監督:三谷幸喜
出演:長澤まさみ、西島秀俊、松坂桃李、瀬戸康史、遠藤憲一、小林隆、坂東彌十郎、戸塚純貴、阿南健治、梶原善、宮澤エマ
制作:フジテレビジョン、東宝/2024
URL:https://suomi-movie.jp
場所:ユナイテッド・シネマ浦和

三谷幸喜の最初の映画『ラヂオの時間』(1997)は、さすが三谷幸喜だな、と手放しで喜んだことを覚えている。でもそのあとの映画は、悪くないんだけどイマイチ、が続いて、『清須会議』(2013)はまったく楽しめなかった。三谷幸喜が書くドラマは、尺が100分くらいのなかでテンポよく展開させるコメディがベストで、だらだらと120分を越える映画は三谷幸喜には似つかわしくない。むかしのハリウッドのコメディ映画に精通している彼なら、そのあたりのことを理解しているはずなんだけれど。一度、フジテレビジョンと東宝の制作から離れて、もっとコンパクトな予算の範囲で映画を作って、劇団「東京サンシャインボーイズ」のころの原点に一度立ち戻ってみると良いのに。

で、今回の『スオミの話をしよう』は、尺が114分とコンパクトな映画には仕上がっていて、おもったよりは楽しめた。『スオミの話をしよう』の英語の題名が「ALL ABOUT SUOMI」であることから「All About Eve(イヴの総て)」を連想して、さらにそのジョーゼフ・L・マンキーウィッツから『三人の妻への手紙』(1949)のような「同じ人間の話をしているのに、人によって見え方が違う」をベースにしているのね、とおもい当たった。映画を観終わったあとにネットを検索すると、三谷幸喜がそのことに言及しているページを見つけた!(https://gendai.media/articles/-/136913?page=3

ただ、三谷幸喜なら、もうちょっとテンポを早くして、もっともっと笑いを盛り込めるはずだとはおもうんだけれど。惜しい映画だ。

→三谷幸喜→長澤まさみ→フジテレビジョン、東宝/2024→ユナイテッド・シネマ浦和→★★★☆

監督:リチャード・リンクレイター
出演:グレン・パウエル、アドリア・アルホナ、オースティン・アメリオ、レタ、サンジャイ・ラオ、モリー・バーナード、エバン・ホルツマン、グラレン・ブライアント・バンクス
原題:Hit Man
制作:アメリカ/2023
URL:https://hit-man-movie.jp
場所:MOVIXさいたま

リチャード・リンクレイターのフィルモグラフィーを見ると様々なタイプの映画が並んでいる。イーサン・ホークとジュリー・デルピーが演じる男女の関係を、二人が実際に歳を取って行くままに撮り続けた『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』(1995)『ビフォア・サンセット』(2004)『ビフォア・ミッドナイト』(2013)の3部作や、ジャック・ブラックのアクの強い演技が笑える『スクール・オブ・ロック』(2003)、クリスチャン・マッケイが演じる若き日のオーソン・ウェルズが素晴らしい『僕と彼女とオーソン・ウェルズ』(2008)などなど、リチャード・リンクレイターはなんでも撮れる職人監督のイメージだ。いや、製作や脚本までもするので職人の域を超えている。

そのリチャード・リンクレイターの新作『ヒットマン』も、まさに職人技と云えるようなシチュエーション・コメディだった。グレン・パウエルが演じていてる「ニセモノの殺し屋」が、過去の映画などで描かれてきたタフな殺し屋像を演じているうちに、内に引きこもる陰キャラを次第に開放して行くストーリーは観ていて楽しかった。と同時に、大人になってからも人の性格は変えられるよ、のメッセージは、笑いながらも痛烈に刺さるものだった。

主人公のグレン・パウエルが演じるゲイリー・ジョンソンは、講師として働きながら、警察のおとり捜査に協力してプロの殺し屋を演じた実在の人物だった。その人物をリチャード・リンクレイターと一緒にグレン・パウエル自らも脚本に参加してふくらませて作り上げたのがこの映画の主人公だった。リチャード・リンクレイターは俳優を脚本に参加させることがある。たしかに、演じやすいように現場でホンを書き換える必要があるのなら、まあ、いろいろと脚本家組合などの事情があるのだろうけれど、出演俳優を脚本に参加させるのは効率の良い方法なのかもしれない。

実際に人を殺すハメになってしまう主人公がハッピーエンドになるオチはちょっとひっかかるものがあるのだけれど、リチャード・リンクレイターの映画はいつも楽しむことができる。

→リチャード・リンクレイター→グレン・パウエル→アメリカ/2023 →MOVIXさいたま→★★★☆

監督:新藤兼人
出演:宇野重吉、乙羽信子、小沢栄太郎、千田是也、三島雅夫、稲葉義男、浜田寅彦、永井智雄、殿山泰司、清水将夫、永田靖、原保美、松本克平、中村是好、十朱久雄、森川信、三井弘次、内藤武敏、笹川恵三、金井大、中谷一郎、本郷淳、広井以津子、江角英明、原緋紗子、井川比佐志、田中邦衛
制作:近代映画協会、新世紀映画/1959
URL:
場所:武蔵大学50周年記念ホール

今年も武蔵大学で行われた「被爆者の声をうけつぐ映画祭」を観に行った。今回は新藤兼人監督の1959年の映画『第五福竜丸』を選んだ。有名な映画だけれども観るのは初めてで、1954年(昭和29年)3月1日にアメリカの水爆実験で被曝した第五福竜丸の事件をドキュメンタリータッチで描いている映画だった。

新藤兼人監督の『裸の島』(1960)を観たとき、瀬戸内海の小さな島に住む4人家族の生活を淡々と、セリフ無しに撮る手法に驚いた。ドキュメンタリーに近い映画だけれども、もちろんカメラの構図はしっかりしているし、情緒的な音楽も入るし、長男の死と云うドラマティックなことも起こる。新藤兼人の映画がドキュメンタリーっぽい劇映画だとすると、原一男の映画は劇映画っぽいドキュメンタリー映画で、ドキュメンタリーと劇映画の境界線を意識するのにうってつけの映画だった。

『裸の島』の1年前に作られた『第五福竜丸』も、事実をしっかりと伝えるためにかドキュメンタリー調で撮られていたけれども、今ならばバイプレーヤーと云われる有名な脇役を大勢出演させていたので、俳優によりスポットが当てられたために劇映画の要素が強めになっていた。映画ファンとしては、大勢の脇役たちの演技を楽しむと同時に、歴史的な事件でもある第五福竜丸の被爆についてもしっかりと知識として得ることができたので、とても楽しめる映画になっていた。

映画が終わった後に都立第五福竜丸展示館の学芸員である安田和也さんによる講演があった。毎年、仕事の関係で夢の島にあるBumB東京スポーツ文化館へ行っているのだけれども、いつも第五福竜丸展示館の横を自転車で通り過ぎていた。今度は第五福竜丸展示館へ立ち寄ってみようとおもう。

→新藤兼人→宇野重吉→近代映画協会、新世紀映画/1959→武蔵大学50周年記念ホール→★★★☆

監督:フェデ・アルバレス
出演:ケイリー・スピーニー、デヴィッド・ジョンソン、アーチー・ルノー、イザベラ・メルセード、スパイク・ファーン、アイリーン・ウー
原題:Alien: Romulus
制作:アメリカ/2024
URL:https://www.20thcenturystudios.jp/movies/alien-romulus
場所:ユナイテッド・シネマ浦和

最初の『エイリアン』が公開されてから45年。2017年の『エイリアン: コヴェナント』ですべてをやり尽くして、いくらなんでもこれで「エイリアン」シリーズの集結ではないかとおもっていたら、まだまだ、フェデ・アルバレスによる『エイリアン:ロムルス』と云う映画がやって来た。時系列で云えば、最初の『エイリアン』のすぐあとのストーリーで、本編からのスピンオフ的な位置づけになるらしい。

これだけ数多くの「エイリアン」映画が作られたあとの新作に期待することと云えば、どんな新しいアイデアを盛り込んでくれるんだろう、ぐらいしかない。それが無ければ新しい「エイリアン」を作る意味がない。と云うことで、『エイリアン:ロムルス』に新しい要素を期待しつつ観てみた。

なるほど、最初のリドリー・スコットの『エイリアン』に対するリスペクトはひしひしと感じられる。まったく陽が差さないジャクソン星はまるで『ブレードランナー』のようだ。「エイリアン」シリーズに受け継がれる「母体」から生み出されるものへの恐怖もパワーアップしている。でも「恐怖」と云う観点から云えば、『プロメテウス』や『エイリアン: コヴェナント』に比べると安っぽいホラー映画のようにも見えてしまうのは残念。新しいアイデアも、人間のDNAと合体した「エイリアン」が誕生したくらいかなあ。そのミュータントのデザインもまるで『未知との遭遇』の宇宙人のようで「エイリアン」に不可欠な圧倒的なパワーが感じられないのはいまいち。

そのミュータントを見て、デヴィッド・クローネンバーグだったらどんなデザインにするんだろうと考えてしまった。ああ、デヴィッド・クローネンバーグ版『エイリアン』が観たくなってしまった。

→フェデ・アルバレス→ケイリー・スピーニー→アメリカ/2024 →ユナイテッド・シネマ浦和→★★★