監督:ケント・ジョーンズ
出演:マーティン・スコセッシ、デビッド・フィンチャー、アルノー・デプレシャン、ウェス・アンダーソン、黒沢清、ジェームズ・グレイ、オリビエ・アサイヤス、リチャード・リンクレイター、ピーター・ボグダノビッチ、ポール・シュレイダー、アルフレッド・ヒッチコック、フランソワ・トリュフォー
原題:Hitchcock/Truffaut
制作:フランス、アメリカ/2015
URL:http://hitchcocktruffaut-movie.com
場所:新宿シネマカリテ

1981年に晶文社から「定本 映画術 ヒッチコック・トリュフォー」が発行された時、学生の身としては2900円と云う値段は途方もなく高く感じられたけど、和田誠の「お楽しみはこれからだ」の影響でヒッチコックの映画が大好きになっていたので、どうしても欲しくて昼飯を抜いてまでしても買ってしまった。

映画をたくさん観はじめた当初、監督が映画を作っていることは、なんとなく、わかりはじめていた。でも実際に何をしているのかは具体的によくわかっていなかった。「演出」とは何なのかまったく理解していなかった。そこへの疑問を解決してくれたのが「定本 映画術 ヒッチコック・トリュフォー」だった。特に映画を観ている人たちのエモーション(感情)をコントロールするためにはどのようなショットの積み重ねが必要なのかを懇切丁寧に説明しているところに云いようもない興奮を覚えてしまった。例えば、「定本 映画術 ヒッチコック・トリュフォー」のP100には次のように書いてある。

映画づくりというのは、まず第一にエモーションをつくりだすこと、そして第二にそのエモーションを最後まで失わずに持続するということにつきる。映画づくりのきちんとした設計ができていれば、画面の緊迫感やドラマチックな効果をだすために、かならずしも演技のうまい俳優の力にたよる必要はない。わたしが思うに、映画俳優にとって必要欠くべからず条件は、ただもう、演技なんかしないことだ。演技なんかしないこと、何もうまくやったりしないこと。

このことに衝撃を受けて今でも付箋がはってある。この「演技なんかしないこと」には異論もあるのかもしれないけど、たしかに小津安二郎やロベール・ブレッソン、最近ならば濱口竜介の映画を見るとそれを強く感じる。

この「定本 映画術 ヒッチコック・トリュフォー」をトリュフォーが本としてまとめる時に行ったヒッチコックへインタビューの音源がしっかりと残っている。その音源の一部を利用して、さらに様々な監督にヒッチコックについて語ってもらったインタビューを元に構成したドキュメンタリー映画がケント・ジョーンズ監督の『ヒッチコック/トリュフォー』だった。

でもこの映画、マーティン・スコセッシをはじめとした錚々たる映画監督たちのヒッチコック礼賛が綿々とつづられているだけで、いまひとつ面白味に欠けていた。できることならば、「定本 映画術 ヒッチコック・トリュフォー」の中で再三ヒッチコックが語っている「エモーションの持続」のことを自分としてはどのように捉えていて、どのように実践しているのかぐらいは語っている監督が欲しかったような気がする。

それになぜブライアン・デ・パルマがこの中にいないんだろう? 故コリン・ヒギンズ(ヒッチコック映画のエッセンスがちりばめられた映画『ファール・プレイ』の監督)にもヒッチコックについて聞きたかったなあ。

→ケント・ジョーンズ→アルフレッド・ヒッチコック→フランス、アメリカ/2015→新宿シネマカリテ→★★★