監督:ジェイ・ローチ
出演:ブライアン・クランストン、ダイアン・レイン、ヘレン・ミレン、マイケル・スタールバーグ、ルイス・C・K、エル・ファニング、ジョン・グッドマン、アドウェール・アキノエ=アグバエ、デビッド・ジェームズ・エリオット、アラン・テュディック、ジョン・ゲッツ、ダン・バッケダール、ロジャー・バート、メーガン・ウルフ、ミッチェル・ザコクス、ディーン・オゴーマン、クリスチャン・ベルケル
原題:Trumbo
制作:アメリカ/2015
URL:http://trumbo-movie.jp
場所:TOHOシネマズシャンテ
脚本家のダルトン・トランボが1940年代末から50年代のはじめにかけて行われた「赤狩り」で、ジョセフ・マッカーシー上院議員と非米活動委員会によって共産主義者と断定されて、「ハリウッド・テン」の一人としてハリウッドから干されたエピソードは断片的にいろいろと聞きかじってはいた。そのいわゆる「マッカーシズム」は、友人の名前を共産主義者として告発しなければいけなかったり、擁護してくれていた友人が途中から急に口を閉ざしてしまったりと、疎外される恐怖に陥った人間の弱さばかりが目立つような暗くて悲惨なイメージでしかなかった。でもダルトン・トランボは、70年代に入って名誉が回復されるまでに名前を変えていろいろな仕事をしていて、そのあいだには『ローマの休日』や『黒い牡牛』でアカデミー賞脚本賞を獲得してしまうと云うバイタリティあふれるエピソードが残っていて、このドロドロとした「赤狩り」の中に放り込まれた人間にしては茫洋としていて掴みどころのない人物像だった。
ジェイ・ローチの『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』は、そのぼんやりとした人物像を明確にしてくれた映画だった。
ダルトン・トランボの凄さは、現在の境遇に嘆かない、他人の所為にはしない、うしろを振り返らない、だった。普通の人間だったら、なんでオレばっかり、とか、あいつは汚ねえ、とか、あの時にああしておけば良かった、とか、不満や憎悪や未練がタラタラだ。でもダルトン・トランボにはそんなところが微塵もなく、どんなものでもすべてを受け入れて、そして現在の状況で出来る最大限のことをやろうと邁進できる特異まれなる性格の人間だった。(もちろんその人間としての特異さは、たとえば周りの家族にしわ寄せが行ってしまったりするのだけれど)そんな部分を自分と照らし合わせてしまうと、狡猾で、狭小で、他力本願な自分のことを反省しきり。あ〜あ、ダルトン・トランボのような人間になりたいけど、まあ、無理だ。
ハリウッドの裏幕ものとして実在の監督や俳優が出てくるのも面白かった。ジョン・ウェインは似てねえな、とか、カーク・ダグラスが小っちぇえ! とか、やっぱりキューブリックは描けねえな、とか、自分の中では大盛り上がり。そんな中でも、ダルトン・トランボを演じたブライアン・クランストンが素晴らしかったのはもちろんのこと、エドワード・G・ロビンソンを演じたマイケル・スタールバーグとオットー・ブレミンジャーを演じたクリスチャン・ベルケルも素晴らしかった。ヘッダ・ホッパーはもっともっと嫌みでいけ好かない女だったんじゃないのかなあ。ヘレン・ミレンじゃ上品すぎる!
→ジェイ・ローチ→ブライアン・クランストン→アメリカ/2015→TOHOシネマズシャンテ→★★★★