監督:クレイグ・ガレスピー
出演:マーゴット・ロビー、セバスチャン・スタン、アリソン・ジャニー、マッケナ・グレイス、ポール・ウォルター・ハウザー、ジュリアンヌ・ニコルソン、ケイトリン・カーヴァー、ボヤナ・ノヴァコヴィッチ、ボビー・カナヴェイル
原題:I, Tonya
制作:アメリカ/2017
URL:http://tonya-movie.jp
場所:TOHOシネマズシャンテ
1994年1月6日、リレハンメルオリンピックの選考会となるフィギュアスケート全米選手権の会場で、トーニャ・ハーディングがライバルであるナンシー・ケリガンの膝を殴打して試合に出られないようにした事件は日本でも大きく報道されて、まるでスポ根マンガを地で行ったような幼稚で、扇情的で、馬鹿げた騒動はワイドショーの格好のネタだった。
当時の「ひょうきん族」だったかなあ、事件全体を簡略化してコントにしていたので、『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』を観るまではてっきりトーニャ・ハーディングがオリンピック代表になりたいがためにナンシー・ケリガンへの暴行事件に直接及んだものだと間違って認識してしまっていた。正確にはトーニャ・ハーディングの元夫ジェフ・ギルーリーが友人のショーン・エッカートに暴行を依頼した事件で、この映画のストーリーではさらにその部分もグレーに描かれていて、どちらかと云えば誇大妄想狂の元夫の友人が勝手に忖度して犯行に及んだ事件に見えるようにも作られていた。
『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』の中でのトーニャ・ハーディングは、不運にも事件に巻き込まれてしまいました、のポジションにいるのに、そこに感情を移入して彼女へ同情を寄せる映画にはなっていなかった。クレイグ・ガレスピー監督は、強烈な性格の母親にパワーハラスメントを受けながらフィギュアスケートばかりをやらされて、おそらくは充分な教育も受けられずに、人との良好な関係を構築するすべも学べずに、はすっぱな女に育ってしまった彼女に対して哀れみを感じさせる部分を見せながら、と同時に、尊大な母親に育てられたからこそ、まるでそのコピー品のようになってしまった彼女を面白おかしくも描いている。さらに同時に、アメリカ人女性としてはじめてトリプルアクセルを飛んだフィギュアスケートの才能を称賛する部分も忘れずに抑えていて(フィギュアスケートのVFXシーンが素晴らしい!)、この多層構造でもってナンシー・ケリガン暴行事件がワイドショーレベルで理解できるような単純なシロモノではないことを証明していた。
この映画は、トーニャ・ハーディングがどれだけこの事件に関与したのか、その真相を追い求めたものではないところがとても良かった。そもそも多くの人間の関わった事件なんて、誰もが納得できるような真相があるとしたら、それは絶対にあとからこじつけられたものだとおもう。だからこそ、もし有名な事件を映画化するとしたら、このような多層構造の描き方しか正解は無いのかもしれない。どんなものだって真相なんて結局は藪の中だ。
→クレイグ・ガレスピー→マーゴット・ロビー→アメリカ/2017→TOHOシネマズシャンテ→★★★★