監督:ピーター・ファレリー
出演:ヴィゴ・モーテンセン、マハーシャラ・アリ、リンダ・カーデリーニ、ディメター・マリノフ、マイク・ハットン、イクバル・セバ、セバスティアン・マニスカルコ、ファン・ルイス、P・J・バーン
原題:Green Book
制作:アメリカ/2018
URL:https://gaga.ne.jp/greenbook/
場所:109シネマズ木場
ピーター・ファレリー監督の『グリーンブック』を観終わってすぐに、岩波現代文庫から出ている藤本和子著「塩を食う女たち――聞書・北米の黒人女性」を読み始めた。その本の最初の「生き残ることの意味 はじめに」に以下のように書いてあった。
わたしは黒人が「生きのびる」という言葉を使うときには、肉体の維持のことだけをいっているのではないと感じていた。「生きのびる」とは、人間らしさを、人間としての尊厳を手放さずに生き続けることを意味している。敗北の最終地点は人間らしさを捨てさるところにあると。
『グリーンブック』の中でマハーシャラ・アリが演じているピアニストのドン・シャーリーはまさに「人間としての尊厳」を手放さずに生きている黒人だった。実際のドン・シャーリーの育った環境は、奴隷としてアメリカに連れてこられた黒人の子孫とは違うのかもしれないけれど、黒人のDNAにある「人類の進化形」としての肉体的、そして精神的なたくましさからくるのであろう「人間としての尊厳」をどんなときにも維持し続けて生きている人物だった。
ドン・シャーリー役のマハーシャラ・アリの演技は、彼が画面に現れるだけでピンと背筋の立つオーラを発散させていて、品性の欠けるイタリアンを演じているヴィゴ・モーテンセンとのアンバランスさが緊張感を高めていると同時に、両極端の人間のあいだに起こりつつある化学変化に興味が引きつけられてしまう巧い映画だった。その巧さがちょっと鼻につくような気もするけど、まあ、それは贅沢な話だ。
→ピーター・ファレリー→ヴィゴ・モーテンセン→アメリカ/2018→109シネマズ木場→★★★★