監督:バルディミール・ヨハンソン
出演:ノオミ・ラパス、ヒナミル・スナイル・グヴズナソン、ビョルン・フリーヌル・ハラルドソン、イングヴァール・E・シーグルソン
原題:Lamb
制作:アイスランド、スウェーデン、ポーランド/2021
URL:https://klockworx-v.com/lamb/
場所:MOVIXさいたま

アイスランドの田舎で牧羊をしている夫婦のもとに、育てている羊から「羊ではない何か」が生まれて、それを過去に亡くした娘の生まれ変わりであると信じて育てていくストーリー。

この3人のところへ見るからにヤクザな夫の弟が突然帰ってきて、ここで大きくストーリーが展開するんじゃないかと勝手に想像していたら、そんなことにはまったくならず、反対にその夫の弟が「羊ではない何か」を受け入れて、一緒に釣りに出かけたりするのどかなシーンが続くのには肩透かしをくってしまった。そして、ジョーダン・ピールの『NOPE/ノープ』に出てきたチンパンジーの凄惨なシーンを連想していた自分にとって、弟が兄の妻に手を出そうとする展開が来るに至っては、この映画はどこに進むんだろう? になってしまった。

安定した3人の生活のもとに入り込む夫の弟が作り出す不協和音が「羊ではない何か」の存在を揺るがす展開が一般的だとはもうのだけれど、そうしなかったところが面白いと云えば面白い。でも、じゃあ、結末に納得が行くかと云えば、そこへ行く過程や伏線が乏しくて、ちょっと消化不良だった。

→バルディミール・ヨハンソン→ノオミ・ラパス→アイスランド、スウェーデン、ポーランド/2021→MOVIXさいたま→★★★

監督:デヴィッド・リーチ
出演:ブラッド・ピット、ジョーイ・キング、アーロン・テイラー=ジョンソン、ブライアン・タイリー・ヘンリー、アンドリュー・小路、真田広之、マイケル・シャノン、サンドラ・ブロック、ベニート・A・マルティネス・オカシオ、ローガン・ラーマン、ザジー・ビーツ、マシ・オカ、福原かれん、チャニング・テイタム
原題:Bullet Train
制作:アメリカ/2022
URL:https://www.bullettrain-movie.jp
場所:109シネマズ木場

昨今のグローバルコンテンツ化の波に乗り遅れているのが日本の小説界で、外国語に翻訳された小説が海外で話題になるのは村上春樹ぐらいだろうとおもう。いわんや、ハリウッドで日本の小説が原作となる映画が作られるのはとてもまれだった。でも最近は、日本の小説を海外に売り込むエージェントが存在していて(https://www.asahi.com/articles/ASQ9864BYQ97UCVL00N.html)、伊坂幸太郎の小説「マリアビートル」はアメリカで出版される前からハリウッドでの映画化が決まったそうだ。

その「マリアビートル」を映画化したのがデヴィッド・リーチ監督の『ブレット・トレイン』。小説での主人公の七尾を映画ではブラッド・ピットが演じていて、そのほか、ほとんどが欧米の俳優でキャストが固められている。舞台も「なんちゃって日本」になっていて、品川や米原、京都などの地名は出てはくるけれど、その景色は『ブレードランナー』に影響を受けているとしか考えられない、やたらと雨が降っていて、ネオンサインが綺麗な日本だった。

おそらくは伊坂幸太郎の小説でのプロットをそのまま2時間枠の映画に持ち込んでいるので、複数のストーリーラインが複雑に交わっているところを完全に理解するのはとても無理だった。でも、日本が舞台なんだなあ、と云うモチベーションだけで最後まで面白く観ることはできてしまった。

惜しいのは、もっと日本の俳優が出てくれればよかったのに、と云うことと、映画の中に出てくるアニメーションのキャラクターが、もうちょっと「ゆるキャラ」に寄せても良かったんじゃないの? と云う部分だった。新幹線(らしきもの)が米原に停車するので「ひこにゃん」を使えればベストだったのに。

→デヴィッド・リーチ→ブラッド・ピット→アメリカ/2022→109シネマズ木場→★★★

監督:ギョーム・ブラック
出演:エリック・ナンチュアング、サリフ・シセ、エドゥアール・シュルピス、アスマ・メサウデンヌ、アナ・ブラゴジェビッチ、リュシー・ガロ、マルタン・メニエ、ニコラ・ピエトリ、セシル・フイエ、ジョルダン・レズギ、イリナ・ブラック・ラペルーザ、マリ=アンヌ・ゲラン
原題:A l’abordage
制作:フランス/2020
URL:https://www.minna-vacances.com
場所:ユーロスペース

エリック・ロメール監督の『緑の光線』(1986)は、若いフランス人にとっての夏のバカンスがどれほど重要なものなのかが痛いほどに伝わってくる映画だった。恋人と避暑地で過ごさなければならないと感じる強迫観念が異常に強くて、日本人にとっての夏休みと云うよりもどちらかと云えばクリスマスに近い感覚だった。

ギョーム・ブラック監督の『みんなのヴァカンス』を観て真っ先におもい出したのがその『緑の光線』だった。フランスの避暑地(南フランスのDie)での男と女のエピソードと云うことだけではなくて、俳優に長編映画初出演の学生たちを起用して、即興的に演出しているところもロメールの映画を想起させる部分だった。実際には即興演出ではなくて、

「俳優たちにシーン集(ステップアウトライン)を渡した。セリフは大半が間接話法で書かれている。多くは撮影に入る前、俳優たちの即興の会話を、私が録音してセリフをシーン集の中に書き加えた。だから、実際に撮っている時に即興はほとんどなくて、あらかじめ決めた上で撮影に入っている」
https://hitocinema.mainichi.jp/article/piea8uyf5w

と云うことだった。

ただ、女性目線の『緑の光線』とは違って、ちょっとぬけている感じの男三人組、フェリックス、シェリフ、エドゥアールのバカンス珍道中で、ロメールの映画に出てきそうな「めんどうくさい女」に対抗するクセの強い男たちと云う図式は少しコメディ色が強かった。ギョーム・ブラック監督は笑わせ方もツボを心得ているので、ロメール的で、笑えて、フランスの避暑地を満喫できる楽しい映画だった。

→ギョーム・ブラック→エリック・ナンチュアング→フランス/2020→ユーロスペース→★★★★

監督:ジョーダン・ピール
出演:ダニエル・カルーヤ、キキ・パーマー、スティーヴン・ユァン、ブランドン・ペレア、マイケル・ウィンコット、レン・シュミット、キース・デイヴィッド
原題:Nope
制作:アメリカ/2022
URL:https://nope-movie.jp
場所:109シネマズ菖蒲

ジョーダン・ピール監督の2017年の映画『ゲット・アウト』をAmazonのPrime Videoで見たとき、今までにない新しいホラー映画の到来を感じた。ちょうど同時期にやはりAmazonのPrime Videoで見たアリ・アスター監督の『ヘレディタリー/継承』とともに、今はあまり第何世代とか云わないのだけれど、二人の映画監督が作る新しい世代をとても強烈に感じ取ることができた。

ジョーダン・ピール監督は2019年に『アス』を撮り、アリ・アスター監督も2019年に『ミッドサマー』を撮って、ますます強烈な印象を残して、次は何を撮るんだろうと期待感がマックスに膨らんで行った。

そこで今年、ジョーダン・ピール監督の最新作『NOPE/ノープ』がやって来た。公開後すぐにはあまり駆けつけない自分にしては珍しく、公開5日目にして観に行ってしまった。

期待感と云うものは、その期待のハードルを異常に押し上げてしまう作用を同時に引き起こすもので、それなりの出来の映画を観たとしてもがっかりとしてしまう。『NOPE/ノープ』はまさにそのたぐいの映画だった。UMA(未確認動物)とか、UAP(未確認空中現象)の映画って、今までにいろいろとやり尽くしていて、斬新さを求めるとなるとどんなアイデアが必要なんだろう? ジョーダン・ピールでも流石にそれは出来ていなかった。

どちらかと云うと、UAP(未確認空中現象)が起こる前段階のエピソードとして紹介される人を襲うチンパンジーの逸話が異常に怖かった。そっちをメインに展開したほうがジョーダン・ピールらしかったんじゃないのかなあ。

→ジョーダン・ピール→ダニエル・カルーヤ→アメリカ/2022→109シネマズ菖蒲→★★★

監督:重江良樹
出演:川崎市子ども夢パークに集う人たち、フリースペースえんの子どもたち、認定NPO法人フリースペースたまりばの人たち、風基建設株式会社の人たち
制作:ガーラフィルム、ノンデライコ/2022
URL:http://yumepa-no-jikan.com/
場所:ポレポレ東中野

川崎市高津区にある子どものための遊び場「川崎市子ども夢パーク」に集まる子どもたちを描いたドキュメンタリー映画『ゆめパのじかん』を観て、こんな何でもありの自由な空間が公共の施設としてあるのか! と云う驚きとともに、こんなに自由にさせてしまったらそこに目くじらを立てる人たちもいるんじゃないの? と云う両方のおもいが巡ってしまった。

ひとむかし前のブラック校則に代表されるように神経質なルールに縛られがちな日本社会だからこそ、その窮屈さに馴染めない子どもたちも数多く出てきてしまうのは当たり前もことだろうとおもう。だから、そう云った子どもたちを救うためにはいかに伸び伸びとさせるのかがポイントなって来るは間違いない。

「川崎市子ども夢パーク」の自由度は、日本社会の基準からすると、これはちょっとヤバいんじゃない? と云うレベルだけれど、だからこそ救われる子どもたちもいて「サワ」を筆頭にその成功例の何人かがこの映画で描かれている。

じゃあ反対に、その自由度の代償がこの映画でしっかりと描かれているかと云うと、そこもとても緩かった。まあ、この映画の全体的なスタイルとして、それで統一しているからなのだろうけれど。コロナ禍でのマスクなしのことや、ボロボロの自転車で遊んでいる子どもたちのことなど、お硬い人たちからの反発必至な部分を「川崎市子ども夢パーク」がどのように対処しているのかがとても気になった、

個人的には、細かいことに文句を云ってくるやつらは背中から蹴飛ばしてやれば良いんだ、くらいの気持ちでいるんだけれど、市が運営している施設ではそうもいかないだろうから、そこをどう手当しているのか? の部分も欲しかったような気もする。そして、学校にも馴染めず、この「川崎市子ども夢パーク」にも馴染めず、と云う子どもも一定数いるだろうから、そんな子どものことも描いて欲しかった。

→重江良樹→サワ→ガーラフィルム、ノンデライコ/2022→ポレポレ東中野→★★★☆

監督:タイカ・ワイティティ
出演:クリス・ヘムズワース、ナタリー・ポートマン、クリスチャン・ベール、テッサ・トンプソン、ジェイミー・アレクサンダー、タイカ・ワイティティ、クリス・プラット、デイヴ・バウティスタ、カレン・ギラン、ポム・クレメンティエフ、イドリス・エルバ、ラッセル・クロウ
原題:Thor: Love and Thunder
制作:アメリカ/2022
URL:https://marvel.disney.co.jp/movie/thor-love-and-thunder.html
場所:109シネマズ木場

ホン・サンスの穏やかな映画の次はマーベル・シネマティック・ユニバースのうるさい映画。まあ、こんな映画のチョイスも抑揚があって悪くないんじゃないかとおもう。

アスガルドの王オーディンの世継ぎであるソー(クリス・ヘムズワース)と地球(ミッドガルド)の宇宙物理学者ジェーン(ナタリー・ポートマン)との関係の行方が、まずはこのシリーズの根幹をなすべき重要なテーマだったのに、いつのまにかロキ(トム・ヒドルストン)のキャラクターが幅を利かせてしまって、前回の『マイティ・ソー バトルロイヤル』ではジェーンは登場せず、セリフだけで二人が破局を迎えたらしいと云うことがわかる程度にまで重要度が堕ちてしまった。

『ソー:ラブ&サンダー』では、再びその二人の関係に焦点を合わすべく、想像もつかない展開にジェーンをぶっ込んできた。でも残念ながらロキの出ないソーは、美少女キャラのいないジブリ映画のようだし、食事シーンのないホン・サンスの映画のようだった。

クリスチャン・ベールが演じる神殺しゴアを登場させたり、ギリシア神話の神ゼウスのイメージってこんな感じだっけ? とおもわざるをえないラッセル・クロウを出したりしても、やはりロキの穴はまったく埋められなかった。ソーの次回作はやはりロキを復活させないと。

→タイカ・ワイティティ→クリス・ヘムズワース→アメリカ/2022→109シネマズ木場→★★★

監督:ホン・サンス
出演:イ・ヘヨン、チョ・ユニ、クォン・ヘヒョ、キム・セビョク、シン・ソクホ、ソ・ヨンファ、イ・ユンミ、カン・イソ、キム・シハ
原題:당신얼굴 앞에서
制作:韓国/2021
URL:https://mimosafilms.com/hongsangsoo/
場所:ヒューマントラストシネマ有楽町

ホン・サンス監督が次に組んだ女優はイ・ヘヨン。1960年代の韓国映画界で活躍したイ・マンヒ監督の娘であり、今までさまざま作品に出演してきたキャリア40年の女優であることを映画を観終えたあとに知った。そして、ホン・サンス監督の母親チョン・オクスクは、イ・ヘヨン監督の1968年の映画「休日」のプロデューサーであったと云う繋がりもあとから知ったのだった。そう考えるとこの映画はイ・ヘヨンのために作られた映画で、昨今、国際的にも認めらる韓国映画の礎を築いた人たちへのオマージュと云った意味合いもあるんじゃないのかとちょっと考えてしまった。

『あなたの顔の前に』は、アメリカから韓国の妹のもとに帰ってきた元女優サンオクの一日を、ホン・サンス得意の食事での会話シーンで繋いで行って、カフェ→トッポッキ店→飲み屋での中華料理と、食べる場所を移しながら、交わる相手を変えながら、次第にサンオクの現状が明らかになって行く映画だった。

冒頭に「私の顔の前にある全ては神の恵みです。明日はありません。過去もなく明日もなく、今この瞬間だけが天国なのです。天国になりえます」と云うモノローグを持ってきて、この宗教的なセリフに少し戸惑いながらも、でも次第にこのような言葉を吐くサンオクの気持ちが、切実に、ではなくて、緩やかに理解できて行く流れが気持ちよかった。

最近はガチャガチャしている映画が多いので、このような静かに流れる映画は貴重だ。

→ホン・サンス→イ・ヘヨン→ 韓国/2021→ヒューマントラストシネマ有楽町→★★★★

監督:バズ・ラーマン
出演:オースティン・バトラー、トム・ハンクス、オリヴィア・デヨング、ルーク・ブレイシー、ケルヴィン・ハリソン・Jr、コディ・スミット=マクフィー、ヘレン・トンプソン、リチャード・ロクスバーグ、デイカー・モンゴメリー、デビッド・ウェナム
原題:Elvis
制作:アメリカ/2022
URL:https://wwws.warnerbros.co.jp/elvis-movie/
場所:109シネマズ菖蒲

1977年8月16日にエルヴィス・プレスリーが亡くなったとき、日本でも大きな話題となったことを子供ながらにもよく覚えている。そして、本当はエルヴィスは生きている、なんてワイドショー的なネタがあったこともなぜか強く記憶している。でも、エルヴィス・プレスリーの曲は有名なもの以外は知らないし、彼の主演映画もなぜかすっかり無視していたので、なんとなく宙ぶらりんなイメージとして自分の中に存在している。

バズ・ラーマン監督が、いつもながらの強烈な色彩と熱量とスピード感で、そのエルヴィス・プレスリーの生涯を彼のマネージャーであったトム・パーカー大佐(トム・ハンクス)との関係を中心に映画化した。

この映画を観ることによって、自分のなかで宙ぶらりんな存在だったエルヴィス・プレスリーの人物像がくっきりとしてきた。いやあ、たとえ時代が作り上げたとしても、一時代を築きあげた人物には、そうなるような資質が備わっていて、運にも支えられて、とても魅力的な人物であることがよくわかった。とくに、白人でありながら黒人のように体をくねらせながらR&Bを歌うことへの反発を、まったく聞く耳を持たないと云わんばかりに真っ向から歯向かう姿勢を描いたところは、彼の人物像が明確になる特徴的なシーンだった。

ただ、もう一方のマネージャーのトム・パーカー大佐については、この映画ではじめて知った人物だったからか、いまいち明確な人物像が結べなかった。彼は何者だったんだろう? 単純にエルヴィスを搾取するだけの人物だったとはおもえなかった。彼だけの伝記映画も見たくなった。

→バズ・ラーマン→オースティン・バトラー→アメリカ/2022→109シネマズ菖蒲→★★★☆

監督:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:アラナ・ハイム、クーパー・ホフマン、エスティ・ハイム、ダニエル・ハイム、モルデハイ・ハイム、ドナ・ハイム、メアリー・エリザベス・エリス、マーヤ・ルドルフ、ベニー・サフディ、ショーン・ペン、トム・ウェイツ、ブラッドリー・クーパー
原題:Licorice Pizza
制作:アメリカ/2021
URL:https://www.licorice-pizza.jp/
場所:ユナイテッド・シネマ ウニクス南古谷

つい先日、WOWOWから録画したポール・トーマス・アンダーソンの『ファントム・スレッド 』を再見して、この不思議な、偏執的な男と女の愛のかたちを繊細に映像化できる彼のテクニックはすごいなあ、と再び感心していたばかりだった。その流れで『リコリス・ピザ』を観たら、これまた同じようなヘンテコな男と女の愛のかたちをテンポよく、丁寧に映像化していて、ああ、やっぱりポール・トーマス・アンダーソンは大好きな映像作家だなあ、と再確認してしまった。

でも『リコリス・ピザ』は、『ファントム・スレッド』や『ザ・マスター』のような尖ったタイプの映画ではなくて、彼の作品の中でも『ブギーナイ』や『パンチドランク・ラブ』のようなゆるいタイプの作品だった。どちらのタイプの作品も大好きなんだけれど、ゆる系の作品のほうが遊び感覚が満載で、とくに今回の『リコリス・ピザ』では彼の70年代への懐古が顕著に現れていて、当時の映画をちょこちょことオマージュしているところがめちゃくちゃ楽しかった。

そもそも主人公の少年ゲイリー(クーパー・ホフマン)のキャラクターがハリウッドのプロデューサー、ゲイリー・ゴーツマンがベースになっている、とか、三姉妹のポップロックバンド「HAIM」のアラナ・ハイムを見たらすぐさまバーブラ・ストライサンドをイメージできて、彼女主演の『スター誕生』のプロデューサー、ジョン・ピーターズをこの映画ではブラッドリー・クーパーが演じているとか、ショーン・ペン演じるベテラン俳優ジャック・ホールデンはウィリアム・ホールデンがモデルだとか、トム・ウェイツ演じる映画監督のベースはサム・ペキンパーだとか、そのようなメインどころの詳しい説明は以下のサイトを見れば良いので、

『リコリス・ピザ』徹底解説! 実在の人物・元ネタ・時代背景 あなたを1973年の夏に導く青春映画

そのほかの細かいところで、自分の映画遍歴とも結びつく70年代映画について考えてみた。

まずは1971年のハル・アシュビー『ハロルドとモード 少年は虹を渡る』。19歳のハロルド(バッド・コート)が79歳のモード(ルース・ゴードン)に恋愛感情を持つ部分が、その年齢差には足元にも及ばないものの、15歳のゲイリー(クーパー・ホフマン)が25歳(おもわず実際の年齢である28歳と云ってしまうシーンがある!)のアラナ(アラナ・ハイム)に恋愛感情を持つ部分が似ていて、モードがユダヤ人であることや、やたらと運転が上手いところもアラナとの共通点だった。

それから1979年のジョン・ハンコック『カリフォルニア・ドリーミング』。ゲイリーがアラナに対して「おっぱい見せて」って云うあたりは、やはりこの映画のグリニス・オコナーと結びついてしまう。おそらくはエイミー・ヘッカーリング『初体験/リッジモント・ハイ』(1982)が直接的に影響する映画(ショーン・ペンも出ている!)なんだろうけれど、自分としてはやっぱり『カリフォルニア・ドリーミング』。

そしてラストの、ゲイリーとアラナが走り寄って行って、やっぱりお前がいなきゃダメなんだ! って感じで抱きつくところ。このシーンには70年代の何かの映画が閃くけれど、その映画が何なのかさっぱりおもい出せない。うーん、ハーバート・ロス『グッバイガール』(1977)あたりかなあ。いや、もうちょっと若い男女の恋愛映画だったような気もする。続行考え中。

と云うように、もちろんベースは『アメリカン・グラフィティ』(1973)だし、『タクシードライバー』(1976)のようなシーンも出てくるし、アラナ・ハイムの風貌からバーブラ・ストライサンドの映画も見えて来るし、そのような70年代映画大好きの人間としてはとても楽しい映画だった。でも反対に、そんなベースの無い人にとって、この映画は面白かったんだろうかと考えて見るとそれはちょっと疑問だった。前後のシーンのつなぎなどをすっ飛ばしているこの映画は、ほとんどの人にとっては、なにがなにやら、だったかもしれない。どうなんだろう?

→ポール・トーマス・アンダーソン→アラナ・ハイム→アメリカ/2021→ユナイテッド・シネマ ウニクス南古谷→★★★★

監督:ジョセフ・コシンスキー
出演:トム・クルーズ、マイルズ・テラー、ジェニファー・コネリー、ジョン・ハム、グレン・パウエル、ルイス・プルマン、エド・ハリス、ヴァル・キルマー
原題:Top Gun: Maverick
制作:アメリカ/2022
URL:https://topgunmovie.jp
場所:109シネマズ木場

1986年に公開されたトニー・スコット監督の『トップガン』をどこで観たんだろうかと調べてみると、1986年8月28日に行われた日本劇場での試写会でだった。日本劇場のような大きな映画館での試写会なので、おそらくはマスコミ試写で、当時勤めていた会社の中に回ってきた試写状だったと記憶している。

その1986年の『トップガン』を観た印象としては面白かったと云う記憶はまったくなく、ただ、テンポの早い映像カットとケニー・ロギンズやマイアミ・サウンド・マシーンやヨーロッパの曲とのコラボレーションがまるで当時のMTVのように相性バツグンだなと感じたくらいだった。だからサントラのCDをすぐさま買ってしまった。

あれから36年。その続編が、コロナの影響もあって伸びに伸び、やっと公開された。これほど長い時間、予告編を見せられた映画もほかに無いんじゃないかなあ。

その『トップガン マーヴェリック』を観た印象としては、これがとても面白かった。やっていることと云えばハリウッドのお手本のようなストーリー構成なんだけれど、その36年もの月日によって醸成されたノスタルジックを刺激する要素があちらこちらに上手く散りばめられていて、とくに実際にガンを患って声が出にくくなっているヴァル・キルマーを登場させるズルさによって涙腺崩壊は必至だった。これで、実際のメグ・ライアンも登場してきていたらおそらく卒倒していただろうとおもう。

トム・クルーズの、あの宗教から来るまやかしなのか、それとも天然なのか、まっすぐな誠実さを年に1回ぐらいの行事にしても良いのかも知れない。と云うことで、来年は『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』が来るらしい。

→ジョセフ・コシンスキー→トム・クルーズ→アメリカ/2022→109シネマズ木場→★★★★