雪の轍

監督:ヌリ・ビルゲ・ジェイラン
出演:ハルク・ビルギナー、メリサ・ソゼン、デメット・アクバァ、アイベルク・ペクジャン、セルハット・クルッチ、ネジャット・イシレル
原題:Kis Uykusu
制作:トルコ、フランス、ドイツ/2014
URL:http://bitters.co.jp/wadachi/
場所:ギンレイホール

『雪の轍』は第67回カンヌ国際映画祭のパルムドール大賞を獲った映画。3時間16分もの長尺なので一度はパスした映画だったけれど、自分の回りでの評判がなかなか良いので、二番館(なんて言葉はもう死語かもしれない)のギンレイホールまで追いかけた。

登場人物は、トルコのカッパドキアにある洞窟ホテルを運営する夫婦アイドゥンとミハル、そしてアイドゥンの妹ネジラ。さらに彼らが貸している家に住む兄弟のイスマイルとハムディが絡んで、元俳優で今は地方新聞にコラムを書いているアイドゥンを中心とした確執が展開して行く。

映画の中での会話劇が大好きなので、アイドゥンとネジラ、アイドゥンとミハル、アイドゥンとイスマイルやハムディとの言葉だけでやり合うシーンがとても面白かった。裕福で人格者に見えるアイドゥンの人間性を根拠の無いまま信頼して、彼の肩を持って喧嘩のシーンを見守る序盤から、徐々にその言葉の端々に、おや? が積み重なって行って、最後には彼と決別せざるを得なくなってしまう構成も素晴らしい。

とは云え、妹のネジラや妻のミハルの売り言葉に買い言葉の言動も信頼することは出来ず、イスラム教の導師と呼ばれているハムディに対しても影でアイドゥンに悪態をつくシーンからまったく信用できず、もちろん粗野なイスマイルからは暴力しかイメージできなくて、登場人物の誰に対してもより所を見つけれないまま3時間も見続けなければならない映画はなかなか辛い。特にアイドゥンと妹のネジラとの喧嘩のシーンはいったい何分あるんだろう。この言葉だけの闘いはイングマル・ベルイマンの『秋のソナタ』の中のイングリッド・バーグマンとリヴ・ウルマンの親子喧嘩を思い出させるほど壮絶なもので、そのシーンが終わったときには頭がクラクラした。アイドゥンが妻のネジラを言葉だけで完膚無きまでに打ちのめすシーンも、男がここまで言葉巧みに細かく女を攻撃し続ける映画をあまり見たことがない。どちらかと云うと女性が行うような攻撃性をアイドゥンに見て、とても不愉快になる男は多いとおもう。

面白い映画だけど、見終わったあとにヘトヘトになる映画だった。

→ヌリ・ビルゲ・ジェイラン→ハルク・ビルギナー→トルコ、フランス、ドイツ/2014→ギンレイホール→★★★★