疑惑のチャンピオン

監督:スティーブン・フリアーズ
出演:ベン・フォスター、クリス・オダウド、ギョーム・カネ、ジェシー・プレモンス、リー・ペイス、ドゥニ・メノーシェ、エレイン・キャシディ、ダスティン・ホフマン
原題:The Program
制作:イギリス、フランス/2015
URL:http://movie-champion.com
場所:新宿明治安田生命ホール(試写会)

ちょうどタイラー・ハミルトンがダニエル コイルと書いた「シークレット・レース ツール・ド・フランスの知られざる内幕」(児島修訳、小学館文庫)を読んだばかりだから、ツール・ド・フランスを7連覇したランス・アームストロングを描いた『疑惑のチャンピオン』の公開はとてもタイミングが良かった。ベン・フォスターが演じるランス・アームストロングはいったいどんな感じに仕上がっているのか、はたしてタイラー・ハミルトンは出てくるのか、期待を込めて試写会に臨んだ。

「シークレット・レース ツール・ド・フランスの知られざる内幕」を読めば、ドーピングをやらなければまったく勝てない(勝てないどころか20位内にも入れない!)レースのシステムの中に放り込まれて、泣く泣くドーピングをやらなければならなくなる過程が痛いほど良くわかる。そのようなシステムの中でランス・アームストロングはミケーレ・フェラーリと云う怪しげな医師の協力を得て、一番頭良く立ち振る舞っただけだった。もしランス・アームストロングを責めるとすれば、悪賢く立ち振る舞ってレースで優勝して莫大な金を稼いだこともそうだけど、そう云ったことに手を染めざるを得なくなる状況をも同時に責めなければならないはずだ。

タイラー・ハミルトンは自分自身もドーピングに染まって行ってしまった当事者として、姑息な策略で他人を出し抜いてまでもレースの頂点を勝ち取ろうとするランス・アームストロングの人間性は非難していたけれども、彼もまたドーピング・システムの中に放り込まれてしまった被害者であることを一生懸命強調しようとしていたとおもう。「シークレット・レース ツール・ド・フランスの知られざる内幕」を読んでいて、内幕を暴いたルポルタージュであったとしても好印象を持ったのはその点があるからだった。

スティーブン・フリアーズの『疑惑のチャンピオン』は、短い時間でランス・アームストロングのドーピング疑惑を描かなければならない制約があるからだろうけど、彼もまた犠牲者であるとの配慮が少し欠けていたようにおもう。もちろんランス・アームストロングの過激な人間性を面白可笑しく描くことは映画として大切だ。でも、作り出された環境によってはどんな人間であったとしても誘惑に負けてしまう可能性があることを少しばかり加味して欲しかった。

シークレット・レース ツール・ド・フランスの知られざる内幕
タイラー・ハミルトン、ダニエル・コイル著
児島修訳
¥957
小学館文庫

→スティーブン・フリアーズ→ベン・フォスター→イギリス、フランス/2015→新宿明治安田生命ホール(試写会)→★★★