監督:ロン・ハワード
出演:トム・ハンクス、フェリシティ・ジョーンズ、イルファン・カーン、オマール・シー、ベン・フォスター、シセ・バベット・クヌッセン
原題:Inferno
制作:アメリカ/2016
URL:http://www.inferno-movie.jp/site/#!/
場所:109シネマズ菖蒲
『ダ・ヴィンチ・コード』『天使と悪魔』と続いたダン・ブラウン原作でロン・ハワード監督&トム・ハンクス主演の映画の6年ぶり3本目。
この3作目の『インフェルノ』も前2作と同じように西洋美術のうんちくをやたらと聞かされて、それがどんなものかも理解できないうちにどんどんと導かれて、すんでのところで危機が回避されると云う同じパターンの映画だった。
そのジェットコースターで見せられた西洋美術のうんちくをゆっくりとひも解いてみる。以下、ネタバレ。
まず、記憶を無くしたラングドン教授(トム・ハンクス)が持っていた指紋認証の小型プロジェクター(ファラデー・ポインター)によってボッティチェリの「地獄の見取り図」が投影される。
ボッティチェリ「地獄の見取り図」
この「地獄の見取図」の下の部分には「真実は死者の目を通してのみ見える」と加筆されていて、さらに絵にある10層の各階層には文字が一つずつ隠されていて、その文字をすべて繋ぐと 「CERCA TROVA(尋ねて、見いだせ)」になる。
ラングドン教授は、ヴェッキオ宮殿にあるヴァザーリが描いた絵画「マルチャーノの戦い」の中に同じ言葉が書かれている事を思い出す。
「地獄の見取図」に加筆されていた「死者の目」が何であるかを理解するためにヴェッキオ宮殿の「500人広間」に書かれたフレスコ画「マルチャーノの戦い」を見る。
ヴァザーリ「マルチャーノの戦い」の「CERCA TROVA(尋ねて、見いだせ)」
「マルチャーノの戦い」の絵の中の「CERCA TROVA(尋ねて、見いだせ)」が書かれていた場所と同じ高さにある階段の、その先に通じる部屋に展示されていたダンテのデスマスクにたどり着く。(このデスマスクにはすでに前夜、ラングドン教授自身とイニャツィオ・ブゾーニと云う男によって盗まれていた)
「マルチャーノの戦い」の絵の下に空洞が存在していることがわかった時のニュース「レオナルド・ダ・ヴィンチの幻の壁画が発見される―残された暗号が手がかり」
イニャツィオが心臓発作で亡くなっていたことがわかり、彼の秘書よりデスマスクが隠された場所は 「パラダイス25」との伝言を受けとる。
ラングドン教授は「パラダイス25」をダンテの「神曲」の「天国編」第25章と推測し、その記述からデスマスクがサン・ジョヴァンニ洗礼堂に隠されていると判断する。
青空文庫からダンテ「神曲」の「天堂(天国)編」の第25章を読んでみても、なんだか意味がさっぱりわからない。でも、いろいろと調べる内にダンテが洗礼を受けたのがサン・ジョヴァンニ洗礼堂で、フィレンツェを追放されたのちに「その時我は變れる聲と變れる毛とをもて詩人として歸りゆき、わが洗禮(バッテスモ)の盤のほとりに冠を戴かむ」と第25章に書いているように、死ぬ前にサン・ジョヴァンニ洗礼堂に帰ることを願っていたと読むこともできる。
サン・ジョヴァンニ洗礼堂の洗礼盤に隠されていたデスマスクには、マスクの現在の所有者である大富豪の遺伝学者ベルトラン・ゾブリストが残した謎のメッセージが刻まれていた。
おお、健やかなる知性を持つ者よ
あいまいな詩句の覆いの下に
隠された教えを見抜け。
馬の首を断ち
盲人の骨を奪った
不実なヴェネツィアの総督を探せ。
黄金色をした聖なる英知のムセイオンのなかでひざまずき
地に汝の耳をあて
流れる水の音を聞け。
深みへとたどり、沈んだ宮殿に至れば……
かの地の闇に地底世界の怪物が待ち
それを浸す池の水は血で赤く染まるが
そこでは水面に映ることはない……星々が。
(越前敏弥訳)
ヴェネチアのサン・マルコ大聖堂の「4頭の馬」の像の前で、この馬の像がコンスタンティノープルから運ばれてきたことを聞く。第四次十字軍の戦利品としてコンスタンティノープルから持ち帰ったのはヴェネツィア共和国の第41代元首エンリコ・ダンドロ。
イスタンブールのアヤ・ソフィアでのエンリコ・ダンドロの墓に向かう。墓に耳を当て、地下水の音を探知したラングドンは、地下貯水池「イエレバタン・サラユ」内へ向かう。
ついに、ベルトラン・ゾブリストが作った病原菌が地下貯水池「イエレバタン・サラユ」に隠されている事を突き止める。ベルトラン・ゾブリストは、いまの地球上のすべての問題は人口過剰にあると説き、病原菌によってその人口を減らすことをたくらんでいた。
と、こんな流れだった。映画を観ているあいだは知的興奮に惑わされて、まったく意味もわからずに興奮してしまったけど、しっかりと意味を理解するとさらに知的興奮がかき立てられてしまう。
でも、冷静に考えると、ベルトラン・ゾブリストはなぜこんな手掛かりを残したんだろう? 粛々と計画を推し進めるだけで良かったのに。まあ、よくある理由付けとしては、この計画の実行に半分くらいは恐怖を抱いていて、誰かに止めて欲しかった、と云うことなのかなあ。と云うことが原作には書かれてあるのかも知れない。
→ロン・ハワード→トム・ハンクス→アメリカ/2016→109シネマズ菖蒲→★★★☆