監督:ジェームズ・ガン
出演:クリス・プラット、ゾーイ・サルダナ、デイヴ・バウティスタ、ヴィン・ディーゼル、ブラッドリー・クーパー、マイケル・ルーカー、カレン・ギラン、ポム・クレメンティエフ、エリザベス・デビッキ、シルベスター・スタローン、カート・ラッセル
原題:Guardians of the Galaxy Vol. 2
制作:アメリカ/2017
URL:http://marvel.disney.co.jp/movie/gog-remix.html
場所:109シネマズ木場

第1作目の『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』が、「マーベル・シネマティック・ユニバース」のシリーズの中に位置していると云うこと以外の部分でビビッときたのは、やはり70年代、80年代の音楽の使い方だった。そんなに音楽好きとは云えない自分にとっても、MTVをテレビで良く見ていたので、

「帰ってほしいの(I Want You Back)」ジャクソン5
「チェリー・ボム(Cherry Bomb)」ザ・ランナウェイズ
「エイント・ノー・マウンテン・ハイ・イナフ(Ain’t No Mountain High Enough)」マーヴィン・ゲイ & タミー・テレル

なんて曲が流れると、不思議と脳内が活性化されてウキウキとした気分にさせられて、ちょっと踊り出したくなってしまう。

それに、映画の中で流れる音楽が「カセットテープ」と云う過去のメディアに収められている設定も、エアチェック全盛の時代に生きた自分にとってはビビッと来る部分だった。ピーター・クイルの母親と同じように「最強 Mix」カセットテープを編集したものだった。

その『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のVol.2である『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー: リミックス』も、前作よりはストーリーがスッキリとしてなくて、ちょっと混乱しているきらいはあるけど、やはり懐かしい音楽が流れると気分が高揚して体が勝手に動き出してしまう。人間には「踊る」奴と「踊らない」奴の2種類に分類できるとドラックスは云うけど、自分は絶対に「踊る」奴だ。誰も見てないところでの話だけど。

ただ今回は、良く聞いていた音楽と云うよりは、な〜んとなく聞いたことのある音楽、が多かった。

「ミスター・ブルー・スカイ(Mr. Blue Sky)」エレクトリック・ライト・オーケストラ

「マイ・スウィート・ロード (My Sweet Load) 」ジョージ・ハリスン

特にキャット・スティーヴンスの曲は、その曲を知らなくても、あの歌声にやられてしまった。

『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』は、「マーベル・シネマティック・ユニバース」の中でも特殊な懐メロ歌謡SFショーになっているところが今後も楽しみでならない。

→ジェームズ・ガン→クリス・プラット→アメリカ/2017→109シネマズ木場→★★★☆

監督:ケリー・フレモン・クレイグ
出演:ヘイリー・スタインフェルド、ウッディ・ハレルソン、キーラ・セジウィック、ブレイク・ジェナー、ヘイリー・ルー・リチャードソン、ヘイデン・ゼトー、メレディス・モンロー
原題:The Edge of Seventeen
制作:アメリカ/2016
URL:http://www.sweet17monster.com
場所:新宿シネマカリテ

同じ年代の子たちからは浮いていて、彼女たちの常識からすれば外れた行動をするので友達もいなくて、かと云って同級生からいじめを受けているわけではなく、どこか、常人から見ればおかしな方向に突っ張って生きているような女の子が主人公の映画がアメリカではたまに作られる。『ゴーストワールド』とか『ハイスクール白書 優等生ギャルに気をつけろ!』とか『JUNO/ジュノ』とか。この映画群が、なぜかめちゃくちゃ面白い。このへんてこりんな女の子たちがとても愛おしく感じてしまうのは性格的に自分に近いものを感じるからなのかなあ。

『スウィート17モンスター』もそんな映画群の一つだった。まったく自分に自信を持てない主人公のネイディーン(ヘイリー・スタインフェルド)は、自信がないと云っておきながらも内向的になるわけではなくて、どちらかと云えば確固たる自分の世界があって、そこでの自尊自大な空回りが、もう、小憎らしいけど可愛くて、笑っちゃうけど泣けてくる映画だった。この映画が初監督作品で脚本も書いたケリー・フレモン・クレイグは、女性であるからこそ撮ることの出来るような描写が満載で、アメリカのこの世代の女の子たちに蔓延しているだろうジャンクな食生活とか、同世代の子が着ないようなダサいながらもネイディーンにぴったりの服装とか、スマートフォンでのショートメッセージのクールなやり取りとか、その一つ一つのリアリティがこの映画の面白さを下支えしていた。

ヘイリー・スタインフェルドは、コーエン兄弟の『トゥルー・グリット』やジョン・カーニーの『はじまりのうた』と、いままでの出演作品にとても恵まれていて、この映画のネイディーンも彼女にぴったりのキャラクターだった。それに、いつの間にか、ヒット曲も飛ばしていた!

→ケリー・フレモン・クレイグ→ヘイリー・スタインフェルド→アメリカ/2016→新宿シネマカリテ→★★★★

監督:ウディ・アレン
出演:ジェシー・アイゼンバーグ、クリステン・スチュワート、スティーヴ・カレル、ブレイク・ライヴリー、ジーニー・バーリン、パーカー・ポージー、コリー・ストール、ケン・ストット
原題:Café Society
制作:アメリカ/2016
URL:http://movie-cafesociety.com
場所:ユナイテッド・シネマ浦和

ウディ・アレンの映画と云えば、はじめのころは、自分の生まれ故郷であるニューヨークを舞台にすることがトレードマークで、アカデミー賞の授賞式でハリウッドからお呼びがかかってもニューヨークのカフェ「カーライル」でサックスを吹くことが優先になってしまうほどの西海岸嫌いが定着していたような気がする。でも、歳を重ねてからはそこまでの頑なな態度は取らなくなって行って、陽光きらめくロサンゼルスを舞台にした映画も数多く撮るようになったし、最近ではヨーロッパを舞台にした映画を立て続けに撮るようになった。

ウディ・アレンも81歳となって、人生の晩年に世界を見て歩く道楽も終わりを告げて、この『カフェ・ソサエティ』ではついにニューヨークに帰って来ることとなった。それも自分の生まれた1930年代を『ラジオ・デイズ』と同じようにノスタルジーたっぷりに描いているので、どうしても彼の初期の映画をおもい出さざるを得なくて、ラストでジェシー・アイゼンバーグがクリステン・スチュワートに対するおもいを断ち切れなくて遠い目になるシーンを見るに及んでは、『アニーホール』の中でウディ・アレンがダイアン・キートンに対して持ち続ける未練とすっかりとダブってしまった。ウディ・アレンはもう一度、ダイアン・キートンと映画を撮るべきだなあ。老いた二人の丁々発止のストーリーが見たい!

それにしてもこの映画のプロットは、同じようにジェシー・アイゼンバーグとクリステン・スチュワートが共演したグレッグ・モットーラ監督『アドベンチャーランドへようこそ』とそっくりだなあ。

→ウディ・アレン→ジェシー・アイゼンバーグ→アメリカ/2016→ユナイテッド・シネマ浦和→★★★☆

監督:ベン・ウィートリー
出演:ブリー・ラーソン、シャールト・コプリー、アーミー・ハマー、キリアン・マーフィ、ジャック・レイナー、バボー・シーセイ、エンゾ・シレンティ、サム・ライリー、マイケル・スマイリー、ノア・テイラー、パトリック・バーギン、トム・デイヴィス、マーク・モネロ
原題:Free Fire
制作:イギリス/2016
URL:http://freefire.jp
場所:新宿武蔵野館

今から考えると1970年代の映画は一つのシチュエーションで最後まで強引に押し切っちゃうアクション映画が多かった。ドン・シーゲル『突破口!』とか、リチャード・C・サラフィアン『バニシング・ポイント』とか、H・B・ハリッキー『バニシング in 60』とか、スティーヴン・スピルバーグ『激突』『続・激突!カージャック』とか。そんな、シンプルで、アグレッシブで、ハイテンションな映画はいつの間にか廃れてしまって、もっと複雑で、場面展開も多くて、こね繰り回す映画が多くなってしまった。

ベン・ウィートリー監督の『フリー・ファイヤー』は、銃の取引の交渉がこじれて二組のチンピラたちが延々と撃ち合うと云うワン・シチュエーションの内容で、まるで1970年代のアクション映画のようだった。ああ、やっぱり、1970年代の映画に影響を受けたタランティーノの映画が大好きなだけあって、この映画も気持ちよく観てしまった。タランティーノに比べると過激さや血糊の量がちょっと少なかったけど。

ブリー・ラーソンは『ルーム』の演技でアカデミー主演女優賞を獲ったけど、エドガー・ライトの映画とか、『21ジャンプストリート』とか、この映画とかにも出てて、演技派はぶらなくて凄く良いイメージ。

→ベン・ウィートリー→ブリー・ラーソン→イギリス/2016→新宿武蔵野館→★★★☆

監督:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ
出演:アデル・エネル、オリビエ・ボノー、ジェレミー・レニエ、オリビエ・グルメ、ファブリツィオ・ロンジョーネ
原題:La fille inconnue
制作:ベルギー、フランス/2016
URL:http://www.bitters.co.jp/pm8/
場所:新宿武蔵野館

主人公の生活範囲内で繰り広げられるだけのコンパクトなストーリーをコンスタントに撮る監督の映画が大好きだ。例えばウディ・アレンとかケン・ローチとか。最近ここに、ベルギーのダルデンヌ兄弟が加わっていることに気が付いた。いや、『サンドラの週末』を観るまでは、日本で公開される映画を追いかけてはいたけれども、とりたてて、そんなに愛着を持った監督では無かったような気がする。でも、マリオン・コティヤールの演技にやられてしまった。彼女の演技を引き出したダルデンヌ兄弟を俄然注目するようになってしまった。

『午後8時の訪問者』も素晴らしかった。若い診療医を演じるアデル・エネルの周りで引き起こるちょっとした事件をサスペンス仕立てで描きながらも、そこから現在のベルギーが抱える社会問題が浮き彫りになって来る描写力はさすがだった。

ただ、とても細かいことだけど、一つだけ注目するポイントがあった。
アデル・エネルがワッフルを食べるシーンが出て来たのだ。

ベルギーと云えば、ワッフルだ。
そのベルギー・ワッフルにはブリュッセル・ワッフルとリエージュ・ワッフルの2種類あって、日本で良く見られる丸形(楕円)のものはリエージュ・ワッフルだそうだ。

あれっ? いつもベルギーのリエージュ(の近郊のセランという街)を舞台にしているダルデンヌ兄弟の映画にリエージュ・ワッフルが出て来たことがあっただろうか?
無かった気がする。

と云うようなことをTweetしたら、親切にも『午後8時の訪問者』の公式Twitterの人が答えてくれた。

ああ、そうだった。確かに『ロゼッタ』で主人公がワッフル屋で働くシーンがあった。でも、問題にしていたのは、ワッフルを食べるシーンがあったかなあ、だった。

ワッフルを食べると云う行為は、やはり、どこか、生活に余裕があるように見える。
たいした余裕では無いのかもしれないけれど、今までのダルデンヌ兄弟の映画には、そんなちょっとした余裕もない人物ばかりが主人公だった。だから、ワッフルを食べるシーンなんて無かったんじゃないのかなあ、とおもったまでだった。

『午後8時の訪問者』の主人公は、保険診察ばかりの開業医と云えども医者と云う高収入が得られる職業に就いている人物だったところが今までのダルデンヌ兄弟の映画とは違うところだった。だからワッフルを食べるシーンが出て来たのかなあ、なんて、ものすごく細かいところに目が向いてしまった。

ダルデンヌ兄弟をしっかりと注目しはじめたのは『サンドラの週末』からなので、もしかするとワッフルを食べるシーンを忘れていたりする可能性もある。もう一度、すべてを見返したいなあ。

→ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ→アデル・エネル→ベルギー、フランス/2016→新宿武蔵野館→★★★★

監督:チャン・イーモウ
出演:マット・デイモン、ジン・ティエン、ペドロ・パスカル、ウィレム・デフォー、アンディ・ラウ、ルハン、チャン・ハンユー、ジュンカイ
原題:The Great Wall / 長城 / 长城
制作:中国、アメリカ/2016
URL:http://greatwall-movie.jp
場所:109シネマズ木場

チャン・イーモウ監督が撮る映画なわけだから、てっきり万里の長城を舞台にした中世の史劇ではないかと勝手におもい込んで観に行ったら、なんとこれが怪獣映画だった。万里の長城は、中国神話の怪物「饕餮(とうてつ)」の攻撃から守るために作られたのだった。

「饕餮」と聞いて、たしか、小野不由美の「十二国記」のシリーズのどれかに出て来たんじゃないかとネットで調べたら、「風の海 迷宮の岸」の中で戴極国(たいきょくこく)の麒麟「泰麒(たいき)」が伝説の妖魔「饕餮」を自分の使令にするくだり(P243あたりから)があることがわかった。さらに「魔性の子」(こっちは読んでいない)にも出てくるらしい。で、その「十二国記」では「饕餮」を「すでに伝説の一部だとさえ信じられている妖(あやかし)」と表現していて、その姿は千変万化する、としていた。

ところが『グレートウォール』ではその「饕餮」を「十二国記」のような妖魔ではなくて、どちらかと云えば恐竜のような怪獣として描いていた。それが大量に押し寄せてくる様子はいかにもハリウッド的で、チャン・イーモウなんだからもっと東洋的な「妖(あやかし)」のほうが良かったんじゃないかとおもわざるを得なかった。

でも、それにひきかえ「饕餮」を迎え撃つ禁軍側のカラフルさは、まさにチャン・イーモウが得意とするところの原色を基調とした鮮やかな色使いだった。特に女性ばかりの軍隊「鶴軍」の目の覚めるような青が美しく、ジン・ティエンをリーダーとした彼女らが万里の長城から飛び降りるさまはカッコよくて、「饕餮」と死闘を繰り広げるシーンにはちょっと鳥肌が立つくらいだった。

チャン・イーモウにしては単純なアクション映画だったけれども、こちらで勝手に勘違いしていた映画のイメージとは良い方向にズレていたので、そこのギャップで充分に楽しめてしまった。やはり映画は事前に情報を入れなければ入れないほど楽しめる。

→チャン・イーモウ→マット・デイモン→中国、アメリカ/2016→109シネマズ木場→★★★☆

監督:湯浅政明
声:星野源、花澤香菜、神谷浩史、秋山竜次(ロバート)、中井和哉、甲斐田裕子、吉野裕行、新妻聖子、諏訪部順一、悠木碧、檜山修之、山路和弘、麦人
制作:ナカメの会(フジテレビジョン、東宝、サイエンスSARU、KADOKAWA、BSフジ)/2017
URL:http://kurokaminootome.com
場所:ユナイテッド・シネマ浦和

フジテレビ深夜の「ノイタミナ」枠で放映されたアニメーション「四畳半神話大系」は、大学入学を機にサークル活動を通じて「バラ色のキャンパスライフ」を目論む「私」が、次第に悪友の「小津」とともに不毛で無意味な大学生活を送る破目におちいってしまう過程を、饒舌な一人称のナレーションと癖のある彩色とデフォルメで、テンポ良くまくしたてる小気味良いアニメーションだった。そこで展開される小理屈も、そうそう、とうなずくことが多かったので、森見登美彦の原作まで買って読んでしまった。

その「四畳半神話大系」を作った湯浅政明監督が、同じ森見登美彦の原作をまったく同じ手法で作ったのが『夜は短し歩けよ乙女』だった。今回も、冴えない大学生の「先輩」が女子大生の「黒髪の乙女」に対して恋心を抱くうちに、奇妙キテレツな人物たちとめぐりあって訳の分からないおかしな事件に巻き込まれて行くと云うストーリーで、「先輩」の饒舌なナレーションとか、出てくる台詞の「黒髪の乙女」や「奇遇ですね」とか、さらに樋口清太郎や羽貫涼子やジョニーなど一部のキャラクターが被るところとか、まるで「四畳半神話大系」のパラレルワールドのような内容のアニメーションだった。

今回も「四畳半神話大系」と同じように楽しいアニメーションには仕上がってはいたけれども、うーん、「四畳半神話大系」の「私」と「明石さん」との関係の「もふもふ」した感覚がとてもイメージとして心に残っているので、それよりも「先輩」と「黒髪の乙女」との関係を空々しく感じてしまった。また、パンツ総番長のミュージカル・シーンが、本線の「先輩」と「黒髪の乙女」とのストーリーよりも前にでしゃばって出て来る感じが、なんとも、残念だった。

→湯浅政明→(声)星野源→ナカメの会(フジテレビジョン、東宝、サイエンスSARU、KADOKAWA、BSフジ)/2017→ユナイテッド・シネマ浦和→★★★☆

監督:クリス・マッケイ
声:山寺宏一、子安武人、小島よしお、沢城みゆき、オカリナ(おかずクラブ)、ゆいP(おかずクラブ)、間宮康弘、雨蘭咲木子
原題:The Lego Batman Movie
制作:アメリカ、デンマーク/2017
URL:http://wwws.warnerbros.co.jp/legobatmanmovie/
場所:109シネマズ木場

フィル・ロード&クリストファー・ミラー監督の『LEGO® ムービー』を、面白いから観てみな、と人に勧められたときに、こんなおもちゃの「レゴ」がぎこちなく動く映画の面白さなんてタカが知れている、と馬鹿にして観に行った。ところが、そんな馬鹿にしていた自分を反対に馬鹿にしたいくらいの、めちゃくちゃに面白い映画だった。実際のおもちゃの「レゴ」が子供に向けて発信している「楽しさ」がめいっぱいに詰まった映画で、大人に対しては子供の頃に無邪気に遊んだ「楽しさ」をおもい出させてくれるような、なんとも素晴らしい映画だった。おそらくその「楽しさ」は、まずは映画としてのシナリオがしっかりしているうえに、シリアスなテーマを内包していながらもそれを前面に押し出さずにおもちゃの「レゴ」で包み隠してしまう奥ゆかしさにあるんだろうとおもう。「楽しさ」なんて、テキトーに見えながらも実際には実が詰まっているギャップにこそあるのだ。

今回のクリス・マッケイ監督の『レゴバットマン ザ・ムービー』もしっかりと『LEGO® ムービー』を継承していた。仲間との「絆」とか、「敵」がいるからこそ「自分」の存在意義があるんだとか、正面切って真面目に云われてしまうとムズムズしてしまうようなテーマを「レゴ」と云うオブラートで包み込んで、過去の「バットマン」シリーズをちゃかしたり、いろんな映画に出てくる悪役達をちゃかしたりしながら、じわーっとテーマが浮き上がってくるような映画に仕上がっていた。ちゃっちく見えていながら、その実、しっかりとした中身のあるものほど凄いものはないなあ。

→クリス・マッケイ→(声)山寺宏一→アメリカ、デンマーク/2017→109シネマズ木場→★★★★

監督:バリー・ジェンキンス
出演:トレヴァンテ・ローズ、アシュトン・サンダース、アレックス・ヒバート、アンドレ・ホランド、ジャレル・ジェローム、ジェイデン・パイナー、ナオミ・ハリス、ジャネール・モネイ、マハーシャラ・アリ
原題:Moonlight
制作:アメリカ/2016
URL:http://moonlight-movie.jp
場所:ユナイテッド・シネマ浦和

今年のアカデミー賞作品賞は、プレゼンターのウォーレン・ベイティとフェイ・ダナウェイからいったんはデミアン・チャゼル監督の『ラ・ラ・ランド』と発表されながらも、受賞者の名前が書いてある用紙の渡し間違えがわかって、バリー・ジェンキンス監督の『ムーンライト』へと変更になって大混乱になってしまった。まあ、そんな混乱もハプニングとして印象深く記憶に残るものなので、『ムーンライト』にとってはおいしい授賞式だったのかもしれない。

そのバリー・ジェンキンスの『ムーンライト』は、ドラッグを中心にしなければ生活が回って行かない黒人社会の中の「シャロン」と云う少年の成長を追いかけた映画だった。この「シャロン」は、まだまだ貧困者の多い南部の「黒人」クラスタに属するだけではなくて、子供の頃から「ゲイ」のクラスタにも属していて、映画を観る前の情報だけから判断すると、マイノリティの中のさらにマイノリティの人間の苦悩のストーリーなのかと勝手におもっていた。

実際に映画を観てみると、そのマイノリティな部分はおもったほど中心に描かれてなくて、もっと純粋な家族同士の憎しみとか愛とか、父親(のような年長者)と子供の信頼関係とか、男同士の友情とか愛情とか、「黒人」や「ゲイ」に関係することだけではない普遍的なテーマが中心として描かれていた。

特に、同級生からいじめを受けていた「シャロン」とドラッグの売人である「フアン」との関係が、父親のいない「シャロン」にとっては父子のような関係として描かれていて、「フアン」の誠実な物言いが「シャロン」にも影響を与えて行って、しまいにはドラッグの売人と云う同じ道を歩んでしまうところがなんともやりきれなかった。そして時代が移り変わって、さらりと「フアン」が(おそらくドラッグがらみで)死んだことがわかるシーンでは、「シャロン」の行く末も「死」しかないのではないかと暗示しているところも辛かった。

「フアン」が子供のころに見た、月の光の下では蒼く光って見える黒人の子供たちのエピソードが、おそらくはこの映画のタイトルの元になっているのだろうけど、そのイメージどおりの危うい美しさが全編に漂っている切ない映画だった。

→バリー・ジェンキンス→トレヴァンテ・ローズ→アメリカ/2016→ユナイテッド・シネマ浦和→★★★★

監督:ルパート・サンダース
出演:スカーレット・ヨハンソン(田中敦子)、ピルー・アスベック(大塚明夫)、ビートたけし、ジュリエット・ビノシュ(山像かおり)、マイケル・ピット(小山力也)、チン・ハン(山寺宏一)、ダヌーシャ・サマル(山賀晴代)、ラザルス・ラトゥーエル(仲野裕)、泉原豊、タワンダ・マニーモ、桃井かおり(大西多摩恵)
原題:Ghost in the Shell
制作:アメリカ/2017
URL:http://ghostshell.jp
場所:109シネマズ木場

押井守監督の『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』(1995年)は、アメリカの『ビルボード』誌のホームビデオ部門で売上第1位を記録したためにハリウッドの映画人にも多くの影響を与えた作品で、いったい誰の手で実写化されるのか早くから期待されていた作品でもあった。で、それが20年目にしてやっと実現された。

どんな場合でも「元」がある場合には、その「元」のイメージを損なわずに、それでいてあわよくば「元」を凌駕させようと狙う作業は大変なことだ。でも、その「元」にある重要なエッセンスさえ継承されていれば、まあ、充分に観賞に堪えうる作品になるとおもうのに、いつもそれがなぜかなおざりになってしまうのはなぜなんだろう。

押井守監督の『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』に出てくる名セリフとして以下の二つがある。

「そう囁くのよ、……私のゴーストが 」
「さて、どこへ行こうかしら、ネットは広大だわ」

この二つのセリフが意味するところのエッセンスがルパート・サンダース版にはまったく継承されていなかった。もちろん義体化や疑似記憶も重要なファクターだけれど、まずそれよりも膨大なサイバースペース情報網での攻性防壁を介してのハック合戦にこそに興奮を覚える部分なんだけどなあ。それは神山健治版「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」にはちゃんと継承されていた部分でもあったのに、なぜそこがないがしろにされたのかまったく理解できなかった。もしルパート・サンダースの首の後ろにジャックがあったのなら、そこに誰か、押井守でも神山健治でも良いんだけど、直接接続して伝えられたのに。

→ルパート・サンダース→スカーレット・ヨハンソン(田中敦子)→アメリカ/2017→109シネマズ木場→★★☆