マネー・ショート 華麗なる大逆転

監督:アダム・マッケイ
出演:クリスチャン・ベール、スティーヴ・カレル、ライアン・ゴズリング、ブラッド・ピット、カレン・ギラン、メリッサ・レオ、マリサ・トメイ、トレイシー・レッツ、ハミッシュ・リンクレイター、ジョン・マガロ、スタンリー・ワン、バイロン・マン、レイフ・スポール、ジェレミー・ストロング、フィン・ウィットロック、マックス・グリーンフィールド
原題:The Big Short
制作:アメリカ/2015
URL:http://www.moneyshort.jp
場所:109シネマズ菖蒲

この映画は、アメリカで2007年ごろに起きたサブプライムローン(返済能力の低い人たちに住宅を担保として高利で貸し付けた住宅ローン)問題に関連したストーリーであることはわかっていたので、理解するのに一苦労するだろうな、とはおもいながら果敢に挑戦した。

金融関係の知識がないと、まずは原題の「Short」の意味する「空売り」がよくわからない。この映画は「空売り」をストーリーの中心に据えているので、その「空売り」の意味がわからないと致命傷だった。いや、今まで蓄えて来た知識の範囲内で何となく「空売り」の意味はわかる。おそらく「持っていないものを売る」ことだろう。いわゆる「信用売り」のことで、今持ってなくても必ず後から手に入れられると云う信用があることからこそ出来る売り方であることはなんとなく想像がついた。でも、それを行うことによって莫大なお金を手に入れるしくみが映画を見ている最中にはよくわからなかった。だから、見終わったあとに一生懸命調べた。

この映画には3つのグループが登場する。クリスチャン・ベールのヘッジファンドと、ライアン・ゴズリングとスティーヴ・カレルが絡むドイツ銀行&モルガン・スタンレーの子会社のチーム、そしてブラッド・ピットの投資家と若手二人のトレーダーのチームの3つ。この3つは、横の繋がりが無くても同時発生的にサブプライムローン関連の証券を元にして儲ける方法に気が付く。

サブプライムローン関連の証券とは、サブプライムローンも含んだ住宅ローンをいっぱい集めて巨大なプールを作って、住宅を買った人からの返済金額を切り分けて、資金返済の優先度の高いグループ(「シニア債」と呼ぶらしい)、その次の優先度の高いグループ(「メザニン債」と呼ぶらしい)、そして最後の優先度の低いグループ(「ジュニア債」と呼ぶらしい)と切り分けて証券化したものを指す。この細分化された一つ一つをトランシェと呼ぶらしい。資金返済の優先度の高い「シニア債(優先債)」のトランシェは債務不履行(デフォルト)になりやすいけれど、ちゃんと返済が行われれば証券を買った人へのリターンが高いくなる、というしくみで、反対に「ジュニア債(劣後債)」のトランシェはローリスク・ローリターンになる。

たとえば3つのグループの中のクリスチャン・ベールが演じているマイケル・バーリを例に取ると、彼は完全にサブプライムローンが破綻することを見通して、そのトランシェの中でもハイリスクの「シニア債(優先債)」や「メザニン債」のCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)を大量に買い集める。

CDSとは、証券化商品を持っている人がリスクを回避のために買う保険のようなもので、このCDSを購入し、毎年保険料をしっかりと支払っていれば、もし住宅ローンがは債務不履行(デフォルト)に陥ってもその債券の額面をしっかりと受け取れるというものだ。

マイケル・バーリのもくろみは、大量のCDSを買い増し続けて、さらに多額の保険料を支払い続けたとしても、サブプライムローンが破綻すればその債券の額面通りの金額が大量に入って来る(または、CDS自体の価格が上昇し、その売却で大量の利益が出る)と云うものだった。そのもくろみをまったく理解できないファンドの出資者たちからは「なんでCDSなんかを買うんだ!」と不満が続出し、「解約は許さない」と云うマイケル・バーリのメールに対して罵詈雑言の返信を送り付けるほど誰もがサブプライムローンを信用していた。

このようなCDSに関連した儲けの流れを理解したとしても、これのどこが「空売り」なんだろう、とまずはおもった。CDSを買い続けることがなぜ「空売り」になるんだろうと頭が混乱してしまった。でも、いろいろと調べると、もう「空売り」=「信用売り」ではないらしい。その意味合いも残っているのかもしれないけれど、この映画の「Short」とは、相場が下がる気配がまったく無い段階で下がることを見越して大博打に出ることを指すらしい。サブプライムローンが破綻して下げ相場に転じることを見越して関連証券を大量に買うこと自体が「空売り」を意味していたのだった。

他の2つのグループの「空売り」も基本的にはマイケル・バーリの「空売り」と同じようにCDSを購入して行くことだった。ただ、他の2つのグループが実際に体を動かしていろいと情報をかき集めているのに対して、クリスチャン・ベールのマイケル・バーリは部屋に閉じこもって、デスメタルをガンガンとかけているだけなのが対照的だった。さらにスティーヴ・カレルやブラッド・ピットが、本家のモルガン・スタンレーに多大な債務を負わせることや家を失って路頭に迷う人たちがいることに対して良心を嘖まれる描写があるのに対して、クリスチャン・ベールのマイケル・バーリにはそのような偽善的な描写がまったくなくてクールさだけが際立っているところがカッコよかった。

映画を見ている最中には、この「空売り」「トランシェ」「CDS」やさらに「CDO(債務担保証券)」なんてものも出てきて、その内容がまったく理解できなかったので映画の内容を充分と楽しんでいるとはまったく云えなかった。でも、サブプライムローンに関連して儲けたやつら、とだけを理解して映画を見たとしても充分に面白かった。さらに内容も理解できていれば、めちゃくちゃ面白い映画だったとおもう。

→アダム・マッケイ→クリスチャン・ベール→アメリカ/2015→109シネマズ菖蒲→★★★★