上映後の佐藤元状(英文学者・映画研究者)さんと木内久美子(比較文学研究者)さんとのトークで、パトリック・キーラーはイギリスのドキュメンタリー作家、ハンフリー・ジェニングスの影響を受けているのではないかと『英国に聞け』(Listen to Britain、1941)が紹介された。それを観た感じではそんなに影響があるとはおもえなかったけど、『ロンドン』や『空間のロビンソン』も観ればまた印象が違うのかもしれない。どちらかかと云うと、今回のパトリック・キーラーの上映会のために用意されたパンフレット「時間のランドスケープス」に書いてあったようにクリス・マルケルの影響があるようにもおもえるし、自然の風景との対比ではテレンス・マリックをもちょっとおもい出してしまった。
●クロエ・アンゲノー、ガスパル・スリタ監督『いつもそこにあるもの』(Always and Again、フランス、2015)
日本のドキュメンタリー映画は、ナレーションやテロップが盛りだくさんのものが多い。いたるところに説明書きや案内板がある日本の社会と同じようにいたれりつくせりだ。それに対して外国のドキュメンタリー映画は、いきなりポーンと放り出されて、ほったらかしにされる場合が多い。この『いつもそこにあるもの』も、場所や人物については何の説明もない。映し出される映像だけから、どこか外国の、切通しに埋め込まれているような不思議な佇まいのアパートの一室であることがわかる。言葉はイタリア語のようだ。いろんな世代の女性が次々と出てくる。おそらく三世代の家族だろう。男がいないのはどうしてだろう。いや待てよ、部屋の片隅のベッドに寝ている男の人がいる。ずっと寝たきりだ。パトリッツィアって誰だ? ああ、婆さんか。孫がロマーナで、エンツォって孫もいるみたいだぞ。エンツォは刑務所にいるらしい。もう一人の娘はいったい誰だ? と、推測して行くしかない。でも、説明過多のドキュメンタリー映画よりも、断然このタイプの映画の方が好きだ。
●杜海濱(ドゥ・ハイビン)監督『青年★趙(チャオ)』(A Young Patriot、中国、フランス、アメリカ、2015)
子供のころに受けた愛国主義教育によって植え付けられたナショナリズムも、大学などの高等教育を受けて内省できるような人間に成長できれば自ずと多様的な考えがあることを理解できるようになり、単純なナショナリズムへの疑問が芽生えて行くようになることを実証している映画だった。ニュースから流れる「中国」と、山形で観る中国のドキュメンタリーに出てくる「中国」とはいつも重ならない。
●アレクサンダー・ナナウ監督『トトと二人の姉』(Toto and His Sisters、ルーマニア、2014)
ロマ人はルーマニア社会でも最下層に位置するらしく、仕事の無いロマの若い奴らは四六時中クスリばっかりを射っている。それをそのままカメラに収めている部分に引っかかるところがあるけど、それが現実だとしたらやはりそのままカメラに収めるべきだともおもうし。最下層から抜け出すには周りのサポートが大切なのに、刑務所から出所したばかりの母親のダメさ加減が見えて映画が終わるところに絶望感が。トトがヒップホップダンスの才能で最下層から抜け出せることを願うばかり。
監督:マシュー・ヴォーン
出演:コリン・ファース、タロン・エガートン、マイケル・ケイン、マーク・ストロング、サミュエル・L・ジャクソン、ソフィア・ブテラ、マーク・ハミル、ソフィー・クックソン、エドワード・ホルクロフト、サマンサ・ウォーマック、ジェフ・ベル、ビョルン・フローバルグ、ハンナ・アルストロム、ジャック・ダベンポート
原題:Kingsman: The Secret Service
制作:イギリス/2014
URL:http://kingsman-movie.jp
場所:109シネマズ菖蒲