監督:山下敦弘
出演:オダギリジョー、蒼井優、松田翔太、満島真之介、北村有起哉、優香、松澤匠、鈴木常吉、塚本晋也(声のみ)
制作:「オーバー・フェンス」製作委員会/2016
URL:http://overfence-movie.jp
場所:テアトル新宿
佐藤泰志の小説をまったく読んだことがないのだけれども、『海炭市叙景』と『そこのみにて光輝く』が映画化されて、映画評論家には好評を得るくらいの話題となって、でも公開の時にはその話題が耳に入ってこなかったから映画館に足を運ぶこともなく、なんとかWOWOWや日本映画専門チャンネルで追いかけることができた程度の興味で映画を見てみると、内容があまりにも辛気臭くて、まるで昔のATG映画を見ているようで、暗く、重く、見終わったあとの喪失感がはなはだしくて、いやなものを見たなあ、くらいの感想しか持てなかった。
この二つの映画のイメージから考えると、同じ佐藤泰志の小説なんだから、やっぱりその内容は日本の地方都市の持つ閉塞感あふれた行き場のないどん詰まりな状況の中でのあがく暗い人間模様しかあり得ないと想像できるけど、それを山下敦弘が監督したら、もしかすると、もう少しは人間の優しさにも焦点が結んで、あたりの柔らかい映画になっているのではないかとおもって期待を込めて観てみた。
オダギリジョーが演じている主人公の白岩義男を、すぐに暴力に訴えるような人間にすることなく、感情の抑揚をあまり付けずにフラットに描くことによって、どんなものをも拒否しているように見えるが故に相手を傷つけてしまう反面、見方によってはどんなものをも受け入れられる度量の深さみたいなものをも感じられて、忙しない都会では前者に、のんびりとした田舎では後者に見えるように設計しているところが山下敦弘らしいやさしさが見られたのが『海炭市叙景』や『そこのみにて光輝く』とはちょっと違う点だった。
ただ、そんなやさしさが含まれていたとしても、『海炭市叙景』『そこのみにて光輝く』に続けてこの『オーバー・フェンス』を観たとしたら、やはり重く落ち込んでげんなりしたかもしれない。ところが、あまりにもシンプルで、浅くて、感覚だけで押し通してしまう『君の名は。』を観たばかりだったので、なんだろう? かえって救われた気持ちになってしまった。絵空事は絵空事としてそれで楽しんでいれば良いんだけど、リアルな現実へ帰ることも時には大事だってことだとおもう。
キャラクターとしては、職業訓練校でオダギリジョーと一緒に学んでいる、老年に差し掛かろうとする鈴木常吉の役が良かった。学生の頃、建築現場へアルバイトに行った時に見たような、すぐに奇策に声をかけてくる古株でありながら管理職に付いていないようなオヤジな感じだった。
(追記)
映画の中で見せる蒼井優の鳥を真似る仕草は映画のオリジナルなんだそうだ。この鳥の仕草をすることによって蒼井優の「ちょっとイッちゃってる」度合いがアップしてしまっている。このシーンを入れた意味は何なんだろう? オダギリジョーが蒼井優に惹きつけられる要素にはなってなくて、かえって引いてしまう方向に向いているとはおもうんだけど、映画ではそうにはなっていなかった。そこがちょっと違和感があった。
→山下敦弘→オダギリジョー→「オーバー・フェンス」製作委員会/2016→テアトル新宿→★★★☆