フォードvsフェラーリ

監督:ジェームズ・マンゴールド
出演:マット・デイモン、クリスチャン・ベール、ジョン・バーンサル、カトリーナ・バルフ、トレイシー・レッツ、ジョシュ・ルーカス、ノア・ジュープ、レモ・ジローネ、レイ・マッキノン、JJ・フィールド
原題:Ford v Ferrari
制作:アメリカ/2019
URL:http://www.foxmovies-jp.com/fordvsferrari/
場所:109シネマズ木場

モータースポーツの世界を描く映画は、まだ特殊効果が稚拙な時代の映画ですらも、例えばジョン・フランケンハイマーの『グランプリ』(1966)とか、レースシーンのスピード感を表現しているだけで血が沸騰する感覚が起きるのに、VFXの進化したこの時代の映画ともなると、ストーリーそっちのけで圧倒的にレースシーンだけで興奮させられてしまう。人間には、自分のように車の乗らない人間でさえも、おそらくはスピードに興奮させられる特性があって、それがそのまま映画の面白さと直結しているような感覚に陥ってしまう。

それに巨大な組織や権力に対抗する人間のストーリーは、まさに映画の面白さの鉄板でもあるわけで、スピード感覚と反逆児のあわせ技で来るジェームズ・マンゴールドの『フォードvsフェラーリ』が面白くないわけがなかった。こんなモータースポーツの歴史があったのか、の知的好奇心をくすぐる部分も考えると、まさに王道の映画だった。

→ジェームズ・マンゴールド→マット・デイモン→アメリカ/2019→109シネマズ木場→★★★☆

監督:ポン・ジュノ
出演:ソン・ガンホ、イ・ソンギュン、チョ・ヨジョン、チェ・ウシク、イ・ソンギュン、チョ・ヨジョン、チョン・ジソ、 チョン・ヒョンジュン 、イ・ジョンウン、パク・ミョンフン、パク・ソジュン
原題:기생충
制作:韓国/2019
URL:http://www.parasite-mv.jp
場所:109シネマズ菖蒲

ポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』は、昨年の第72回カンヌ国際映画祭で韓国映画初となるパルム・ドールを受賞した映画で、公開からTwitter界隈でも絶賛の声しか聞こえてこないほど評価が高い。となると、根っからの天の邪鬼な性分としては身構えて映画を観てしまう。

その『パラサイト 半地下の家族』は、ストーリーの展開に意外性があって、なるほど、これならみんなが面白いって云うはずだ、とはおもったのだけれど、身構えた角度から些細なところを指摘するならば、半地下の貧乏家族が金持ちの家族に取り入って行く過程があまりにもテキパキとしていて、聡明すぎやしねえか、との感想を持てしまった。それだけ状況に応じて的確に判断できる能力を兼ね備えているのならば、その貧乏生活からどっくに抜け出せただろうが、とはちょっとおもってしまった。

それに金持ち家族も、人を自宅に招き入れるセキュリティチェックが甘すぎて、今の時代ならばもうちょっと身辺調査とかするんじゃないのか? と細かなところが気にはなってしまう映画ではあった。

でも、そんなところは些細なところで、いまの韓国映画の勢いを代表する映画だった。まあ、韓国映画の場合、個人的にはナ・ホンジンのほうが好みではあるんだけど。

→ポン・ジュノ→ソン・ガンホ→韓国/2019→109シネマズ菖蒲→★★★☆

監督:リチャード・フェラン、ウィル・ベチャー
出演:
原題:A Shaun the Sheep Movie: Farmageddon
制作:イギリス、フランス/2019
URL:https://www.aardman-jp.com/shaun-movie//
場所:109シネマズ木場

「ひつじのショーン」シリーズは、ニック・パークの『ウォレスとグルミット、危機一髪』(1995)に登場した羊のショーンを主人公としたスピンオフ作品。「ウォレスとグルミット」シリーズのようなイギリス的なシニカルさはまったくないけれど、そのかわりに人間の登場人物でさえもセリフを排除して、しゃべったとしても意味不明の言葉にして、キャラクターの動きだけでストーリーを理解させようとしているのは、より子供向けの作品にしたことと、グローバルな戦略もあってのことだとおもう。でもそこが、まだサイレント映画だったころの、体の動きだけで表現しようとする映画の原初的な魅力をも兼ね備えているようで、観ていてとても楽しい。

個人的には「ウォレスとグルミット」シリーズのようなテンポの良さやスピード感が好みなのだけれど、観ていてよりほのぼのとした気持ちになるのは「ひつじのショーン」シリーズのほうではないかとおもう。

→リチャード・フェラン、ウィル・ベチャー→→イギリス、フランス/2019→109シネマズ木場→★★★

監督:オリヴィエ・アサイヤス
出演:ギョーム・カネ、ジュリエット・ビノシュ、ヴァンサン・マケーニュ、クリスタ・テレ、パスカル・グレゴリー
原題:Doubles Vies
制作:フランス/2018
URL:http://www.transformer.co.jp/m/Fuyujikan_Paris/
場所:ル・シネマ1

オリヴィエ・アサイヤスの新作は、老舗出版社の編集者と舞台女優の妻、そしてその出版社から私小説(のような小説)を出版している小説家と政治家の秘書をしている妻、この二組の夫婦を中心に、電子書籍やブログ、Twitter、Youtubeなどの流行のデジタルテクノロジーに翻弄されるフランスの出版業界と「互いの関係に新たな意義を見出し、受け入れ合う夫婦を語りたいと思った」(アサイヤス談)とを重なり合わせて描いているところが、まったくの想定外だったのでめちゃくちゃ面白かった。

とくに、従来からあるような私小説的な作品の扱いに苦慮する編集者が自社のデジタル化コンサルタントの若い女性と不倫して、さらにはアメリカ的な新しいテレビシリーズに進出している舞台女優がその私小説的なものを書いている小説家と不倫していると云う、「古いもの」と「新しいもの」が混沌としつつ、結局は既存の枠組みである「出版」や「舞台女優」や「夫婦」から抜け出せないでいる人間たちのドタバタ喜劇を見ているようで、可笑しくも身につまされるストーリーだった。

フランス人の(ちょっと上流の人たちの)生活には、友人知人や仕事関係の人たちと、外でのランチでも家でのディナーでも仕事の打ち合わせでも、集まってあーだこーだと議論を戦わせるのが一般的なのかなあ。そこでの会話劇にもなっているところが楽しかった。

→オリヴィエ・アサイヤス→ギョーム・カネ→フランス/2018→ル・シネマ1→★★★★

スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け

監督:J・J・エイブラムス
出演:キャリー・フィッシャー、マーク・ハミル、アダム・ドライバー、デイジー・リドリー、ジョン・ボイエガ、オスカー・アイザック、アンソニー・ダニエルズ、ナオミ・アッキー、ドーナル・グリーソン、リチャード・E・グラント、ルピタ・ニョンゴ、ケリー・ラッセル、ヨーナス・スオタモ、ケリー・マリー・トラン、イアン・マクダーミド、ビリー・ディー・ウィリアムズ
原題:Star Wars: The Rise Of Skywalker
制作:アメリカ/2019
URL:https://starwars.disney.co.jp/movie/skywalker.html
場所:109シネマズ木場

1977年に有楽町の日劇で観たジョージ・ルーカスの『スター・ウォーズ』から42年が経って、ついに『スター・ウォーズ』シリーズの最終話が公開されることとなった。あれから半世紀近くが経っているとはおもえないほどに、1977年のころの熱狂が昨日のことのようにありありとおもいだされるのはびっくりだ。それほどに『スター・ウォーズ』は映画史のひとつの転換点とも云える大きな出来事だった。

その『スター・ウォーズ』の多大なる功績を、そのまま人びとの大きなおもいでとして留めておけば良かったものを、最初から9部作の構想があったと云い出したジョージ・ルーカスの野望によって作り出された1999年の『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』はまったくの失敗作で、その時点で『スター・ウォーズ』は最初の3部作だけの記憶として留めてしまった人びとが多かったはずだった。

なのに、さらにジョージ・ルーカスの野望を完遂しようとした人たちによって作られた最後の3部作は、ジョージ・ルーカスへの敬意からなのか、第1作のストーリー構成と同じパータンをなぞってばかりで、今回の『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』もまた同じパターンの繰り返しだった。

この繰り返しの意義をまったく見い出せずにいるのだけれど、それでもキャリー・フィッシャーやマーク・ハミルやハリソン・フォードが登場すればおのずと目頭が熱くなり、ラスト、惑星タトゥイーンの二つの太陽が登場するに至っては感動してしまうのであった。

めでたしめでたし。

→J・J・エイブラムス→キャリー・フィッシャー→アメリカ/2019→109シネマズ木場→★★★

カツベン!

監督:周防正行
出演:成田凌、黒島結菜、永瀬正敏、高良健吾、音尾琢真、徳井優、田口浩正、正名僕蔵、成河、森田甘路、酒井美紀、シャーロット・ケイト・フォックス、上白石萌音、城田優、草刈民代、山本耕史、池松壮亮、竹中直人、渡辺えり、井上真央、小日向文世、竹野内豊
制作:「カツベン!」製作委員会/2019
URL:https://www.katsuben.jp
場所:Movixさいたま

シネコンにしては年齢層高めのスクリーンで観た周防正行監督の『カツベン!』は、正月にふさわしい楽しい映画ではあったけのだれど、「カツベン」とタイトルを付けておきながら、サイレント映画時代の活動弁士の魅力をじゅうぶんに伝えることが出来ていないんじゃないのかなあ、と云う感想がまっさきに立ってしまった。それは名弁士「山岡秋声」役の永瀬正敏にまったく弁士としての魅力を感じられないことからはじまって、声だけで女性を卒倒させる高良健吾の弁士にもどうしてそんなに人気があるのかさっぱりわからなかったし、ああ、成田凌にも主演俳優としての魅力を感じられなかった。

当時の活動弁士の魅力とは、かろうじて知識としてある徳川夢声をイメージすれば、そこには必ず巧みな話術があって、活動写真にシンクロさせた言葉の選び方とそのハーモニーに当時の人々は魅力を感じていたんじゃなかろうかと推測できる。でも『カツベン!』では、ドタバタばかりが先行してしまっていて、その肝心な活弁士による弁舌のテクニックに対する執念みたいなものが置き去りにされてしまっていた。もうちょっと活動弁士の魅力を掘り下げてほしかったなあ。

→周防正行→成田凌→「カツベン!」製作委員会/2019→Movixさいたま→★★★