テレビのニュースを見ていたら、低予算の映画ながらに口コミで話題になって『カメラを止めるな!』のように上映館数が全国に拡大した映画があると取り上げていた。それが安田淳一監督の『侍タイムスリッパー』だった。たしかにあちこちのシネコンでも上映していて、ユナイテッド・シネマ浦和でも1日1回だけ上映していたので観てみた。

幕末の会津藩士が現代にスリップして京都にある時代劇のセットに迷い込み、そこで「斬られ役」として生きていく主人公を描くことで、斜陽となってしまった時代劇への愛情を示すストーリーの設定は面白かった。それに「斬られ役」に代表される大部屋俳優への賛歌にもなっていたところもとても良かった。無名でもすばらしい俳優たちが数多くいることをこの映画自体が示しているところは時代劇の痛快さに通ずるところがあった。

ただ、全体的にきっちりと真面目に撮りすぎていて、それはそれでこのような低予算の映画には大切なことだとはおもうけれど、『カメラを止めるな!』が良かったのはちょっといい加減なところだったんだなあ、と云うことを再認識してしまった。でもそこは個人的な見解で、上映館数が広がるほどのとてもおもしろい映画であることには間違いなかった。

→安田淳一→山口馬木也→未来映画社/2024→ユナイテッド・シネマ浦和→★★★☆

監督:アレックス・ガーランド
出演:キルスティン・ダンスト、ヴァグネル・モウラ、スティーヴン・ヘンダーソン、ケイリー・スピーニー、ソノヤ・ミズノ、ジェファーソン・ホワイト、ネルソン・リー、エヴァン・ライ、ニック・オファーマン、ジェシー・プレモンス
原題:Civil War
制作:アメリカ、イギリス/2024
URL:https://happinet-phantom.com/a24/civilwar/
場所:ユナイテッド・シネマ浦和

映画のタイトル『シビル・ウォー アメリカ最後の日』だけから判断したら、南北戦争のように分断されたアメリカ合衆国が内戦になる戦争映画だとおもってしまった。だからなんとなく、観なくてもいいかな、とおもっていた。でも監督が『エクス・マキナ』や『アナイアレイション -全滅領域-』を撮ったアレックス・ガーランドと聞いて、さらに「A24」の製作であることも聞いて、これは観に行かなければならない、となった。

観てみたらドンパチする戦争映画ではまったくなかった。なんと、戦場カメラマンや記者たちのロードムービーだった。

この映画の時代設定はよくわからない。おそらくは近未来と云うことなんだとおもう。政府に反発したテキサス州とカリフォルニア州が「西部勢力(Western Forces、WF)」として連合し、首都ワシントンD.C.へと向けて進軍しているさなか、戦場カメラマンのリー・スミス(キルスティン・ダンスト)と記者のジョエル(ヴァグネル・モウラ)は、ベテラン記者のサミー(スティーヴン・ヘンダーソン)と駆け出しの若いカメラマン、ジェシー(ケイリー・スピーニー)を連れて、追い詰められた大統領のインタビューをスクープするためワシントンD.C.へと向かおうとする。でも州道は寸断されていて、そのままワシントンD.C.へと向かうことは出来ず、ピッツバーグへ西進してからウェストバージニア州を通過して最前線のバージニア州シャーロッツビルへ向けて車を走らせる。

この映画は、無能な大統領によって引き起こされたアメリカ合衆国での内戦の恐怖を描くことを軸としながらも、さらに大きなテーマとして、リー・スミス(キルスティン・ダンスト)が若いジェシー(ケイリー・スピーニー)に対して稚拙さを感じながらも自分の若い頃を重ねて見て、彼女の成長を静かに見守る映画になっていたところが普通のドンパチする戦争映画とは違うところだった。

若いジェシーが憧れのリー・スミスにはじめて会ったとき「同じく尊敬するリー・ミラーと名前が一緒で」と云うセリフがあった。リー・ミラー? 誰? あとから検索すると、とても有名な女性の写真家だった。

リー・ミラーは、まずはファッションモデルとしてキャリアをスタートさせて、そのあと戦場カメラマンへとなった、とても特異な人生を歩んだ女性だった。とくに第二次世界大戦下でノルマンディー上陸作戦やダッハウなどの強制収容所でのナチスの戦争犯罪の痕跡をとらえた写真がとても有名らしい。アレックス・ガーランド監督はリー・ミラーを尊敬していて、キルステン・ダンストが演じるリー・スミスはそのリー・ミラーの名前にちなんでいるらしい。

参考ページ:https://www.tokyoartbeat.com/articles/-/civil-war-lee-miller-202410

それからこの映画で触れなければならないのはやはりジェシー・プレモンスの怖さだ。ジェシー・プレモンスって、昔はマット・デイモンの二番煎じ的な俳優としてしか見ていなかったけれど、最近は『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』『憐れみの3章』と、役者として攻めて来ている。良い役者だ。

→アレックス・ガーランド→キルスティン・ダンスト→アメリカ、イギリス/2024→ユナイテッド・シネマ浦和→★★★★