監督:黒沢清
出演:柴咲コウ、ダミアン・ボナール、マチュー・アマルリック、グレゴワール・コラン、西島秀俊、ビマラ・ポンス、スリマヌ・ダジ、青木崇高
原題:Le chemin du serpent
制作:フランス、日本、ベルギー、ルクセンブルグ/2024
URL:https://eigahebinomichi.jp
場所:MOVIXさいたま

黒沢清の映画を観て、めちゃくちゃ良かった、ってことは一度もなくて、でもみんなが、知り合いも含めて高評価をする人が多いのでまた観に行ってしまう。そんなことだから、黒沢清の過去の映画を見てなくて、今回の『蛇の道』が1998年に撮った映画のセルフリメイクであることさえも知らなかった。

また観に行ってしまう、ってことは、まったく嫌いなわけではなくて、彼が構築する不気味な世界観はとても好きで、そこになにかあるんじゃないか? とおもわせる演出は見ていてワクワクさせられてしまう。今回の『蛇の道』も、柴咲コウの蛇のような目つきが素晴らしかった。復讐に取り憑かれた狂気を表現するには彼女の目はまさしくぴったりで、この映画を彼女の目で締めくくることほど後を引くことはなかった。

ただ、アクション部分がグダグダだったり、監禁場所はもっとウンコまみれになるべきじゃない? とか、細かいところが気になってしまうのが全面的に好きになれないところなのかもしれない。

と云っても、また次回作は観に行くのかなあ。あ、それよりも1998年の『蛇の道』がAmazon PromeのKADOKAWAチャンネル無料体験で見られるみたい。それを見てみよう。

→黒沢清→柴咲コウ→フランス、日本、ベルギー、ルクセンブルグ/2024→MOVIXさいたま→★★★☆

監督:イーサン・コーエン
出演:マーガレット・クアリー、ジェラルディン・ヴィスワナサン、ビーニー・フェルドスタイン、コールマン・ドミンゴ、ペドロ・パスカル、ビル・キャンプ、マイリー・サイラス、マット・デイモン
原題:Drive-Away Dolls
制作:アメリカ/2024
URL:https://www.universalpictures.jp/micro/drive-away-dolls
場所:ユナイテッド・シネマ ウニクス南古谷

1940年代から50年代のイギリスで、マイケル・パウエルとエメリック・プレスバーガーと云うコンビを組む映画監督がいた。代表作は『天国への階段』(1946)『赤い靴』(1948)『ホフマン物語』(1951)などで、どの映画もメルヘンと怪奇的なものがほど良く混在した面白い映画ばかりだった。その後、二人がコンビを解消したあと、マイケル・パウエルは単独で『血を吸うカメラ』(1960)と云うとても暴力的な映画を撮った。そんなことから、今までのコンビの映画で見られた怪奇的な描写はマイケル・パウエルの好みによるものじゃないのか、と和田誠は山田宏一との対談(「たかが映画じゃないか」文藝春秋)で言及していた。

それを読んで、コンビで映画を撮ったときにそれぞれの趣味がしっかりと映画に反映されるものなんだ、とおもったものだった。となると、コーエン兄弟はどうなんだろう?

今回、コーエン兄弟がそれぞれはじめて単独で、ジョエルが『マクベス』(2021)を、イーサンが今回『ドライブアウェイ・ドールズ』(2024)を撮った。だから、この2つを見比べれば、ふたりの好みがわかるんじゃないかと考えた。

ジョエル・コーエンの『マクベス』は、とことん真面目にシェークスピアを映画化していて、今までのコンビの映画に見える文学作品への傾倒は、ああ、ジョエル・コーエンの趣味なのか、と見ることができた。一方、イーサン・コーエンの『ドライブアウェイ・ドールズ』はヘンリー・ジェイムズを引き合いには出すものの、映画としてはとてもエキセントリックなレズビアン二人のロードムービーで、小道具としてディルドが重要だったりと、ああ、なるほど、今までのコンビの映画に見える悪ふざけな部分はイーサン・コーエンの趣味だったのね、と見ることができてしまった。

たった2つの映画で彼らの嗜好を判断するのは拙速かもしれないけれど、それぞれ単独で作った映画が一つの方向にあまりにも振れすぎているので、二人で作った映画のほうがほどよく良いバランスになっているような気がしてしまった。今後はどうするんだろう? バラバラで撮って行くのかなあ。

→イーサン・コーエン→マーガレット・クアリー→アメリカ/2024→ユナイテッド・シネマ ウニクス南古谷→★★★☆

監督:ジョージ・ミラー
出演:アニャ・テイラー=ジョイ、クリス・ヘムズワース、トム・バーク、アリーラ・ブラウン、ラッキー・ヒューム、チャーリー・フレイザー、ネイサン・ジョーンズ、アンガス・サンプソン、ジョシュ・ヘルマン、ジョン・ハワード
原題:Furiosa: A Mad Max Saga
制作:オーストラリア、アメリカ/2024
URL:https://wwws.warnerbros.co.jp/madmaxfuriosa/index.html
場所:MOVIXさいたま

2015年に『マッドマックス 怒りのデス・ロード』が公開されたとき、映画ファンによって熱狂的に迎えられて、誰もがこの映画に対する評価がすこぶる高かった。そんななか、いや悪くはないんだけどぉ、、、って、口ごもるのは自分だけだった。この取り残され感は、クリストファー・ノーランの『ダークナイト』のときと同じだった。

どこが引っかかったのか、Amzon Primeでもう一度『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を見てみた。今回は吹替版で。

ジョージ・ミラーが1979年に作った『マッドマックス』は、狂気に対抗するには自分も狂気にならざるを得ない主人公の理不尽さを感じながらも、狂気を倒して復讐を達成させたときのカタルシスは気持ちよく、この2つの矛盾が『マッドマックス』を面白くさせていた。1981年の『マッドマックス2』も、マックスの正気を表現する場をまだ残していて、ジャイロ・キャプテンのようなトリックスターも得て、さまざまなキャラクターからむ英雄神話譚として、その後の「マッドマックス」サーガのベースとなるほどの面白さだった。

ところが『マッドマックス 怒りのデス・ロード』では、すべてにおいて狂気が支配していて、マックス(トム・ハーディ)やフュリオサ大隊長(シャーリーズ・セロン)のバックグラウンドが描かれることも少なく、狂気が狂気を倒すだけの映画になってしまっていたところがちょっと不満だったのかもしれない。イモータン・ジョーやウォー・ボーイズ、ドーフ・ウォーリアー(行軍中に火炎放射器付きのエレキギターを弾く奴)などのビジュアルの素晴らしさは、まったくもって全面的に同意するんだけれど。

今回の『マッドマックス:フュリオサ』は、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』ではあまり触れることのできなかったフュリオサ(アニャ・テイラー=ジョイ)のストーリーをメインに持ってきた。なので、子供の頃からのフュリオサの正気や狂気を充分に描く余地があって、悪役として配置したディメンタス(クリス・ヘムズワース)もどこか憎めないキャラクターとして存在しているので、全体的な雰囲気が『マッドマックス2』に戻ってきた。

それに、髪を切ってマッチョな男に寄せる以前のフィリオサを描くにあたって、Netflixドラマ「クイーンズ・ギャンビット」を見て気に入ってしまったアニャ・テイラー=ジョイを起用したのは、自分としてはさらに楽しめる要素がプラスアルファだった。今回もまた彼女の眼力(めぢから)に吸い込まれてしまった。

タイトルに「A Mad Max Saga」と付けているからには次作もあるんだろうなあ。次は誰にスポットライトをあてるんだろう? イモータン・ジョーか?

→ジョージ・ミラー→アニャ・テイラー=ジョイ→オーストラリア、アメリカ/2024→MOVIXさいたま→★★★★