監督:ジム・ジャームッシュ
出演:アダム・ドライバー、ゴルシフテ・ファラハニ、ネリー、バリー・シャバカ・ヘンリー、リズワン・マンジ、ウィリアム・ジャクソン・ハーパー、チャステン・ハーモン、クリフ・スミス、スターリング・ジェリンズ、永瀬正敏
原題:Paterson
制作:アメリカ、ドイツ、フランス/2016
URL:http://paterson-movie.com
場所:新宿武蔵野館

ここのところのジム・ジャームッシュの映画は、まあ、悪くはないんだけど、グッとくるものが少なくて、次回作を期待する気持ちも昔に比べるとだいぶ無くなってしまっていた。でも今回の『パターソン』は前評判もよく、予告編を見る限りでもちょっと期待感が高まっていた。

ジム・ジャームッシュの『パターソン』は、ニュージャージー州のパターソンに住む、町と同じ「パターソン」と云う名前の主人公が、月曜日から始まるパターン化された日常を繰り返しながらも、ノートに詩を書く行為によって平凡な日々にまた別の角度からの視点を与えることが可能となって、ありきたりな生活がとても彩り豊かなものになっている、と云うようなストーリーだった。

この映画でまず驚いたのは、ニューヨークからもほど遠くないニュージャージー州のパターソンがとても自然豊かで綺麗な街だったことだった。その景色が、詩作を励む「パターソン」の姿とぴったりとマッチしていた。

日本の都会の衛星都市と云えばどこか寂れた感じが出てしまうものだけれども、ニュージャージー州のパターソンはそのような停滞感も閉塞感もなくて、ささやかな生活を営むには絶好の街に見えるように撮影しているのがジム・ジャームッシュの巧さでもあった。

そしてそのパターソンの街並みを背景に「パターソン」の書く詩も素晴らしかった。例えば、こんな感じ。

Love Poem

We have plenty of matches in our house
We keep them on hand always
Currently our favourite brand
Is Ohio Blue Tip
Though we used to prefer Diamond Brand
That was before we discovered
Ohio Blue Tip matches
They are excellently packaged
Sturdy little boxes
With dark and light blue and white labels
With words lettered
In the shape of a megaphone
As if to say even louder to the world
Here is the most beautiful match in the world
It’s one-and-a-half-inch soft pine stem
Capped by a grainy dark purple head
So sober and furious and stubbornly ready
To burst into flame
Lighting, perhaps the cigarette of the woman you love
For the first time
And it was never really the same after that

All this will we give you
That is what you gave me
I become the cigarette and you the match
Or I the match and you the cigarette
Blazing with kisses that smoulder towards heaven

https://poetryschool.com/poems/poems-film-paterson/ より。
(この詩は現代詩人のロン・パジェット作)

映画の中で、ニュージャージー州パターソン出身の現代詩人ウィリアム・カルロス・ウィリアムズの名前が出てくる。「パターソン」と云う名前の詩集も出しているらしい。ジャームッシュによると「ウィリアムズはパターソンという街全体を人のメタファーとして書いていた。それで僕は、パターソンという男がパターソンに住んでいる、ということを思いついた。」と云っている(http://eiga.com/news/20170823/17/)。つまり、その詩集「パターソン」にならって、ジャームッシュは映画『パターソン』を一つの詩のように構築していたわけだった。繰り返される日常は詩の「韻」のようでもあるし、ところどころに登場する様々な年代の双子は詩の「中間韻」のようでもあるし。

現代詩人ウィリアム・カルロス・ウィリアムズがニュージャージー州パターソン出身と云う話しの流れから、さらに他のパターソン出身の有名人の名前も映画の中に登場する。ルービン・ハリケーン・カーター(デンゼル・ワシントンの映画『ハリケーン』で有名)とか、ルー・コステロ(アボットとコステロ)とか、アレン・ギンズバーグ とか、「サム&デイヴ」のデイビッド・プレイタとか、みんなパターソン出身だった!

そして、忘れてはならないのは「パターソン」を演じたアダム・ドライバー。ノア・バームバックの『ヤング・アダルト・ニューヨーク』に続いて凄くよかった。妻の作った創作料理を水で胃に流し込むシーンとか、おんぼろバスの故障で右往左往する乗客を対処するシーンとか、愛犬をさりげなく許しているシーンとか、彼の間延びした顔(なんて云ってしまうと彼に悪いんだけど)が生きている!

→ジム・ジャームッシュ→アダム・ドライバー→アメリカ/2017→新宿武蔵野館→★★★★