監督:マシュー・ハイネマン
出演:ホセ・ミレレス、ティム・フォーリー
原題:Cartel Land
制作:メキシコ、アメリカ/2015
URL:http://cartelland-movie.com
場所:川越スカラ座
今年日本で公開されたドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『ボーダーライン』は、メキシコの麻薬カルテルのボスを殺害する作戦に参加させられてしまう女性FBI捜査官のストーリーだった。そこで描かれるメキシコの町「シウダー・フアレス」が強烈に不気味で、道端にぶら下がっている複数の首つり死体、官憲でありながら敵か見方かわからない警察官、とてつもない重火器を多数備えたギャングたちと、
現在のメキシコはこんなふうになってしまったんだ!
と驚いてしまった。
そしてその興味からヨアン・グリロ著(山本昭代訳)「メキシコ麻薬戦争: アメリカ大陸を引き裂く「犯罪者」たちの叛乱」(現代企画室)を読み出してしまった。
メキシコの現状は想像していたものよりも相当悲惨な状態になっていた。アメリカと云う麻薬の巨大市場が隣にあるために利権を奪い合って一般市民をも巻き込んで殺し合うメキシコのカルテルたち。そのカルテルと癒着する警察官たち。国の予算で訓練された兵隊が除隊してカルテルの軍隊となるしくみ。アメリカから密輸されるとてつもない量の武器、弾薬。もう何もかもが負の連鎖で複雑に絡み合ってしまって、それをほぐす糸口さえもまったく見い出すことの出来ないメキシコの政治家たち。ヨアン・グリロの「メキシコ麻薬戦争」はそのようなメキシコの現状を芸能や宗教までも押さえていろんな角度から検証していた。
さらに今回、活字を追うだけではなくて、ドキュメンタリー映像を見る事によってさらに「メキシコ麻薬戦争」を補完できるのではないかとおもってマシュー・ハイネマン監督の『カルテル・ランド』を見てみた。
期待していたのはメキシコの麻薬戦争を包括的に描くドキュメンタリーだったのだけれど、そうではなくて、麻薬カルテルに対抗する市民による「自警団」についての、また違った角度からのメキシコの麻薬戦争についてのドキュメンタリーだった。まあ、それはそれで、本にはなかった事実を知ることが出来て面白い。面白いけど、ヨアン・グリロの「メキシコ麻薬戦争」を読んでいるのならまだしも、この映画を見ただけではティフアナやシウダー・フアレス、そしてセタスやラ・ファミリアなどのカルテルが乱立するメキシコの麻薬戦争の全貌が俯瞰出来ずに、市民による「自警団」と云う細部からメキシコの麻薬事情を伺い知る程度になってしまうのが残念だった。
ヨアン・グリロの「メキシコ麻薬戦争」はめちゃくちゃ面白いので、もし『カルテル・ランド』でメキシコの麻薬事情に興味を持ったのなら絶対に読むべきだとおもう。
※絶対に行かねばとおもっていた川越スカラ座にはじめて来てみた。おお、これは昭和の名画座だ!こんな感じの映画館でどれだけ時を過ごしたことか。ああ、もっと川越スカラ座に来たいけど、川越って埼玉東部からは山一つ越える感じなんだよなあ。実際には川だけど。
→マシュー・ハイネマン→ホセ・ミレレス→メキシコ、アメリカ/2015→川越スカラ座→★★★