アイアン・フィスト

監督:RZA
出演:RZA、ラッセル・クロウ、リック・ユーン、ルーシー・リュー、デビッド・バウティスタ、ジェイミー・チャン、カン・リー、バイロン・マン、パム・グリア、ダニエル・ウー
原題:The Man with the Iron Fists
制作:アメリカ/2012
URL:http://ironfists.jp
場所:新宿武蔵野館

ついこのあいだWOWOWでジミー・ウォングやブルース・リーの映画を立て続けに観たのだけれど、世間の一般的な高い評価とは相反して、どうしても香港のカンフー映画が自分にはしっくりとこないことがまた再確認できてしまった。どこがしっくりとこないのかと考えてみると、その一つの大きな要因としてシーンとシーンとのつなぎがすこぶる悪いことにある。自分にとって、面白い映画だ! と判断する大きな材料として、前のシーンと次のシーンとのつなぎの巧さに心地よさを見出すところがあって、ストーリーを考えた上での必然的なシーンの展開やその間の取り方の良さなどを重要視してしまう。ところが、十羽ひとからげにして申し訳ないけど、今まで見た香港のカンフー映画はそこがダメだった。シーンとシーンとのつなぎがとてもぎくしゃくしていて、とても映画を楽しむ気にはなれなかった。もちろん、そんなところを注目することよりも、カンフーシーンを楽しめば良いんだろうけど。

この『アイアン・フィスト』もシーンとシーンのつなぎが酷かった。これはもしかして、その部分までもがショウ・ブラザーズやゴールデン・ハーベストへのオマージュなのか。いや、監督のRZAにまだまだテクニックがないような気がする。ワイヤーアクションも効果的ではないし。やっぱりタランティーノは巧いんだなあ、と比較せざるを得ない映画だった。

→RZA→RZA→アメリカ/2012→新宿武蔵野館→★★☆

パシフィック・リム

監督:ギレルモ・デル・トロ
出演:チャーリー・ハナム、菊地凛子、イドリス・エルバ、チャーリー・デイ、バーン・ゴーマン、クリフトン・コリンズ・Jr、マックス・マルティーニ、ロバート・カジンスキー、ロン・パールマン、芦田愛菜
声:杉田智和、林原めぐみ、玄田哲章、古谷徹、三ツ矢雄二、千葉繁、池田秀一、浪川大輔、ケンドーコバヤシ、芦田愛菜
原題:Pacific Rim
制作:アメリカ/2013
URL:http://wwws.warnerbros.co.jp/pacificrim/
場所:ユナイテッド・シネマとしまえん

公開初日からロボットオタクの方々のテンション高めのツイートがバンバン流れて来て、微に入り細に入ったマニアックな視点をいかに指摘できるのか選手権が激化して、もう行かずとも観た気分にさせられてしまった『パシフィック・リム』ですが、でも体験型映画鑑賞スタイルのIMAXにはツイートだけでは味わえない肌で感じる臨場感もあるし、巨大ロボットと怪獣の戦いならばいつもよりも重低音の度合いもことさらアップしているとおもわれるので、ここはしっかりと映画館に足を運んで、ロボットオタクの方々の言われるポイントをしっかりと確認して来ました。

なるほど、確かにギレルモ・デル・トロの日本の怪獣映画やロボットアニメへのリスペクトはひしひしと感じられるし、VFXも細かな部分にまで作り込まれていて、大味なドラマ部分の陳腐さが消し飛んでしまうほどにそれは補って余りあるものだった。このような映画に対してみんなが盛り上がっているところに、映画のクオリティをうんぬん云って水を差すのも野暮な気がして、ここはみんなと同じようにテンションを高めて、まるでアトラクションを楽しむようにIMAX3Dを単純に楽しめば良いような気がして来た。ただひとつだけ、大変申し訳ないのですがひとつだけ気になってしょうがなかった。これは最近のハリウッド系SFアクション映画に対して共通に言えることだけど、画面が暗い! 3D映画なのでさらに暗い! これじゃ動きの速いシーンでは何が起きているかさっぱりわからない。日本のロボットアニメでも怪獣映画でもウルトラマンシリーズでもみんな青空の下で闘っているじゃないか。そこも日本の特撮に習って欲しかった。

→ギレルモ・デル・トロ→チャーリー・ハナム→アメリカ/2013→ユナイテッド・シネマとしまえん→★★★☆

風立ちぬ

監督:宮崎駿
声:庵野秀明、瀧本美織、西島秀俊、西村雅彦、スティーブン・アルパート、風間杜夫、竹下景子、志田未来、國村隼、大竹しのぶ、野村萬斎
制作:スタジオジブリ/2013
URL:http://kazetachinu.jp
場所:109シネマズ木場

宮崎駿のアニメーションのどこに魅力を感じるかと云えば、高低差を利用したダイナミックな戦闘シーンや躍動感あふれるモブシーンやヒロインの一途な無償の愛を真っ先におもい浮かべてしまうけど、今までの作品をすべて鳥瞰した場合に、そうだ、そんなメインの部分を盛り上げるべく存在している脇役に一番の魅力を感じているんだと云うことがわかって来る。例えば『未来少年コナン』ならモンスリーとか、『風の谷のナウシカ』ならクシャナやクロトワとか、『天空の城ラピュタ』ならドーラとか、『千と千尋の神隠し』なら湯婆婆とか、心根は優しいのに底意地が悪くてシニカルで自己中心的でねじくれて屈折したキャラクターが大好きなのだ。そしてそこに、宮崎駿本人のキャラクターを見ている。インタビューをすれば必ずと云って良いほどへそ曲がりな発言をするヒゲじじいをだ。つまり、そんな宮崎駿本人が好きで好きでたまらないと云うことか。うーん、どうなんだろう。このクソムシめ、と云いながら好きなのかもしれない。屈折してる。

この『風立ちぬ』にはそんな屈折した脇役がまったく登場しない。つまり宮崎駿がいない。宮崎駿の魂がない。だから、本来ならこんな映画を宮崎駿の映画とは認めることができないはずだ。でも、観るタイミングが悪すぎた。いや、良すぎたのか。この16日に一緒に青空文庫をやって来た富田さんが亡くなった後に観る映画としてはベストの映画だった。もしかすると『風立ちぬ』を観るタイミングをわざとここまで引っ張って来た確信犯だったのか。ラストで荒井由実の「ひこうき雲」が流れるところでは涙が止まらなかった。富田さんにも、このクソムシめ、とおもうことが山ほどあったのに。屈折している。

→宮崎駿→(声)庵野秀明→スタジオジブリ/2013→109シネマズ木場→★★★★

第七の封印

監督:イングマール・ベルイマン
出演:マックス・フォン・シドー、グンナール・ビョルンストランド、ベント・エケロート、ニルス・ポッペ、ビビ・アンデショーン、グンネル・リンドブロム、ベティル・アンデルベルイ、オーケ・フリーデル、インガ・ジル、モード・ハンソン
原題:Det sjunde inseglet
制作:スウェーデン/1957
URL:http://www.bergman.jp/3/
場所:ユーロスペース

ベルイマンの映画は、おもに後期の夫婦や家族を扱った作品が大好きで、『叫びとささやき』、『ある結婚の風景』、『秋のソナタ』、『ファニーとアレクサンデル』あたりは生涯ベストに入ってくる映画だろうとおもう。でも、それ以前の映画は、キリスト教や北欧神話をベースにした死生観や倫理観を語る映画が多く、もともと難解なテーマを扱っている上に日本人には理解しにくい感覚が表現されていたりして、とてもその映画を楽しむと云うわけにはなかなかいかなかった。この『第七の封印』もとても難しい映画で、ストーリーを追いかけただけでは何のことなのかさっぱりわからない。ただ、この映画を見て一つだけはっきりと理解できたことは、人間にとって深刻になりがちな「死」とは、機械が歯車の動きを止めて静止するレベルのものでしかなくて、そこには神も介在しなければ、奇跡も存在しないし、死後の世界ももちろんあるわけないし、あるのはただ「無」だけだと云うことだった。もしそこに「希望」があるとすれば、それは単なる「偶然」にしかすぎなかった。ラストシーンの死のダンスを見ながら「偶然」に躍らされる我々の人生を見たような気がした。

→イングマール・ベルイマン→マックス・フォン・シドー→スウェーデン/1957→ユーロスペース→★★★

ペーパーボーイ 真夏の引力

監督:リー・ダニエルズ
出演:ザック・エフロン、マシュー・マコノヒー、デヴィッド・オイェロウォ、メイシー・グレイ、ニコール・キッドマン、ジョン・キューザック、スコット・グレン、ニコレット・ノエル、ネッド・ベラミー
原題:The Paperboy
制作:アメリカ/2012
URL:http://www.paperboy-movie.jp
場所:新宿武蔵野館

町山智浩のポッドキャストの中で、たしかロバート・エリス・ミラー監督の『愛すれど心さびしく』(原作はカーソン・マッカラーズの同名小説)を紹介するくだりだったとおもうけど「南部ゴシック」のことに触れていて、ウィリアム・フォークナーの小説「サンクチュアリ」がその「南部ゴシック」の代表作で、トビー・フーパー監督の『悪魔のいけにえ』もこの小説が元になっているんじゃないかと云っていた。その「南部ゴシック」とは、『悪魔のいけにえ』のレザーフェイスのような、『ノーカントリー』(原作はコーマック・マッカーシーの『血と暴力の国』)で云えばシガーのような、我々の常識からは想像できないような異常な行動をとる人物が出てくるのが特徴で、とても凄惨なグロテスクな描写が盛り込まれている場合が多い。そして一般的に見える人々も、キリスト教的な戒律に支配されながらも、その教えとは相反するような男尊女卑や人種差別、アブノーマルな行動をとるような異常な世界が展開されて行く。

ピート・デクスターの原作によるこの『ペーパーボーイ 真夏の引力』も暴力とセックスにまみれた「南部ゴシック」だった。今まで、どちらかと云えば優男を演じることが多かったジョン・キューザックが、フロリダの湿地帯に住む異常な男を演じていて、湿気がむんむんとする中の目が飛んでしまっている演技がすごかった。そして、その異常な男に執心するはすっぱ女をニコール・キッドマンが演じていて、前作の『イノセント・ガーデン』で見せた役者バカっぷりがここでも爆発していて、二人の演技合戦だけでこの映画を成立させてしまっていた。なので、本来ならばこの映画のメインとなるべきザック・エフロンの南部の異常な世界での人間成長物語も、マシュー・マコノヒーの黒人好きでマゾでゲイの話しもまったくかすんでしまっていた。

この映画は黒人メイドの回想形式でストーリーが進んで行く。その黒人メイドをメイシー・グレイが演じていた。メイシー・グレイと云えばエリカ・バドゥとのコラボレーションシングル”Sweet Baby”あたりを良く聞いていたのだけれども、あまり顔をしっかりと確認したことがなかったので、この映画に女優として出いることにまったく気がつかなかった。演技もなかなか上手くて、ザック・エフロンとの掛け合いの間も良かったので、てっきり専業の女優の人だとおもってしまっていた。

→リー・ダニエルズ→ザック・エフロン→アメリカ/2012→新宿武蔵野館→★★★☆