監督:ジュリア・デュクルノー
出演:アガト・ルセル、ヴァンサン・ランドン、ギャランス・マリリエ、ライス・サラーマ、ドミニク・フロ、ミリエム・アケディウ、ベルトラン・ボネロ
原題:Titane
制作:フランス、ベルギー/2021
URL:https://gaga.ne.jp/titane/
場所:ヒューマントラストシネマ有楽町

ジュリア・デュクルノー監督の『TITANE/チタン』を昨年の第74回カンヌ国際映画祭で最高賞であるパルムドールを受賞したと云う情報だけで観に行った。

ここのところのカンヌ映画祭のパルムドールは、2016年がケン・ローチ監督の『わたしは、ダニエル・ブレイク』、2018年が是枝裕和監督の『万引き家族』、2019年がポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』と、現代の貧困問題を扱っている映画が多かった。だから、その流れでこの映画を観に行ってしまったから、ホラー映画のような内容のエグさにびっくりしてしまった。とくに自分の体を痛めつける描写が多いので、とても画面を注視することができない。みんな、このような内容の映画であることを承知のうえで観に来てるんだろうか、と周りを見渡してしまった。そう云えば、おばさん二人組が自分の近くに座っていたが、まさかル・シネマでやるような映画だとおもって来てやしないだろうか、といらぬ心配をしてしまった。

まあ、もともとホラー映画が嫌いなわけではないので、そう云った映画であると決めてかかれば、とてもパワフルな映画であることに間違いはないので楽しめないこともなかった。デイヴィッド・リンチやクローネンバーグの映画を最初に観たときの感覚と近いものがあるような気もした。

映画が終わって、エンドクレジットが流れ始めたら、くだんのおばさん二人組はすぐさま出口から外に出ていった。ほら、やっぱりおもっていたような映画とは違ったんじゃない?

→ジュリア・デュクルノー→アガト・ルセル→フランス、ベルギー/2021→ヒューマントラストシネマ有楽町→★★★☆

監督:ギレルモ・デル・トロ
出演:ブラッドリー・クーパー、ケイト・ブランシェット、ルーニー・マーラ、トニ・コレット、ウィレム・デフォー、リチャード・ジェンキンス、ロン・パールマン、デヴィッド・ストラザーン、メアリー・スティーンバージェン、ピーター・マクニール、ホルト・マッキャラニー、ポール・アンダーソン
原題:Nightmare Alley
制作:アメリカ/2021
URL:https://searchlightpictures.jp/movie/nightmare_alley.html
場所:109シネマズ木場

ウィリアム・リンゼイ・グレシャムが1946年に発表した小説「ナイトメア・アリー 悪夢小路」の2度目の映画化。1度目は『グランドホテル』(1932)で有名なエドマンド・グールディング監督が1947年に映画化した『悪魔の往く町』。

いままでギレルモ・デル・トロの映画をあまり楽しめずにいた。ウェス・アンダーソンとギレルモ・デル・トロの映画は、みんなは楽しめているのに自分だけは仲間はずれ、の二大巨頭だった。ところが先日のウェス・アンダーソンの『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』は大いに楽しんでしまった。じゃあ、今度のギレルモ・デル・トロの『ナイトメア・アリー』はどうだろう? とおそるおそる観に行ったら、これもまたすこぶる面白かった。

『ナイトメア・アリー』を面白く感じたのは、やはり大好きなケイト・ブランシェットが出ているからだとはおもう。彼女が出てくるだけで画面をさらってしまうオーラが凄い。フィルム・ノワールには悪女がつきもので、まさに彼女にぴったりの役柄だった。

ただ、Youtube「BLACKHOLE」の「【映画批評】『ナイトメア・アリー』と見世物小屋の映画史&22年アカデミー賞をぼんやり語る/高橋ヨシキ×てらさわホーク×柳下毅一郎【ネタバレ】」を見ると、簡単に因果応報のストーリーに落とし込みすぎる、との話しも出ていた。まあ、長編小説を2時間30分にまとめるには、ある程度、一定の定形パターンにせざるを得ないとはおもう。その定形のなかでどれだけ面白さをだせるかだけど、これだけ役者を揃えることができるのなら、それだけで眩いくらい豪華さだった。

1947年の「ナイトメア・アリー 悪夢小路」の最初の映画化作品『悪魔の往く町』は素晴らしい映画と云うことなので、DVDでも買って見てみようとおもう。それから、ウィリアム・リンゼイ・グレシャムの原作も読んでみよう。

→ギレルモ・デル・トロ→ブラッドリー・クーパー→アイルランド、イギリス/2021→109シネマズ木場→★★★★

監督:ケネス・ブラナー
出演:ジュード・ヒル、カトリーナ・バルフ、ジェイミー・ドーナン、ジュディ・デンチ、キアラン・ハインズ、コリン・モーガン、ララ・マクドネル、ジェラード・ホラン、コナー・マクニール
原題:Belfast
制作:アイルランド、イギリス/2021
URL:https://belfast-movie.com
場所:ユナイテッド・シネマ浦和

ケネス・ブラナーがどこの生まれなのか、もちろんイングランド出身であることは間違いないとおもっていたけれど、詳しいことを調べずに今までに至っていた。それで彼が、いかにも商業的な映画ばかり撮っているあいまに、さらりと『ベルファスト』と云う映画を撮ってはじめて、なんと彼は北アイルランドのベルファスト出身なのか! と知ることになった。

ケネス・ブラナー監督の『ベルファスト』は彼の自伝的内容の映画で、1969年の北アイルランド、ベルファストに暮らす少年バディの目線で描かれた映画だった。北アイルランドと云えば、まっさきに頭に浮かぶのがIRA(アイルランド共和軍)で、とくにジャック・ヒギンズの冒険小説を好んで読んでいた自分にとっては、その土地は甘酸っぱいロマンが交錯する憧れと恐怖が同居する場所と記憶しているので、ベルファストでケネス・ブラナーが育ったと聞いて云い知れぬ親近感が湧いてしまった。

ケン・ローチ監督の『麦の穂をゆらす風』を見ればわかるとおり、アイルランド独立戦争とその後のアイルランド内戦は、同胞同士、肉親同士が殺し合う凄惨なもので、それはこの映画の舞台である1969年のベルファストでも綿々と内部にくすぶっていた。

この映画の冒頭、ベルファストの街の人々に愛されていた少年バディに突然ふりかかる破壊と暴力は、そのくすぶる火種が再引火するきっかけだった。でも、カトリック教徒が多く住む地域がプロテスタントによって襲撃される事件が起きたあとも、少年バディにとっての日常は滞りなく続き、親が借金に苦しんでいても、祖父の病気が進行していても、クラスの女の子が好きだとか、悪い友達と万引をするだとか、まるで我々日本人の1969年ごろの子供社会となんら変わりが無いところが普遍性を表していて面白かった(夕方に、ごはんよ〜、と子どもたちを呼ぶ風景も日本と変わりない!)。

そして、週末には必ず映画があった。家族で映画館へ観に行く『恐竜100万年』だとか、『チキ・チキ・バン・バン』だとか、テレビで見る『リバティ・バランスを射った男』だとか、『真昼の決闘』だとか。映画を見ることによって、苦しみもも悲しもみ、何もかも忘れさせてくれたのも当時の日本社会と同じだった。

父親の仕事の都合でベルファストを離れなければならないラストシーン。70年代に入ってのベルファストの悲惨な状態を考えれば正しい選択だった。ただ、ひとり残される祖母(ジュディ・デンチ)のセリフ「Go now, don’t look back.(行きなさい、振り返るんじゃないよ)」があまりにも余韻を残しすぎた。彼女は生き抜けたんだろうか。

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映画の中で祖父(キアラン・ハインズ)が、何かしらから引用するセリフが気になった。ひとつだけ記憶に残っていたので、調べてみた。

A pity beyond all telling / Is hid in the heart of love.
William Butler Yeat

愛するという気持ちの底には、言うに言われぬ、憐憫の情がある。
ウィリアム・バトラー・イェイツ

ああ、名前だけは聞いたことがあるアイルランドの詩人イェイツだった。なるほど、祖父はだいぶ教養のある人物だった。

→ケネス・ブラナー→ジュード・ヒル→アイルランド、イギリス/2021→ユナイテッド・シネマ浦和→★★★★

監督:シアン・ヘダー
出演:エミリア・ジョーンズ、エウヘニオ・デルベス、トロイ・コッツァー、フェルディア・ウォルシュ=ピーロ、ダニエル・デュラント、マーリー・マトリン
原題:CODA
制作:アメリカ、フランス、カナダ/2021
URL:https://gaga.ne.jp/coda/
場所:109シネマズ木場

今年のアカデミー作品賞は、シアン・ヘダー監督の『コーダ あいのうた』が受賞した。通常ならそれで盛り上がるところなんだけれども、今回ばかりはウィル・スミスによるクリス・ロックへのビンタ騒動にすべてを持っていかれてしまった。そのために作品賞がだいぶ霞んでしまった。

だから、ちょっとかわいそうなので、そしてまだ未見だったので『コーダ あいのうた』を観に行った。

最近つくづく感じることだけれど、日本ではアカデミー賞の話題だけでは動員が伸びなくなってきていて、アカデミー賞発表後の土曜の昼間でも客席は半分ぐらいしか埋まっていなかった。作品的にもちょっと地味な感じの小品で、それよりも『SING/シング:ネクストステージ』のほうがお客が来ている雰囲気だった。

映画を観終わったあとに帰りがけの中年夫婦が「いい映画だったね」と云っていたように、『コーダ あいのうた』は映画として不足な部分は何もなかった。でも、聴覚障害のある両親に育てられた健常者の子供が、親の手話の通訳者でしかない自分の存在に疑問を持ち始める成長ストーリーでしかなくて、昨今のノーマライゼーションの考え方に合致する内容ではあるものの、これが作品賞? とおもわざるを得ないコンパクトな映画だった。だから、よし、映画館で観よう! と行動を起こさせるにはちょっと弱い映画ったのかもしれない。

そう云えば、アカデミー賞の授賞式中継の最中に町山智浩がTwitterでジェーン・カンピオン『パワー・オブ・ザ・ドッグ』の作品賞が有力だけれど「誰からも愛される映画『コーダ』が逆転する可能性が高いです。」と云っていた。

これは、アカデミー賞の投票方法が、ちょっと特殊なことから推測するTweetだった。アカデミー賞の作品賞を選ぶ方法は、アカデミー会員が10本のノミネート作品全部にそれぞれ順位を付けて、たとえば1位のものは10点、10位のものは1点とするような集計方法になっていて、だから1位が少なくても、みんなが2位、3位に入れるような映画が上位になってしまう仕組みだった。だから、平均点を取るような映画が点数を集めて、作品賞を獲ってしまう流れになっているらしい。

無難な映画が作品賞を獲るよりも『パワー・オブ・ザ・ドッグ』のような尖った映画が獲ったほうが、映画館で観たい! と行動を起こさせるのだろうか。いや、それもまた違うかのなあ。もうすでに日本のシネコンは、アニメ作品を観る場所として固定されてしまったのかもしれない。それも悲しいなあ。

→シアン・ヘダー→エミリア・ジョーンズ→アメリカ、フランス、カナダ/2021→109シネマズ木場→★★★☆