ヤング・アダルト・ニューヨーク

監督:ノア・バームバック
出演:ベン・スティラー、ナオミ・ワッツ、アダム・ドライバー、アマンダ・セイフライド、チャールズ・グローディン、アダム・ホロウィッツ
原題:While We’re Young
制作:アメリカ/2014
URL:http://www.youngadultny.com
場所:TOHOシネマズみゆき座

『イカとクジラ』や『フランシス・ハ』で夫婦、家族や友人関係を不思議な切り口できめ細やかに描いていたノア・バームバック監督の新作。

『ヤング・アダルト・ニューヨーク』は、最初に「子供を持つ」と云う価値観から二つの夫婦を対比させて描いていて、今回のノア・バームバックの視点はここか、とおもわせておいて、さらに若い夫婦が絡んできて、なるほどジェネレーション・ギャップも加えるのか、と徐々にいろんな要素が加わって行って、主としてベン・スティラーとナオミ・ワッツの中年夫婦とアダム・ドライバーとアマンダ・セイフライドの若い夫婦の関係がストーリーの核となって行く。でもそこから、著名なドキュメンタリー作家(チャールズ・グローディン)の娘(ナオミ・ワッツのこと)を妻にもらった自身もドキュメンタリー作家のベン・スティラーに、ドキュメンタリー作家として有名になろうと野心に燃えるアダム・ドライバーの若夫婦が巧く取り入っていたのだとわかると一気にサスペンス調になって、今までのノア・バームバックの映画にはない調子に変わって行く。

さらに、アダム・ドライバーが撮っているドキュメンタリー映画が「やらせ」であることが発覚すると、今度はドキュメンタリー作家としての倫理的な問題も絡んできて、やたらと要素がてんこ盛りの映画になって、この収拾はどうするんだろうと心配になってしまった。

でもそこはさすがにノア・バームバックだった。ドキュメンタリー映画は、扱う題材が引き立てば、どのようにアプローチするかは問題にならない、と著名なドキュメンタリー作家(チャールズ・グローディン)に云わしめる。これはつまり、夫婦関係も、友人関係も、その関係が良好であれば、そこには「やらせ」があっても良いんじゃないかとも受け取れる。子供なんてほんとうは嫌いなのに、素敵な夫婦関係を保つために子供好きを装うのだ。別に若々しく振る舞いたいわけではないけれど、そのようにしている自分が美しいからばんばるのだ。

で、ラスト、赤ちゃんを見つめるベン・スティラーとナオミ・ワッツ夫婦。ああやっぱり俺たちには、子供を儲けると云うアプローチ方法はいらないと。

→ノア・バームバック→ベン・スティラー→アメリカ/2014→TOHOシネマズみゆき座→★★★☆

シン・ゴジラ

監督:庵野秀明(総監督)、樋口真嗣(監督・特技監督)
出演:長谷川博己、竹野内豊、石原さとみ、高良健吾、大杉漣、柄本明、余貴美子、市川実日子、國村隼、平泉成、松尾諭、津田寛治、塚本晋也、高橋一生、岡本喜八、野村萬斎
制作:東宝映画、シネバザール/2016
URL:http://www.shin-godzilla.jp/index.html
場所:109シネマズ木場

あまりにも情報量が多いので、やはり、どうしても2回目に行かざるを得ない『シン・ゴジラ』。でも、2回も観たらアラばかりが気になって、まったくツマラナイ、なんてことになったらどうしよう、と云う杞憂も何のその、『シン・ゴジラ』の評価は変わらなかった。素晴らしかった。

もちろん評価の低い人たちの云っていることもよくわかる。この映画はただ単に、東京湾岸に現れた得体の知れない生物を日本の政府が如何にして対処したか、の映画でしかない。そこには主に日本の「政府」と云うシステムの中での段取りがものすごいスピードとテンポで描かれているだけであって、とても狭い範疇の中での、内に向いている映画でしかない。それに、あまりにも「庵野の映画」でしかなくて、自分のように庵野の掌の上で転がされるのが好きな人間ならまだしも、お前のプライベートな空間に付き合わされるのかよ、と鼻白んじゃう人もいるとおもう。どうやらこの映画はヱヴァンゲリヲンを作り続けるための庵野のリハビリ映画らしい!

それでも、誰もが共通の恐怖として東日本大震災の原発事故を経験しているから、その事故になぞらえてドキュメンタリー・タッチにしている『シン・ゴジラ』に対して、庵野もエヴァも知らない人でも面白さを見い出せるんだとおもう。もし、この一般的なポイントがなかったら、おそらく『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』みたな「なんじゃこれ」な映画になってしまって、ここまで普通の人に受け入れられなかったとおもう。

→庵野秀明、樋口真嗣→長谷川博己→東宝映画、シネバザール/2016→109シネマズ木場→★★★★

トランボ ハリウッドに最も嫌われた男

監督:ジェイ・ローチ
出演:ブライアン・クランストン、ダイアン・レイン、ヘレン・ミレン、マイケル・スタールバーグ、ルイス・C・K、エル・ファニング、ジョン・グッドマン、アドウェール・アキノエ=アグバエ、デビッド・ジェームズ・エリオット、アラン・テュディック、ジョン・ゲッツ、ダン・バッケダール、ロジャー・バート、メーガン・ウルフ、ミッチェル・ザコクス、ディーン・オゴーマン、クリスチャン・ベルケル
原題:Trumbo
制作:アメリカ/2015
URL:http://trumbo-movie.jp
場所:TOHOシネマズシャンテ

脚本家のダルトン・トランボが1940年代末から50年代のはじめにかけて行われた「赤狩り」で、ジョセフ・マッカーシー上院議員と非米活動委員会によって共産主義者と断定されて、「ハリウッド・テン」の一人としてハリウッドから干されたエピソードは断片的にいろいろと聞きかじってはいた。そのいわゆる「マッカーシズム」は、友人の名前を共産主義者として告発しなければいけなかったり、擁護してくれていた友人が途中から急に口を閉ざしてしまったりと、疎外される恐怖に陥った人間の弱さばかりが目立つような暗くて悲惨なイメージでしかなかった。でもダルトン・トランボは、70年代に入って名誉が回復されるまでに名前を変えていろいろな仕事をしていて、そのあいだには『ローマの休日』や『黒い牡牛』でアカデミー賞脚本賞を獲得してしまうと云うバイタリティあふれるエピソードが残っていて、このドロドロとした「赤狩り」の中に放り込まれた人間にしては茫洋としていて掴みどころのない人物像だった。

ジェイ・ローチの『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』は、そのぼんやりとした人物像を明確にしてくれた映画だった。

ダルトン・トランボの凄さは、現在の境遇に嘆かない、他人の所為にはしない、うしろを振り返らない、だった。普通の人間だったら、なんでオレばっかり、とか、あいつは汚ねえ、とか、あの時にああしておけば良かった、とか、不満や憎悪や未練がタラタラだ。でもダルトン・トランボにはそんなところが微塵もなく、どんなものでもすべてを受け入れて、そして現在の状況で出来る最大限のことをやろうと邁進できる特異まれなる性格の人間だった。(もちろんその人間としての特異さは、たとえば周りの家族にしわ寄せが行ってしまったりするのだけれど)そんな部分を自分と照らし合わせてしまうと、狡猾で、狭小で、他力本願な自分のことを反省しきり。あ〜あ、ダルトン・トランボのような人間になりたいけど、まあ、無理だ。

ハリウッドの裏幕ものとして実在の監督や俳優が出てくるのも面白かった。ジョン・ウェインは似てねえな、とか、カーク・ダグラスが小っちぇえ! とか、やっぱりキューブリックは描けねえな、とか、自分の中では大盛り上がり。そんな中でも、ダルトン・トランボを演じたブライアン・クランストンが素晴らしかったのはもちろんのこと、エドワード・G・ロビンソンを演じたマイケル・スタールバーグとオットー・ブレミンジャーを演じたクリスチャン・ベルケルも素晴らしかった。ヘッダ・ホッパーはもっともっと嫌みでいけ好かない女だったんじゃないのかなあ。ヘレン・ミレンじゃ上品すぎる!

→ジェイ・ローチ→ブライアン・クランストン→アメリカ/2015→TOHOシネマズシャンテ→★★★★

シン・ゴジラ(IMAX)

監督:庵野秀明(総監督)、樋口真嗣(監督・特技監督)
出演:長谷川博己、竹野内豊、石原さとみ、高良健吾、大杉漣、柄本明、余貴美子、市川実日子、國村隼、平泉成、松尾諭、津田寛治、塚本晋也、高橋一生、岡本喜八、野村萬斎
制作:東宝映画、シネバザール/2016
URL:http://www.shin-godzilla.jp/index.html
場所:ユナイテッド・シネマ浦和

この夏公開の映画の中で、特にTwitter界隈でダントツな人気を誇るのが『シン・ゴジラ』で、そのムーブメントは『パシフィック・リム』や『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の時と同じような様相を呈して来ている。公開と同時に映画を絶賛するTweetが雨あられのように飛んできて、その絶賛クラブに加わらなければまるで人間であることを否定されているような気分にさせられて、否定的な意見を述べようものなら四方八方から集中砲火を浴びせられてコテンパンにやっつけられてしまいそうな、なんとも気持ち悪い状態になって来ている。

だから私も人間であることを維持するために、そのクラブに入るべく『シン・ゴジラ』を観に行った。

みなさんがおっしゃるようにめちゃくちゃ素晴らしかった。『パシフィック・リム』や『マッドマックス 怒りのデス・ロード』ではさすがに冷めてしまったわたくしでも、今回ばかりは最大限に同意しなければならない。やはり庵野秀明は凄い。

もちろん、あまりにも政府の意思決定プロセスを描くことに腐心するあまり人間が描けていないとか、あまりにも自作の「エヴァンゲリオン」を引用しすぎるとか、あまりにも「ヤシオリ作戦」がご都合主義で簡単に成功してしまうだとか、あまりにも石原さとみが惣流・アスカ・ラングレーのようなアニメキャラになっているとか、あまりにも石原さとみの英語が次期大統領を狙っているネイティブとしては酷いとか、あまりにも石原さとみのメイクが酷いとか、あまりにも石原さとみが……(以下略)。それぞれ指摘されている批判はごもっともです。

それでも、ハリウッドVFXに目が肥えている日本の人たちが納得する東宝怪獣映画とはどのようなものなのかを一つの答えとしてはっきりと導き出しているし、低予算であったとしてもハリウッド版ゴジラと遜色のない日本の特撮映画を作り上げているし、「ゴジラ」シリーズから見れば傍流の「ゴジラ」としてしか存在し得ないのかもしれないのだけれど、日本映画の歴史に名を残す特撮映画を作りあげたんじゃないかとおもう。

この「オタクと変人の集まり」の真摯な闘いにしか「日本特撮の申し子が作った日本特撮の神髄」がないのだとしても、そこには「わびしさ」よりも「よくやった!」の感想以外になかった。

→庵野秀明、樋口真嗣→長谷川博己→東宝映画、シネバザール/2016→ユナイテッド・シネマ浦和→★★★★

骨までしゃぶる

監督:加藤泰
出演:桜町弘子、久保菜穂子、宮園純子、桑原幸子、小島恵子、沢淑子、石井トミコ、三島雅夫、三原葉子、菅井きん、岡島艶子、夏八木勲、横山アウト、芦屋小雁、芦屋雁之助、汐路章、遠藤辰雄
制作:東映/1966
URL:
場所:フィルムセンター

加藤泰監督の仁侠映画『緋牡丹博徒 花札勝負』に惚れ込んでから、もっと彼の映画を見たいとおもっているのだけれど、全46本中、まだ10本程度しか見ることができていない。そんなことではいけないとおもい直し、今回のフィルムセンターの特集上映に駆け込んだ。

いやあ、凄い映画だった。加藤泰監督作品の特徴であるローアングルとクローズアップがこれでもかと多用されていて、主演女優の桜町弘子が不細工に見えてしまうほどの極端なカメラワークだった。さらに汐路章や三島雅夫の悪役連中もその近いカメラのために、汚さ、意地悪さ、気味悪さが爆発していて、州崎遊廓にうごめく人間模様が気持ち悪くもあり、あまりのデフォルメに笑ってしまうほどでもあり、そこに娼妓の哀しさ、わびしさも加わって、映画が見せる人間の大博覧会のような様相を呈していた。

加藤泰監督作品としては『緋牡丹博徒 花札勝負』『緋牡丹博徒 お竜参上』と同等の、いやそれ以上の出来栄えの映画だった。どんなタイプの映画であったとしても、画面から熱気が伝わってくる映画にはほんと脱帽する。

→加藤泰→桜町弘子→東映/1966→フィルムセンター→★★★★