監督:ルクサンドラ・ゼニデ
出演:ドロシア・ペトル、エリナ・レーヴェンソン、ボグダン・ドゥミトラケ
原題:Miracolul din Tekir
制作:ルーマニア、スイス/2015
URL:http://eufilmdays.jp/ja/films/2017/miracle-of-tekir/
場所:東京国立近代美術館フィルムセンター
毎年、欧州連合(EU)加盟国の作品を紹介する映画祭が開かれている。その「EUフィルムデーズ2017」にはじめて行ってみた。と云っても、ラインナップの中から特定のタイトルを選んで観に行ったわけではなくて、ちょうど都合が良かった時間にたまたまやっていた映画を観に行ったので、はたしてどんな内容のものなのかもさっぱり検討もつかなかった。でも、そんな映画の見方も楽しい。
たまたま当たった映画はルーマニアの『テキールの奇跡』と云う映画だった。
ルーマニアの地図を見た時に一番最初に目に付くのは、やはり、「ドナウ川」と「黒海」だとおもう。「ドナウ川」がルーマニアを横断して「黒海」へ流れ込み、その河口を「ドナウデルタ」と呼ぶらしい。『テキールの奇跡』は「ドナウデルタ」から生まれる「黒い泥」を使って病を治す女の治療師マラ(ドロシア・ペトル)のストーリーだった。
この独身の治療師マラが、奇跡の「黒い泥」によって男と交わることなく妊娠したと言い張ることからストーリーが展開して行って、そこにマラに対して思いを寄せる神父や、避暑地の豪華なスパホテル「テキール」に宿を取る不妊に悩む金持ち未亡人などが絡んで、不思議な宗教的で民俗的な寓話が成立して行く。
何となく持っていた「黒海」のイメージも、映画に出てくる「黒海」とぴったりと一致して、どことなく地の果てをおもわせる景色がこの映画の舞台としてふさわしかった。黒海の海岸際に突如として現れる豪華なスパホテルも、その豪華さゆえに、キューブリックの『シャイニング』さながら、云いようもない不安感をあおっているのも治療師マラのおとぎ話にぴったりだった。
この映画の中でホテルとして使われた建物は、実は1910年に開業したカジノで、戦後の共産主義政権下でレストランとして運営されていて、1990年に閉鎖されたそうだ。
不妊に悩む金持ち未亡人の女優をどこかで見たことがあるなあとおもっていたけど、そうか、ハル・ハートリーの映画に出ていたエリナ・レーヴェンソンだったのか! 彼女はルーマニア出身だったのだ。
→ルクサンドラ・ゼニデ→ドロシア・ペトル→ルーマニア、スイス/2015→東京国立近代美術館フィルムセンター→★★★