今年良かった映画2019

今年、映画館で観た映画は、山形国際ドキュメンタリー映画祭で観た映画8作品も含めて全部で69本。
その中で良かった映画を10本に絞ると以下の通り。

ファースト・マン(デイミアン・チャゼル)
ドント・ウォーリー(ガス・ヴァン・サント)
アベンジャーズ/エンドゲーム(アンソニー・ルッソ、ジョー・ルッソ)
ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド(クエンティン・タランティーノ)
サタンタンゴ(タル・ベーラ)
死霊魂(王兵(ワン・ビン))
ジョーカー(トッド・フィリップス)
マリッジ・ストーリー(ノア・バームバック)
アイリッシュマン(マーティン・スコセッシ)
家族を想うとき(ケン・ローチ)

以上、観た順。

今年一番印象に残ったことはやはり台風19号が山形へ迫るなかに観た王兵(ワン・ビン)監督の『死霊魂』だった。山形市内の被害はたいしたことはなかったけれど、自分にとって台風19号の記憶はそのまま『死霊魂』の記憶となった日だった。

家族を想うとき

監督:ケン・ローチ
出演:クリス・ヒッチェンズ、デビー・ハニーウッド、リス・ストーン、ケイティ・プロクター、ロス・ブリュースター
原題:Sorry We Missed You
制作:イギリス、フランス、ベルギー/2019
URL:https://longride.jp/kazoku/
場所:新宿武蔵野館

『家族を想うとき』の主人公リッキーは個人事業主の宅配ドライバー。配達量が多ければ多いほど大金が稼げるとの謳い文句に乗って大手の配送業者のフランチャイズに入って、介護業を行っている妻の車を売ってまでしてトラックも調達してしまう。さあ、あとは働くだけだ! と云っても、簡単に計画通りにことが運ぶわけもなく、車の無くなった妻はバス移動を余儀なくされて今まで以上に仕事に時間を取られてしまうし、息子は万引きを働くし、娘は不眠症になるし、息子の学校に呼び出されたことで仕事に穴を空けてペナルティを払う騒ぎにもなってしまう。結果、夫婦間はギクシャクしてしまって、子どもたちとの関係も最悪。なにひとつ上手く行かなくなってしまう。

個人事業主にとって大手企業のフランチャイズ傘下に入ることのメリットはもちろんあるのだろうけれど、そのフランチャイズの縛りが強ければ強いほどデメリットが上回ってしまって、それとともに起こる問題が負のスパイラルとなって襲いかかり、簡単に破綻へと追い込まれてしまう。まさに『家族を想うとき』は負の連鎖の映画だった。

最近の日本でも、セブンイレブンがフランチャイズ店に24時間営業を強要する問題があったり、「amazonのデリバリープロバイダがみんなを激怒させている」はドライバーが『家族を想うとき』のリッキーのような状況に陥っているんじゃないかと察することができたり、イギリスと状況はまったく同じだった。

今の状況から逃げ出すようにトラックを走らせるリッキーの悲壮な横顔で映画は暗転してエンドクレジットが流れるのだけれど、下から上へと流れるアルファベットの字面を眺めながら、リッキーの今後におもいを巡らせていた。ハッピーな方向に向かうはずもないのに、ハッピーになることを願って。

→ケン・ローチ→クリス・ヒッチェンズ→イギリス、フランス、ベルギー/2019→新宿武蔵野館→★★★★

コタンの口笛

コタンの口笛

監督:成瀬巳喜男
出演:幸田良子、久保賢、宝田明、水野久美、大塚国男、久保明、山茶花究、土屋嘉男、左卜全、中北千枝子、三好栄子、志村喬、森雅之
制作:東宝/1957
URL:
場所:神保町シアター

前回の『五平とお国』は、結局は成瀬巳喜男の映画だったなあ、に落ち着いたのだけれど、さすがにこの『コタンの口笛』はアイヌ差別がメインのテーマなので、いつもの成瀬巳喜男、と云うわけにはいかなかった。

訴えるべきテーマがはっきりしている場合に、それを伝える手段として映画ほど適しているものはないとおもう。でも、それだったらドキュメンタリーで良いわけで、ノンフィクションのドラマにする意味は、そこにエンターテインメントを加味して、さらに人の心に響かせるプラスアルファを期待するからなんだとおもう。

としたときに、『コタンの口笛』はエンターテインメントの部分がありきたりだった。もっとアイヌの文化や歴史のことを掘り下げてほしかったし、ひとりひとりの善意ではどうにもならない日本のムラ社会へのツッコミも足りなかったような気もしてしまった。あ、でも、山茶花究のダメ叔父さんぶりは良かった。

→成瀬巳喜男→幸田良子→東宝/1957→神保町シアター→★★★

監督:成瀬巳喜男
出演:木暮実千代、大谷友右衛門、山村聡、田崎潤、三好栄子、柳谷寛、藤原釜足
制作:東宝/1952
URL:
場所:神保町シアター

神保町シアターで成瀬巳喜男の特集が組まれたので、まだ観ていない作品を拾って行こうと、まずは谷崎潤一郎の戯曲が原作の『お国と五平』。

『お国と五平』は「闇討ちされた夫の敵討ち」がストーリーの中心なので、今まで観てきた成瀬巳喜男の映画とはだいぶイメージが違うなあとはおもったのだけれど、でも結局は芯のある強い女性が主人公で、とりまく男たちは甲斐性がなくて弱々しいので、そしてお金の話しも出てくるので、ああ、これはまさしく成瀬巳喜男の映画だなあ、と納得してしまった。とくに、木暮実千代に敵討ちされてしまう山村聡は、いままでの成瀬巳喜男の中でも大好きな部類に入るダメ男だった。『流れる』の宮口精二、『銀座化粧』の三島雅夫に加えて、大好きなダメ男ベスト3にしたいとおもう。

→成瀬巳喜男→木暮実千代→東宝/1952→神保町シアター→★★★☆

アイリッシュマン

監督:マーティン・スコセッシ
出演:ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジョー・ペシ、アンナ・パキン、ボビー・カナヴェイル、ハーヴェイ・カイテル、レイ・ロマーノ、ジェシー・プレモンス
原題:The Irishman
制作:アメリカ/2019
URL:https://www.netflix.com/title/80175798
場所:シネ・リーブル池袋

前回の『マリッジ・ストーリー』に続いてNetflix制作の映画を映画館で観ることになった。そのマーティン・スコセッシ監督の『アイリッシュマン』はすでにNetflixでの配信が始まっているので、わざわざお金を出して映画館に観に来ることはないんだけれど、やっぱり映画館で観たいなあ、と云うことで、あえて前から3列目の大画面で観てやった!

『アイリッシュマン』は、全米トラック運転手組合「チームスターズ」の委員長ジミー・ホッファを軸としたアメリカ近代史を描いていて、ジミー・ホッファをアル・パチーノが、そのジミー・ホッファの用心棒だったフランク・シーランをロバート・デ・ニーロが演じている。この二人の共演だけで映画ファンにとっては大興奮だけど、アメリカ人ならば誰もが知っているようなジミー・ホッファの名前は日本人にとってはまったく馴染みがないので、グローバルな展開ありきの大きなバジェットの映画にお金を出すような制作会社は、現在では勢いのあるNetflixあたりしかなくなってしまっているんだろうなあ。

原作はチャールズ・ブラントが2004年に発表したノンフィクション「I Heard You Paint Houses」で、それがどこまで事実に迫っているのかはわからないのだけれど、ケネディが暗殺された理由をかすかに匂わせていたりとか、ロバート・ケネディ:やマフィア「ジェノヴェーゼ一家」のトニー・プロとの確執とか、そしてもちろんジミー・ホッファが失踪した原因を明確にしているところなど、アメリカの裏歴史を網羅的に見て行くのはとても楽しかった。すでに「映画」のことをすべて知り尽くしているマーティン・スコセッシ監督の完璧な映画の3時間30分はあっと云う間だった。

→マーティン・スコセッシ→ロバート・デ・ニーロ→アメリカ/2019→シネ・リーブル池袋→★★★★