この世界の片隅に

監督:片渕須直
声:のん、細谷佳正、稲葉菜月、尾身美詞、小野大輔、潘めぐみ、牛山茂、新谷真弓、岩井七世、小山剛志、津田真澄、京田尚子、佐々木望、塩田朋子、瀬田ひろ美、たちばなことね、世弥きくよ、八木菜緒、澁谷天外
制作:「この世界の片隅に」製作委員会/2016
URL:http://konosekai.jp
場所:109シネマズ菖蒲

今年は『シン・ゴジラ』に続いて『君の名は。』と、SNSで誰しもが絶賛を拡散している映画をあとから追いかけることが続いた年となった。いつものパターンとして、絶賛されている映画をあとから追いかける場合には、さあ観させてもらおうじゃないか、と身構えてしまうので、合格ラインが極端に高くなって、こんなもんか、になってしまうことが多くなってしまう。ところが『シン・ゴジラ』も『君の名は。』のどちらも、みんながSNSで絶賛を拡散するのも納得できるとても楽しめる映画だった。そして今年はこの二つの映画に続いてさらに『この世界の片隅に』が続く事態となってしまって、今度こそはその過度な絶賛に押しつぶされてしまうんじゃないかと危惧したところ、そんな心配はなんのその、期待感が加わった高い合格ラインを軽く越えてしまうような驚くべき内容の映画だった。

『この世界の片隅に』の素晴らしさは、こうの史代の原作コミックの雰囲気をディティール豊かにアニメーションに移し替えている部分に負うところが大きかった。

原作コミック読んだ時にまずは感じる登場人物たちの、一見すると窮屈に感じる体のラインや傾いている角度(首の傾げ具合!)や所作の描き方等々が、いったいどのように動き出すんだろうかと興味津々だったけど、映画の冒頭から静止しているコミックの絵がそのままスーッと、なんの違和感もなく自然に動き出しはじめたように見えて、ああ、これは素晴らしい映画になると最初から確信してしまった。例えば、「浦野すす」が失敗などをしたときに、あちゃー、と云う感じで、目が3本線になるコミック的な表現もそのまま動画へとうまく変換されているのはとても嬉しくなってしまった。

この世界の片隅に

コミックの静止画に巧く命を吹き込んでいるだけではなくて、マンガのコマに書き込まれている細部の情報をもきれいにすくい取って、アニメーションとしての一連の動きの中にスムーズに収めているところにも共感してしまった。服を作る、ごはんを作る、楠公飯、呉の軍港、カナトコ雲などなど、動いているからこそ、なおいっそう引き立つような作りになっているところは片渕須直監督の手腕としか言いようがなかった。特に、見晴らしの良い高台から見る呉の軍港の勇壮感はアニメーションだからこそだった。そしてそこで、小さい「はるみ」が、兄から教わったとおもわれる軍艦の名前を言い当てるシーンは、子供のころに軍艦のプラモデル(ウォーターラインシリーズ!)を作った身としてこの「はるみ」に感情移入せざるを得なかった。感情移入した結果の、その待ちかまえる運命には涙せざるを得なかった。

この世界の片隅に

そしてやはり触れなければならないのは「浦野すす」の声を担当した、のん(能年玲奈)のことだ。予告編を観た時には、なんとなく絵に声が乗っかっているだけ、と云う印象はぬぐいきれなかったのだけれど、そのぎこちなさはこうの史代の絵にぴったりだった。この映画の「浦野すす」には、プロの声優の巧さはまったく必要なかった。

『この世界の片隅に』は、おそらく今年のベストワンになるとおもう。

→片渕須直→(声)のん→「この世界の片隅に」製作委員会/2016→109シネマズ菖蒲→★★★★☆