GOLD

監督:トーマス・アルスラン
出演:ニーナ・ホス、マルコ・マンディク、ラルス・ルドルフ、ウーヴェ・ボーム、ピーター・クルト、ローザ・エンスカート、ヴォルフガング・パックホイザー
原題:GOLD
制作:ドイツ/2013
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場所:アテネ・フランセ文化センター

最近のドイツ映画のベルリン派と呼ばれる監督たちを誰ひとり知らなかった。なので、そのうちの一人のトーマス・アルスランの映画を観てみた。

まず、なんの予備知識もなしにこの映画を見てみると、とても淡々とした、静かな調子の、悪く云えば退屈な映画に見えてしまう。でも、そこには何か、わざとドラマティックな展開を排除しているような意図がうかがえる。

・西部劇にありがちな一人の女をめぐった恋の鞘当てになりそうでならない。
・ジョン・ヒューストン監督『黄金』のような金(ゴールド)をめぐった人間のエゴの争いのようになりそうでならない。
・『明日に向かって撃て!』のような追われる側と追う側のドラマ(最後にはその決着が描かれるけど重要ではない)になりそうでならない。

ことごとく「西部劇」における王道のドラマをにおわせておきながらそれを発展させない。劇的な展開は何も起こさせない。人が死んでも、居なくなっても、撃たれて殺されても、淡々と前に進んでいかなければならない。まるで我々の平凡な人生のように。

この映画の上映後、吉田広明(映画批評家)と渋谷哲也(ドイツ映画研究者)のトークがあった。そこで、この「何も起こさせない」ことをトーマス・アルスランは意図しているわけではない、と渋谷哲也が云っていた。トルコ系ドイツ人であるトーマス・アルスランは、その自分の出自に関係することを映画の中に反映させる(主人公のニーナ・ホスはドイツ系移民の二世、三世をうかがわせる)こともできるのにやらない。あえてやらないのではなくて、ただ単にやらない。

うーん、それは、なんだか、凄い。
ちょっと他の作品も見たくなってしまった。

単純にこの映画を観ただけなら、ふーん、で終わってしまっていたのが、ちょっとトーマス・アルスランに興味が湧いてきてしまった。でも、ドイツのジャーナリストが、カンヌ映画祭のドイツ代表がこんな地味な映画なのか! と憤慨したことからもわかるとおり、派手な映画ではないことは確かだ。

→トーマス・アルスラン→ニーナ・ホス→ドイツ/2013→アテネ・フランセ文化センター→★★★☆