オン・ザ・ロード

監督:ウォルター・サレス
出演:サム・ライリー、ギャレット・ヘドランド、クリステン・スチュワート、エイミー・アダムス、トム・スターリッジ、ダニー・モーガン、アリシー・ブラガ、エリザベス・モス、キルスティン・ダンスト、スティーヴ・ブシェミ、テレンス・ハワード、ヴィゴ・モーテンセン
原題:On the Road
制作:ブラジル、フランス/2012
URL:http://www.ontheroad-movie.jp
場所:新宿武蔵野館

ここのところCGを多用したうるさい映画ばかり見せられたので、このジャック・ケルアックの「路上」の映画化はだいぶ刺激的に目に映って、おそらく普段以上に面白く観てしまった。もちろんその根底には放浪に対するあこがれがあって、でも環境の変化に順応することの苦手な自分にはかなわないことはわかっているので、映画の主人公と同化することによってその憂さを晴らしている感情の高ぶりもあったのかもしれない。

出演俳優も豪華で、クリステン・スチュワートとエイミー・アダムスとキルスティン・ダンストの女優陣は、それぞれが最近の映画で主役をはっているような女優ばかりだ。特に、今まで出演した映画のイメージからすると、ちょっと暗いけど何となく上品で清楚な感じがしたクリステン・スチュワートが、ジャンキーのような惚けた顔のメイクで登場して、素っ裸で車に乗って、同じく素っ裸のサム・ライリーとギャレット・ヘドランドを両脇にはべらせ、いっぺんに彼らにご奉仕しているとおもわれるシーンにはぶっ飛んでしまう。ニコール・キッドマンと云い、このクリステン・スチュワートと云い、最近の女優の役者バカっぷりには恐れ入って、そしての役者バカっぷりを見るのはものすごく楽しい。

オン・ザ・ロード

チャーリー・パーカーやスリム・ゲイラードなどのジャズをふんだんに使っているのもかっこいい。ケルアックの文体はジャズの即興演奏に影響を受けたと云われているらしく、その映画化にビバップのリズムを使用しているのがとても気持ちいい。と同時に、エラ・フィッツジェラルドやダイナ・ワシントンやビリー・ホリデイなどの歌声も流れてきて、テンポの速いビバップと柔らかい女性ボーカルのコントラストも最高だった。

ラストで、破滅型人生の成れの果てを見せて哀愁を漂わせるシーンはちょっと図式的すぎたけれども、でも、CG映画のあとの口直しとしてはとても良かったとおもう。

→ウォルター・サレス→サム・ライリー→ブラジル、フランス/2012→新宿武蔵野館→★★★☆

マン・オブ・スティール

監督:ザック・スナイダー
出演:ヘンリー・カヴィル、エイミー・アダムス、マイケル・シャノン、ケビン・コスナー、ダイアン・レイン、ローレンス・フィッシュバーン、アンチュ・トラウェ、ハリー・J・レニックス、クリストファー・メローニ、リチャード・シフ、マッケンジー・グレイ、マイケル・ケリー、アイェレット・ゾラー、ラッセル・クロウ
原題:Man of Steel
制作:アメリカ/2013
URL:http://wwws.warnerbros.co.jp/manofsteel/index.html?home
場所:109シネマズ木場

アメコミのヒーローものをじっくりと読んだことがあまりないのだけれど、今は無き銀座の洋書店「イエナ」などで立ち読みをした経験からすると、暴力的な描写が多い割にはアメリカ的な能天気さを持っていて、原色を多用した色使いからも明るいコミックと言うイメージをずっと持ち続けていた。それは1970年代に映画化された「スーパーマン」シリーズにも反映されていて、ティム・バートン版「バットマン」シリーズもサム・ライミ版「スパイダーマン」シリーズにも、若干「スーパーマン」シリーズよりも主人公の「負」の部分が強調されている暗さはあるものの、おおむねアメコミの明るさを保持していたようにもおもえた。

ところが、クリストファー・ノーランが「バットマン」シリーズを撮り出したあたりから様相は一変する。ずしんと重厚さを増すようになったのだ。これは別にクリストファー・ノーランの個人的なイメージが反映されたわけじゃなくて、アメコミ自体が、例えば『ウォッチマン』の映画が公開されたときにその原作を読んでみたのだけれど、もう暗く、重く、救いのないイメージに変貌してしまっていた。アメコミの「ダークナイト」も、最近のスーパーマンシリーズである「スーパーマン:アンチェインド」も、すべて昔のアメコミとは違った「ウォッチマン」のような画調に変わっていた。これはいつからなんだろう? 「ウォッチメン」の最初のシリーズが1986年からなので、もうすでにその時には変化していたのかもしれない。

スーパーマン:アンチェインド

だから、スーパーマンシリーズの仕切り直しでもあるこの『マン・オブ・スティール』も、ずっしりと重く、暗く、とても破壊的だった。電話ボックスの中で変身するようなおおらかさはどこにもなく、映画を観ているあいだ、ずっと殴られっぱなしのような映画だった。ここでもまた007シリーズやスタートレックシリーズの時と同じように「空を見ろ! 鳥だ! 飛行機だ! いや、スーパーマンだ!」なんて言っていたころのスーパーマンのことを懐かしんでしまう。まあ、これはこれで、いまの時代を反映しているんだろうけど。

→ザック・スナイダー→ヘンリー・カヴィル→アメリカ/2013→109シネマズ木場→★★★

スター・トレック イントゥ・ダークネス

監督:J・J・エイブラムス
出演:クリス・パイン、ザカリー・クイント、ベネディクト・カンバーバッチ、カール・アーバン、ゾーイ・サルダナ、サイモン・ペグ、ジョン・チョー、アントン・イェルチン、ブルース・グリーンウッド、ピーター・ウェラー、アリス・イヴ、ノエル・クラーク、レナード・ニモイ
原題:Star Trek Into Darkness
制作:アメリカ/2013
URL:http://www.startrek-movie.jp/index.php
場所:新宿ミラノ2

ダニエル・クレイグ版の007を観た時に、今まで築き上げてきたそのシリーズのテイストをすべてぶち壊してまでも新しいことをやろうとしている人たちのことを、ただ単純に昔を懐かしむあまりに全面否定をするのはやめようと反省したのだけれど、とは云え、スタートレックほどの長きにわたるシリーズとなると、確固たるその映画の精神と云うものがあって、それをないがしろにしてはダメだろうと云うおもいはすごく強い。JJによるスター・トレック の新シリーズは、その根本のところをまるっきり無視しているように見えてならない。特にスポックの扱いは酷い。激情をあらわにしたり、積極的に暴力をふるったりとまったくバルカン人には見えない。非論理的行動が多すぎる。この部分を破壊しては、もうスタートレックではないだろう。

いまの潮流に合わせてアクション寄りになったり、ハラハラドキドキの間一髪をクリアしていく描写が増えるのは許せるにしても、スポックの性格を破壊しては絶対にダメだ。JJがこのシリーズをこのまま撮るのならば、今後はもう観に行かないとおもう。

→J・J・エイブラムス→クリス・パイン→アメリカ/2013→新宿ミラノ2→★★

ワールド・ウォーZ

監督:マーク・フォースター
出演:ブラッド・ピット、ミレイユ・イーノス、アビゲイル・ハーグローヴ、スターリング・ジェリンズ、ファナ・モコエナ、イライアス・ゲイベル、デヴィッド・アンドリューズ、デヴィッド・モース、ダニエラ・ケルテス、ピーター・キャパルディ、ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ、ルース・ネッガ、モーリッツ・ブライプトロイ
原題:World War Z
制作:アメリカ/2013
URL:http://www.worldwarz.jp
場所:シネマスクエアとうきゅう

この映画の予告編をはじめて映画館で観たときに、事前の情報が何も無くても、怒濤のごとく走り寄って来る奴らはゾンビだな、と何となく予感がしたので、公開が近づくにつれて徐々にゾンビ映画であることがもっと明らかになって行くんじゃないかと期待していたら、どうやら日本ではゾンビ映画であることを伏せて公開に望もうとしている映画宣伝部の魂胆が漏れ聞こえてきた。えっ、でも、その最初の予告編を観たかぎりでも、ゾンビかどうかはわからないまでも、何か得体のしれない恐怖が押し寄せて来る映画であることはどこをどう見たって明らかなわけで、恐怖映画が嫌いな人はそれがゾンビだろうと貞子だろうと何だろうと観に行かないんじゃないのかなあ。それとも、恐怖映画であることを公開まで隠しおおせるとでもおもって、ブラッド・ピットファンを映画館に呼び込めるとでも考えていたんだろうか。だとしたら、どこをどうやってもそんなことは無理だし、例え隠しおおせて映画館に足を運ばせることに成功したとしても、隠されていたものが明らかになる衝撃たるや、もうその人は映画館に足を運ばなくなってしまうじゃないのかなあ。まったく酷い宣伝方法だ。

ゾンビ映画であることが隠されていたことにここまで憤ることになったのは、この映画がゾンビ映画としてとても良く出来ていた映画だったからだ。最初のフィラデルフィアのシーンから、得体のしれない恐怖が押し寄せてくる緊張感がすばらしい。そして、そこから韓国→イスラエル→ウェールズと場面がテンポよく大きく展開して行くのも気持ち良いし、まあ、とにかく、ゾンビのがむしゃらなスピーディさが恐怖を倍増させて、いやがおうでも緊張感が高まってしまう。おそらく、ゾンビに感染すると運動機能が向上するに違いない。ゾンビ・ウィルスに対処するべくワクチンを開発する際の逆説的解決法も自然界の真理を突いた巧いプロットの立て方だった。

2020年の東京オリンピックも決まって世間は浮かれ騒いでいるけれど、どう考えたって7年後は、地震、原発の問題、集中豪雨、竜巻、インフルエンザなどのパンデミックなどによって、絶対にこの映画のようになっているに違いないとおもわせるようなリアリティあふれる映画だった。

→マーク・フォースター→ブラッド・ピット→アメリカ/2013→シネマスクエアとうきゅう→★★★★

トゥ・ザ・ワンダー

監督:テレンス・マリック
出演:ベン・アフレック、オルガ・キュリレンコ、レイチェル・マクアダムス、ハビエル・バルデム
原題:To the Wonder
制作:アメリカ/2012
URL:http://www.tothewonder.jp
場所:新宿武蔵野館

テレンス・マリックと云えば、『地獄の逃避行』から数えると、5年、20年、7年、6年と間隔が開いて新作が公開されて来た寡作作家だった。特に、彼の代表作とも云える『天国の日々』から『シン・レッド・ライン』までは20年もあって、テレンス・マリックがやっと新作を作りはじめているらしい、とニュースが流れて来た段階でもうすでに感動してしまったくらいだった。だから、彼の映画を見終えた時の物寂しさは半端なく、ああ次は、もしかすると10年後かなあ、と長い別れを惜しみながら映画館を去るのが常だった。

ところが前作の『ツリー・オブ・ライフ』からわずか1年でこの新作がやって来た。たった1年でだ! それも『ツリー・オブ・ライフ』と似たような手法をそのまま踏襲している。モノローグ、人物をなめるように動くカメラ、美しい自然の情景、マジックアワーなどは、もちろんすべての作品に共通する手法だけれども、まるでコラージュのようにシーンを並べて行く手法は『ツリー・オブ・ライフ』でより顕著になって、前後のつながりをほとんど無視したイメージ・クリップのような表現スタイルに進化させている。それを『トゥ・ザ・ワンダー』でもそのまま倣っている。

テレンス・マリックの中でどのような変化があったのかはわからない。あまりにもメディアに露出する機会が少ないので、そのことに触れた記事をまだ見たことがない。このまま多作作家へと変貌するのか。それともまた長い冬眠へと入って行くのか。どちらにしろ、また次の作品が日本へやって来るのを静かに心待ちにするだけだ。

→テレンス・マリック→ベン・アフレック→アメリカ/2012→新宿武蔵野館→★★★☆