監督:ジェフ・ニコルズ
出演:マシュー・マコノヒー、リース・ウィザースプーン、タイ・シェリダン、ジェイコブ・ロフランド、レイ・マッキノン、サラ・ポールソン、マイケル・シャノン、ジョー・ドン・ベイカー 、サディー・アントニオ、サム・シェパード
原題:Mud
制作:アメリカ/2012
URL:http://mudmovie.net
場所:吉祥寺バウスシアター
今年のアカデミー主演男優賞は『ダラス・バイヤーズクラブ』のマシュー・マコノヒーが獲った。つい最近までマシュー・マコノヒーと云う俳優のイメージに確たるものが何もなく、主演女優の脇にいる優男くらいのイメージしかなかった。ところが突然、2012年のリー・ダニエルズ監督『ペーパーボーイ 真夏の引力』で、マゾヒストの黒人好きゲイ役でとても強烈な印象を残した。もしかするとこの映画で、俳優としての何かを開眼したのもしれない。何かが憑いたとも云えるのかもしれない。そしてジェフ・ニコルズの『MUD -マッド-』を経て、ジャン=マルク・ヴァレの『ダラス・バイヤーズクラブ』へと続く流れは、彼が演技派の俳優として化けて行く過程を順を追って目撃できたのかもしれない。
『MUD -マッド-』でマシュー・マコノヒーが見せる穏やかな演技は、殺人を犯してまで一途に一人の女性を愛し続けるような情熱の持ち主にはまったく見えない。しかし、他の登場人物たちが見せる不安定な感情に、その落ち着いた演技を対照させることによって静かな情熱が浮かび上がってきて、人を愛すると云う事の本来の意味をこの映画の主人公の少年のみならず映画を観ている我々にも優しく問いかけて来るような映画の構造が出来上がる。マシュー・マコノヒーのその微妙な演技の匙加減がとても巧かった。ある意味、『ペーパーボーイ 真夏の引力』のような個性のある人物は演じ易く、この『MUD -マッド-』のような曖昧な人物こそ演じ難い。『ペーパーボーイ 真夏の引力』からすぐに『ダラス・バイヤーズクラブ』へ向かうのではなく、この『MUD -マッド-』を挟んだ事によって、マシュー・マコノヒーの演技の幅が広がったんじゃないかと勝手に想像してしまう。まだ『ダラス・バイヤーズクラブ』を観てないのに。
それから、この映画の興味深いところは、Deep Southと云う言葉があるのかどうか知らないけれど、アメリカ南部、アーカンソー州の奥深いホワイト・リバー流域に住む船上生活者たちを描いているところだった。ホワイト・リバーからミシシッピ川に合流するシーンが解放感いっぱいだ。
→ジェフ・ニコルズ→マシュー・マコノヒー→アメリカ/2012→吉祥寺バウスシアター→★★★☆