凱旋の英雄万歳

監督:プレストン・スタージェス
出演:エディ・ブラッケン、エラ・レインズ、ウィリアム・デマレスト、エリザベス・パターソン
原題:Hail the Conquering Hero
制作:アメリカ/1944
URL:
場所:シネマヴェーラ渋谷

プレストン・スタージェスが監督した13本の映画のうち、今回の『凱旋の英雄万歳』を観たことによって8本を観たことになった。残りは『偉大なるマッギンティ』『崇高なとき(別題:偉大なる瞬間)』『ハロルド・ディドルボックの罪』『血の復讐』『トンプソン少佐の手帳』の5本。

自分が手にした映画関係の本を読むと必ずプレストン・スタージェスの偉大さを褒め称える文章が出てくる。最近でも高崎俊夫『祝祭の日々: 私の映画アトランダム』の中で「プレストン・スタージェス再考」としてページが割かれていた。そこで高崎俊夫はプレストン・スタージェスの『凱旋の英雄(万歳)』を引き合いに出し、フランク・キャプラのプロパガンダ映画と比較して、「(戦時下で)こんなアイロニカルで辛辣な風刺喜劇を撮っていたプレストン・スタージェスは、やはり、特異な映画作家というほかない」と評している。

たしかに『凱旋の英雄(万歳)』は辛辣な風刺喜劇ではあったけれども、孤児であることからやたらと母親を大切にする海兵隊員が出てきたり、戦死した上官の息子を(度が過ぎるけど)おもいやる軍曹が出てきたりと、フランク・キャプラ的人情がアイロニカルな中にも見え隠れしているところが、フランク・キャプラが大好きな自分にとっては、プレストン・スタージェスもやはり好きにならざるを得ないところだった。

まだ見ることのできていない5本のうち『偉大なるマッギンティ』『崇高なとき』がDVDで見られるので、ああ、なんとかして見たい!

→プレストン・スタージェス→エディ・ブラッケン→アメリカ/1944→シネマヴェーラ渋谷→★★★☆

天気の子

監督:新海誠
声:醍醐虎汰朗、森七菜、小栗旬、本田翼、倍賞千恵子、吉柳咲良、平泉成、梶裕貴
制作:「天気の子」製作委員会/2019
URL:https://tenkinoko.com
場所:109シネマズ菖蒲

2016年に公開されて250億円の最終興行収入を記録した新海誠監督の『君の名は。』は、いつも映画を観ないような人たちを映画館に足を向けさせて、その現象が一般のニュースにも取り上げられるような大きな話題となる映画となった。内容としては、情報過多なストーリーをRADWIMPSの音楽で無理やり盛り上げて、観ているものの感情を充分に高ぶらせたところで涙腺を刺激させる目くらましな感じは否めないけれど、映画ファンでもアニメファンでもない人たちを惹きつけた映画を作った新海誠監督の功績はとても大きいとおもう。

その新海誠監督の新作『天気の子』は、祈ることで局地的な範囲を一時的に晴れにする不思議な力を持つ少女のはなし。これがまたドラマの構成においても、自然現象の恐怖を扱うところでも、キャラクターデザインも、そしてRADWIMPSの音楽の使い方から云っても、まったく『君の名は。』とそっくりだった。こんな、同じパターンを繰り返す新海誠監督のアニメーションづくりに批判が出ることは想像ができるけど、映画を観終わったあとのシネコンの出口に向かう途中で、おそらく中学生とおもわれる女の子のグループが映画に感動した話しをぺちゃくちゃしているところを見て、ああ、そんな批判なんてまったく意味をなさないなあ、とはおもった。山田洋次が『男はつらいよ』シリーズを撮り続けていたとき、同じはなしの繰り返しだ、マンネリだ、と批判をよく聞いた。でも、いま『男はつらいよ』の全話を見返してみると、そこには清々しいくらいの「繰り返し」があって、山田洋次の作家性すら感じてしまう。

同じ路線の映画でも、それを求めている観客がいる以上、新海誠監督はこのタイプの映画を取り続けても良いんじゃないのかなあ。いや、かえって『星を追う子ども』のような新境地を求めたりするとすぐにみんなにそっぽを向かれちゃうな。

→新海誠→(声)醍醐虎汰朗→「天気の子」製作委員会/2019→109シネマズ菖蒲→★★★☆

プライベート・パーツ

監督:ポール・バーテル
出演:アイン・ライメン、ルシール・ベンソン、スタンリー・リヴィングストン、ジョン・ベンタントニオ、ローリー・メイン
原題:Private Parts
制作:アメリカ/1972
URL:
場所:アテネ・フランセ文化センター

またまたアテネ・フランセ文化センターでの「中原昌也への白紙委任状」へ。お盆なのに席が8割、9割がた埋まっていたのにはびっくり。12日のジョナサン・デミの『メルビンとハワード』はもっと凄かったそうだ。

『デス・レース2000年』が有名なポール・バーテルの初監督作品がこの『プライベート・パーツ』。上映後のトークで滝本誠が云っていたように、初めて作品を撮る監督が張り切って、やりたいことをすべて詰め込んだような映画にはなっていた。けど、だからこそ、あまりにもいろんな要素を詰め込んでしまった結果のまとまりのない映画になってしまっていたような気がする。盛り沢山なので飽きることはなかったのだけれど。

「中原昌也への白紙委任状」に参加していつも感じるのは、埋もれてしまうのにはもったいない低予算映画がやまほどあるんだなあ、ってことだった。つまり、低予算であったとしても、観てもらう人に楽しんでもらおうとする姿勢が前面に出てくる映画は、たとえそれが失敗していたとしても、その情熱が充分にこちらに伝わってくる作りになるだなあ、と云う発見だった。

また次回の「中原昌也への白紙委任状」へ足を運ぶとおもう。

→ポール・バーテル→アイン・ライメン→アメリカ/1972→アテネ・フランセ文化センター→★★★

監督:藤井道人
出演:シム・ウンギョン、松坂桃李、本田翼、岡山天音、郭智博、長田成哉、宮野陽名、高橋努、西田尚美、高橋和也、北村有起哉、田中哲司
制作:『新聞記者』フィルムパートナーズ/2019
URL:https://shimbunkisha.jp
場所:Movixさいたま

大学新設計画に政府が大きく関与しているのではないのか? と云うストーリーを聞けば、すぐに森友・加計問題が連想できるし、そこにフリージャーナリストの伊藤詩織の事件を匂わさせる逸話を挿入してくれば、まるで実際の問題の真相暴露系ドキュメンタリーのような緊張感が映画全体にみなぎることは容易だった。でも、それだけだったような気がする。時事問題を揶揄する映画に必要なのは、ゴシップ的な面白さだけに頼らないで、映画としてのエンターテインメント性を加えていかにして楽しめるかにかかっているんだとおもう。それが足りなかった。せっかく韓国の女優のシム・ウンギョンを使っているのだから、もっと「韓国」を絡ませても良かったのに。シム・ウンギョンが素晴らしかったからなおさら。

→藤井道人→シム・ウンギョン→『新聞記者』フィルムパートナーズ/2019→Movixさいたま→★★★