監督:フレデリック・ワイズマン
出演:マーティ・ウォルシュ(ボストン市長)ほかボストン市のみなさん
原題:City Hall
制作:アメリカ/2020
URL:https://cityhall-movie.com
場所:ヒューマントラストシネマ有楽町

フレデリック・ワイズマンの映画がやってきた。2019年の山形国際ドキュメンタリー映画祭で『インディアナ州モンロヴィア』を観て以来2年ぶり。公開を待ちわびる映画監督が何人かいるのだけれど、フレデリック・ワイズマンもその一人だ。

でも、フレデリック・ワイズマンのドキュメンタリー映画はどれも長尺なので、映画館に観に行くとなると一大イベントになってしまう。今回の『ボストン市庁舎』も274分の映画で、11時40分から観はじめて、1回の休憩を挟んで16時31分まで映画館にいることとなった。

いつも不思議におもうのは、フレデリック・ワイズマンの映画はその4時間30分もの長いあいだ、映画の題材に没頭できてしまうことだった。『ボストン市庁舎』の場合でも、まるで自分がボストン市民のような感覚に陥っていた。だから、なんとなく、東洋系の人に同胞感を持ってしまって、市の許可を得て大麻の店を開こうとする中国系の事業者の住民説明会では、近所の黒人のおばちゃんたちに、あーだこーだと、まくし立てられる側の中に自分が存在していた。とにかくアメリカの人は、どんなクラスの人でも、ちゃんと理論的に相手に対して要求できるんだよなあ。フレデリック・ワイズマンの映画を観て、いつもそこを感心してしまう。日本人もそうありたいもんだ。

マサチューセッツ州と云えば、1620年にメイフラワー号でイギリス人の清教徒が入植したところで、アメリカの歴史においても一番古い場所なので、なんとなくキリスト教的に保守的な地域ではないかと勝手におもっていた。ところが時代も大きく変わっていて、ヒスパニックの人も、南米の人も、アジア系の人も隣合わせで暮らしている。だからこそ問題も起きるのだろうし、でもだからこそダイナミックなんだろうし。そのような多種多様な問題をマーティ・ウォルシュ、ボストン市長はうまくまとめているように見えた。ちょっと、ボストンに暮らしてみたくなってしまった。

→フレデリック・ワイズマン→マーティ・ウォルシュ(ボストン市長)→アメリカ/2020→ヒューマントラストシネマ有楽町→★★★★

監督:クロエ・ジャオ
出演:ジェンマ・チャン、リチャード・マッデン、クメイル・ナンジアニ、リア・マクヒュー、ブライアン・タイリー・ヘンリー、ローレン・リドロフ、バリー・コーガン、ドン・リー(マ・ドンソク)、キット・ハリントン、サルマ・ハエック、アンジェリーナ・ジョリー
原題:Eternals
制作:アメリカ/2021
URL:https://marvel.disney.co.jp/movie/eternals.html
場所:109シネマズ木場

今年のアカデミー作品賞を獲得した『ノマドランド』を撮ったクロエ・ジャオ監督がマーベル・コミックの「エターナルズ」を監督すると聞いたときに、それはまったく畑違いの映画を撮ることになるんじゃないのか、と誰しもがおもったことだろうとおもう。ところが、WOWOWでのアカデミー賞授賞式を見ていたら、途中に挟み込まれたクロエ・ジャオ監督へのオンラインのインタビューで、SexyZoneの中島健人からの問いに対して日本のコミック「幽☆遊☆白書」が大好きで、よく日本のコミックを読んでいたとの答えが帰ってきた。なんと、それだったら話しは変わってくる。クロエ・ジャオ監督の『エターナルズ』は、アン・リーの『ハルク』みたいなことにはならないのではないか、と、ちょっとだけ安心してしまった。

そして実際にクロエ・ジャオ監督の『エターナルズ』を観てみた。

うーん。ストーリーが複雑すぎて、なにがなにやら。
なので、映画を観終わってからネット検索して確認した。
おもいっきり要約すると、

宇宙創生のときから存在するコズミック・ビーイングと呼ばれる不死の種族「セレスティアルズ」はさまざまな惑星に知的生命体を誕生させてきた。同時に、その知的生命体を守るために「ディヴィアンツ」という生物をも作り出した。

ところが「ディヴィアンツ」が知的生命体をも捕食しはじめたので、「セレスティアルズ」は「ディヴィアンツ」を駆除するために「エターナルズ」を作り出した。地球にも7000年前に10人の「エターナルズ」が派遣された。

地球の「ディヴィアンツ」をすべて駆除したかに見えた10人の「エターナルズ」だが、突如、現代において「ディヴィアンツ」が復活したことに驚く。

再び「ディヴィアンツ」との戦いはじまる「エターナルズ」だが、「セレスティアルズ」の本当の目的は惑星の知的生命体のエネルギーを使って新たな「セレスティアルズ」を出現させることだった。

長らく地球の人類と生活をともにしてきた「エターナルズ」は、「セレスティアルズ」に意に反して、新たな「セレスティアルズ」である「ティアマト」の出現を阻止するべく「エターナルズ」全員のエネルギーをまとめる「ユニ・マインド」という装置を使って人類を助ける。

と云うような内容だった。いやー、何の予備知識もなく、これを理解するのにはちょっと無理があった。とは云っても、つまらなかったわけではなく、それなりに楽しんで観てしまったのだけれども。

で、クロエ・ジャオ監督がこのマーベルの映画を撮る意味はあったのだろうか。10人の「エターナルズ」が、それぞれ持っている能力に違いがあって、考え方にも大きな隔たりが合って、そのあたりの多様性を描いていることにクロエ・ジャオ監督が撮る意味を感じられなくもないけれど、うーん、こじつけのようにもおもえる。まあ、今回も、マーベルの映画は誰が撮ったとしても、一定の水準を超える映画を作ることのできる凄さを感じる回でした。

→クロエ・ジャオ→ジェンマ・チャン→アメリカ/2021→109シネマズ木場→★★★☆

監督:アレクサンダー・ナナウ
出演:カタリン・トロンタン、カメリア・ロイウ、テディ・ウルスレァヌ、ブラド・ボイクレスク、ナルチス・ホジャ
原題:Colectiv
制作:ルーマニア、ルクセンブルク、ドイツ/2019
URL:https://transformer.co.jp/m/colectiv/
場所:ヒューマントラストシネマ有楽町

2015年10月30日、ルーマニアの首都ブカレストにあるナイトクラブ「コレクティブ」で火災が発生。ひとつしかない出口に場内にいた人びとが殺到して、逃げ遅れた27人が死亡。さらに、その後の数ヶ月間で適切な治療を受けられなかった負傷者37人が亡くなる事態が発生した。

このドキュメンタリーのテーマは、「コレクティブ」の火災原因の探求がメインではないかと勝手に想像していた。ところがその火災は、この映画の語るべきテーマのきっかけに過ぎず、次第に社会主義国時代から引き継いでしまった製薬会社と病院経営者、政府関係者の巨大な癒着が、スポーツ紙の記者(と云うところがスゴイ!)によって明らかにされて行く過程が描かれていて、さらに腐敗にまみれた国のシステムを変革しようと奮闘する新しい大臣へ次第にカメラの焦点が当てられて行く。

このドキュメンタリー映画の驚くべきところは、現職大臣の執務室にまでカメラを入れているところだった。アレクサンダー・ナナウ監督が政府とどのような交渉をしたのかわからないのだけれども、そこまでオープンにしようとする姿勢が国としてあるのならば、すでに問題は解決の方向に進んでいるとも感じられるシーンだった。社会主義国であった時代の暗いイメージがあるからこそ、そこから反動するパワーが強いのかもしれない。透明性や可視化が大事と云いながらも黒塗りの文章しか出せない国よりは数倍マシに見えてしまった。

→アレクサンダー・ナナウ→カタリン・トロンタン→ルーマニア、ルクセンブルク、ドイツ/2019→ヒューマントラストシネマ有楽町→★★★★

監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
出演:ティモシー・シャラメ、レベッカ・ファーガソン、オスカー・アイザック、ジョシュ・ブローリン、ステラン・スカルスガルド、デイヴ・バウティスタ、スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン、ゼンデイヤ、張震、シャロン・ダンカン=ブルースター、シャーロット・ランプリング、ジェイソン・モモア、ハビエル・バルデム
原題:Dune
制作:アメリカ/2021
URL:https://wwws.warnerbros.co.jp/dune-movie/
場所:109シネマズ菖蒲

デイヴィッド・リンチが1984年に撮った『デューン/砂の惑星』は、 フランク・ハーバートの壮大な小説のダイジェスト版でしかない、としか評価されなかった。たしかに、そうだったとおもう。もちろんデイヴィッド・リンチだって、ふんだんに予算があれば、アレハンドロ・ホドロフスキー監督が最初に構想した上映時間10時間以上にもなる「DUNE」と同等のものを撮りたかったはずだった。でも、当時はそんなことは許されるべくもなく、のちに3時間9分の再編集版もTV放映されたが、それを見ても印象としては映画版とそんなに変わらなかった。

デイヴィッド・リンチ版から月日が経ち、映画の制作環境もめまぐるしく変化して、ストリーミング配信での事業展開も加味されるようになったので、そこでの視聴が期待されるようなSF的な題材は、おそらくは予算が付きやすくなったのではないかと予想されるところでのドゥニ・ヴィルヌーヴ版『DUNE/デューン 砂の惑星』だった。

この映画も、やはりデイヴィッド・リンチ版と同じように1本で完結する映画ではないかとおもっていた。ところが、アメリカでの公開から1週間後、『Dune: Part Two』が2023年10月に劇場公開されることが決定した、との知らせが飛び込んできた。えっ? この映画は最初から2部作として作られたのか? それとも1本の映画として作って、興行成績を見てから続編の映画を作ることにしたのか?

今回の『Dune: Part One』を観て、ドゥニ・ヴィルヌーヴはこの映画を2部作のうちの前半としてしっかりと構想したとはおもえなかった。なんだろう? 都合上、バッサリと2時間半で切ったような映画に見えてしまった。だから、映画を観終わったあとの達成感が乏しく、次の章へと引き渡すワクワク感がまったくなかった。

だから、この『Dune: Part One』を見る限りでは、ダイジェスト版と云われようが何だろうが、やりたい放題のビジュアルを展開させたデイヴィッド・リンチ版のほうが良く見えてしまった。

とは云え、まだ「Part One」だけなので、やはり「Part Two」期待したいところ。

→ドゥニ・ヴィルヌーヴ→ティモシー・シャラメ→アメリカ/2021→109シネマズ菖蒲→★★★