監督:ケン・ローチ
出演:デイヴ・ジョーンズ、ヘイリー・スクワイアーズ、ディラン・マキアナン、ブリアナ・シャン、ケイト・ラッター、シャロン・パーシー、ケマ・シカズウェ
原題:I, Daniel Blake
制作:イギリス、フランス、ベルギー/2016
URL:http://danielblake.jp
場所:新宿武蔵野館

ケン・ローチの映画は、「ヨーロッパ・コーリング――地べたからのポリティカル・レポート」を書いたブレイディみかこが云うところの「地べた」の人びとばかりを描いていて、その方向性は一貫して変わらない。そのケン・ローチが二度目のカンヌ国際映画祭パルムドールを獲得することになった『わたしは、ダニエル・ブレイク』も、まさにイングランドの「地べた」にいるダニエル・ブレイクが主人公だった。

イングランドのニューカッスルで大工として働く59歳のダニエル・ブレイクは、心臓病を患ったために医者から仕事をストップされてしまう。生活の援助を受けようと役所に申請したところ審査に不合格となってしまって、再審査を要求しようにもコンピュータでしか申請を受け付けないだの、働く意思を見せろだの、履歴書の書き方講座を受けろだの、どう考えてみても理不尽なことばかりを要求されてしまう。

こんなお役所の融通の利かなさはおそらく万国共通で、これが日本だったら怒った奴が役所に乗り込んで行って火でも付けかねないところだ。ところがダニエル・ブレイクは、ニューカッスルの人の気質とでも云うのか、心のうちに批判精神を保ちながらも、役所からの無理難題も投げやりにならずにタフにこなして行く。この真摯な姿を見て、イングランドのプレミアリーグ好きの私としては、ニューカッスル・ユナイテッドのホーム、セント・ジェームズ・パークに詰めかけるサポーターの人たちを連想してしまった。熱く、タフに、忠実に応援しながらも、チームへの批判精神をも忘れない彼ら。ダニエル・ブレイクと重なってしまう。

この映画の中に貧しい人たちに食料を提供する「フードバンク」が登場するが、日本でも初めて「フードバンク」が設立されたらしい。ダニエル・ブレイクが手助けをするシングルマザーのケイティは、空腹のあまり「フードバンク」の中で立ったまま缶詰めを貪り食ってしまって、自分の情けなさに号泣してしまう。人としての「尊厳」が失われた、とても切なくて、苦しくて、哀しいシーンだった。何となく、いろいろな面で、イングランドを追いかけているように見える日本でも、このような貧しいシングルマザーが増えているような気がする。一部の金もうけの上手い人たちだけが優遇される社会を変えるにはどうすればいいんだろう。ケン・ローチの映画を観るといつもそれをおもう。

→ケン・ローチ→デイヴ・ジョーンズ→イギリス、フランス、ベルギー/2016→新宿武蔵野館→★★★★