。レーザーディスクとは、昔のLPレコードくらいの大きさになったDVDを想像してもらえれば何となくイメージできるんじゃないかとおもう。つまり、まだデジタル技術の黎明期で、2時間の映画を収めるのに直径12cmのDVDくらいの大きさにはできず、直径30cmもの大きさが必要な時代だった。

その会社に入社したころ、普通の30cmレーザーディスクよりも一回り小さい20cmのLD(レーザーディスク)シングルを普及させようと躍起になっていて、おもに音楽系のソフトを安価で発売させていた。そのなかにホイットニー・ヒューストンのミュージック・クリップを収めたものがあった。それを何度も何度も見ていた記憶があって、とくに「How Will I Know」や「Greatest Love Of All」のミュージック・クリップが強烈な印象を自分の中に残していた。

ケイシー・レモンズ監督の『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』には、その「How Will I Know」のミュージック・クリップや、生中継で見ていた第25回スーパーボウルでの国歌斉唱とか、日本でも大ヒットした映画『ボディガード』の撮影シーンなどが忠実に再現されていた。ホイットニー・ヒューストンが、自分にとって社会人となってバブル期を駆け抜けた時代の象徴のような存在でもあったので、映画の出来とはまったく関係なくノスタルジックな風景に打ちのめされて、彼女の楽曲が流れるたびに鳥肌が立つような映画だった。

普通の人がこの映画を観たらどうなんだろう? 自分がジェットコースター伝記映画と呼んでいるようなシロモノなので、最近のパブロ・ラライン監督『スペンサー ダイアナの決意』のようなかっこよさはまったくなく、彼女の曲におもい入れがないのなら退屈な映画なのかもしれない。

→ケイシー・レモンズ→ナオミ・アッキー→アメリカ/2022→109シネマズ菖蒲→★★★

監督:新海誠
声:原菜乃華、松村北斗(SixTONES)、深津絵里、染谷将太、伊藤沙莉、花瀬琴音、花澤香菜、神木隆之介、松本白鸚
制作:「すずめの戸締まり」製作委員会/2022
URL:https://suzume-tojimari-movie.jp
場所:109シネマズ木場

新海誠監督の新作は、今まではぼんやりとイメージできる範囲に留めて置いた日本でのリアルな震災被害のことを、そのものずばりストレートに訴えかける内容にしてきた。そしてそこへ、茨城県鹿嶋市の鹿島神宮、千葉県香取市の香取神宮、三重県伊賀市の大村神社、宮城県加美町の鹿島神社に存在していて、地震を鎮めているとされる「要石」を重要なアイテムとして登場させ、日本古来の神話をもじかに絡めてきた。

となると、真っ先におもい浮かべてしまったのは、2008年にフジテレビでドラマ化もされた万城目学の小説「鹿男あをによし」だった。「鹿男あをによし」での「鎮めの儀式」がそのまま『すずめの戸締まり』での「後ろ戸」を閉める行為に見えてしまった。

ただ、『すずめの戸締まり』に「鹿男あをによし」を連想はしても、新海誠の脚本が万城目学の小説ほど日本古来からの神仏的な薀蓄に長けてはいないので、やたらと底の浅いストーリーに見えてしまった。押井守のアニメのような衒学趣味的なものにしろとは云わないまでも、もうちょっと万城目学くらいの日本故事の造詣の深さがあったら良かったのに。

→新海誠→(声)原菜乃華→「すずめの戸締まり」製作委員会/2022→109シネマズ木場→★★★

監督:ライアン・クーグラー
出演:レティーシャ・ライト、ルピタ・ニョンゴ、ダナイ・グリラ、ウィンストン・デューク、フローレンス・カサンバ、ドミニク・ソーン、ミカエラ・コール、テノッチ・ウエルタ・メヒア、マーティン・フリーマン、ジュリア・ルイス=ドレイファス、アンジェラ・バセット
原題:Black Panther: Wakanda Forever
制作:アメリカ/2022
URL:https://marvel.disney.co.jp/movie/blackpanther-wf
場所:ユナイテッド・シネマ浦和

ティ・チャラ/ブラックパンサー役のチャドウィック・ボーズマンが2020年8月28日に大腸癌で亡くなって、MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)での「ブラックパンサー」シリーズの今後がどうなるのかとおもっていたけれど、この『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』で解答を出してきた。

『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』では、ワカンダ王ティチャカの末子で、ティ・チャラ/ブラックパンサーの妹である王女シュリ(レティーシャ・ライト)が次期ブラックパンサーになる過程が描かれていた。そして、ワカンダで取れる貴重な鉱石ヴィブラニウムをめぐってアメリカなどの西側諸国との決定的な亀裂をメインに持ってくるのかとおもったら、ここで新たなヴィランのネイモア(テノッチ・ウエルタ・メヒア)を登場させてきた。ワカンダの新しいブラックパンサーと海の王国タロカン帝国の王ネイモアとの戦いがこの映画の主軸となっていた。

このネイモアの原点は、マーベル・コミックの最古参のヒーローでもあるネイモア・ザ・サブマリナーなんだろうか? そのあたりの出典はマーベル・コミックを読んだこともないのでよくわからない。

で、ワカンダ王国が黒人社会を意味するのだとしたら、タロカン帝国は、この映画での描かれ方からして、ヒスパニック系社会を意味しているようにも見えた。このふたつの社会が対立しながらも最後は同盟を結ぶくだりは、今後のヴィブラニウムを狙う西側諸国との決定的な対決に突き進んでいかざるを得ないようにも見えてしまった。でも、そのような分断を描くのだとしたら、現実社会とまったく同じ不毛さが募るばかりなので、なにか新たな対立軸を持ってくるのかなあ?

ひとつ気になったのは、新たなブラックパンサーであるシュリを演じたレティーシャ・ライトの華の無さ。どうなんだろう? 彼女でブラックパンサーをシリーズ化出来るんだろうか。

→ライアン・クーグラー→レティーシャ・ライト→アメリカ/2022→ユナイテッド・シネマ浦和→★★★

監督:デヴィッド・O・ラッセル
出演:クリスチャン・ベール、マーゴット・ロビー、ジョン・デヴィッド・ワシントン、ラミ・マレック、アニャ・テイラー=ジョイ、ゾーイ・サルダナ、アンドレア・ライズボロー、クリス・ロック、マイケル・シャノン、マイク・マイヤーズ、テイラー・スウィフト、ロバート・デ・ニーロ
原題:Amsterdam
制作:アメリカ/2022
URL:https://www.20thcenturystudios.jp/movies/amsterdaml
場所:109シネマズ菖蒲

1933年のニューヨーク。第1次世界大戦の戦地で知り合って親友となった医師バート(クリスチャン・ベール)と弁護士ハロルド(ジョン・デヴィッド・ワシントン)は殺人事件に巻き込まれて容疑者にされてしまう。二人はその疑いを晴らそうと奔走するうちに、戦後アムステルダムで一時を一緒に過ごしたヴァレリー(マーゴット・ロビー)と再会することをきっかけに、次第に自分たちがドイツで台頭するナチスの影響が波及しつつあるアメリカでの巨大な陰謀に巻き込まれてしまう。

この「巨大な陰謀」とは、おそらくアメリカ人にとってはとても有名な「ビジネス・プロット(Business Plot)」と呼ばれるものらしい。財界の指導者たちがナチスに傾倒し、大衆に人気があったスメドレー・バトラー少将を指導者に推したてクーデターを起こそうと目論んだ陰謀事件。日本人にはまったく馴染みのないアメリカの黒歴史だった。

だからアメリカ人にとっては、周知の事実としてストーリーに組み込まれてもプロットの理解度は早いのだろうけれど、日本人にとっては次から次へと知らない史実が提供されて、様々な人物も矢継ぎ早に登場するので、頭の中が目まぐるしく展開して観ていて疲れ果ててしまった。

まあ、でも、最後まで飽きることなく観ることができたのは、この手の陰謀論のような映画が好きだからなのかもしれない。昨今のSNS上での陰謀論も面白いからねえ。と云ったって陰謀論なんてものは、実際の「ビジネス・プロット」が後の歴史学者から疑問を呈されているように、そしてフィクションを織り交ぜたこの映画のように、「ほぼ実話」くらいの気持ちで付き合うのが一番だとおもう。陰謀なんて、あるし、無い。

→デヴィッド・O・ラッセル→クリスチャン・ベール→アメリカ/2022→109シネマズ菖蒲→★★★☆

監督:パブロ・ラライン
出演:クリステン・スチュワート、ティモシー・スポール、ジャック・ファーシング、ショーン・ハリス、ジャック・ニーレン、フレディ・スプライ、サリー・ホーキンス
原題:Spencer
制作:イギリス、アメリカ、ドイツ、チリ/2021
URL:https://spencer-movie.com/#modal
場所:109シネマズ菖蒲

最近の伝記映画は、描かれる人の人生にとって重要となる日を特定して、あえて短い期間にその人となりのすべてを凝縮させて見せる映画が増えてきた。パブロ・ラライン監督の『スペンサー ダイアナの決意』も、ダイアナ皇太子妃がチャールズ皇太子との離婚を決意した1991年のサンドリンガム・ハウスでのクリスマス休暇の3日間を描いていた。

ただ、映画の冒頭に「実際の悲劇に基づく寓話」とテロップを入れたように、単にダイアナのことを正確に描こうとする伝記映画にはしていなかった。それは映画の冒頭に964型ポルシェ911に乗るダイアナのシーンを持ってきたことからも明らかだった。ダイアナの愛車と云えばオークションで1億円超で落札されたフォード「エスコートRSターボ」。有名な愛車を運転させないことで、意図してダイアナであることをぼかして、事実とは異なるエピソードも果敢に加えて、虚偽入り交じることによってダイアナの実像を際立たせようとしていたところが巧かった。

脚本はスティーヴン・ナイト。過去にどんな作品を書いていたんだろうと履歴を調べてみたら、デヴィッド・クローネンバーグの『イースタン・プロミス』しか観たことがなかった。監督作品もあるみたいなので、今後は注目してみようとおもう。

→パブロ・ラライン→クリステン・スチュワート→イギリス、アメリカ、ドイツ、チリ/2021→109シネマズ菖蒲→★★★★