魂のゆくえ

監督:ポール・シュレイダー
出演:イーサン・ホーク、アマンダ・サイフリッド、セドリック・カイルズ、ヴィクトリア・ヒル、フィリップ・エッティンガー 、マイケル・ガストン、ビル・ホーグ
原題:First Reformed
制作:アメリカ/2017
URL:http://www.transformer.co.jp/m/tamashii_film/
場所:Movixさいたま

ポール・シュレイダー監督の『魂のゆくえ』を観て、やはりポール・シュレイダーが脚本を書いた『タクシードライバー』をすぐに連想した。と同時にベルイマンの『冬の光』も頭に浮かんだ。でも、それだけではイーサン・ホークが演じているトラー牧師の行動の整合性を導き出すことはちょっと無理だった。

ストーリーを追うだけではなかなか内容を理解できない映画の場合、まずは表面的に見えるものを列挙してみる。

・トラー牧師にはなんらかの重篤な病気の兆候が見えるが、積極的に病院へ行って検査をしようとする気持ちがない。
・従軍牧師であったトラー牧師は、入隊を勧めた息子が戦地で死んだことから妻とも離婚し、再びニューヨークの小さな教会で牧師になっている。
・日記を12ヶ月間だけ書き留めて、最終的にはそれを破棄すると云う実験を行う。

●トラー牧師は自分の罪をつぐなうべく観光客向けの小さな教会での職をまっとうしようと務めているが、まだ自分が贖罪されていると感じ取ることができないでいる。

・教会で知り合ったアマンダ・サイフリッドが演じるメアリーから、極端な環境保護論者である夫に会ってくれとの依頼を受ける。その夫は人間による地球の環境破壊に絶望して鬱になっている。

●トラー牧師はメアリーの夫からの悲痛な訴えをキリスト教の教えによって解決しようと試みるが失敗する。夫はショットガンで自殺してしまう。現実の問題をなんでも可視化できてしまういまの情報化社会での既存宗教の無力を痛感する。

・トラー牧師の教会は地元の大きな教会の援助を受けていて、その大きな教会は企業からの献金で成り立っている。
・その企業は地元の環境を破壊している。
・地元の若い人との交流会に出席し、その一人から「右の頬を打たれたら左の頬をも向けなさい」なんて云われるのはうんざりだ!と云われる。

●トラー牧師は、複雑な現代社会の構造の中で、宗教人としてまっとうな努めを果たそうとしている牧師としての自分の立ち位置に矛盾を感じてしまう。

・教会で事務を務めるヴィクトリア・ヒルが演じるエスターからの好意を激しい感情を露わにして拒否してしまう。
・既存の宗教の教えとはかけ離れたスピリチュアルな体験をメアリーとしてしまう。ここでトラー牧師はメアリーとスピリチュアル的に一体化する。

●トラー牧師は、おそらくこの時点に至って、プロテスタント教会の牧師としての職分を放棄して、自分の中に独自の神を見出す。
●だからメアリーの夫が隠し持っていた自爆チョッキを身に着けて、世の中の矛盾に対する怒りを自分なりの解釈で持って解決しようとする。

●ただ、その行為はあまりにも極端なものなので、そのギャップを埋めるためには映画のストーリーだけではなかなか理解できない。
●さらに、その計画がメアリーの出現によって頓挫すると、自分の体に有刺鉄線を巻き付ける行為をする。昔の修道士のような自分を戒める行為はいったい何を意味するんだろう? 自分の中の独自の神を悪魔であると判断して、それを追い出そうとしたのか?
●最後にトラー牧師はメアリーを抱擁してキスをする。カメラはまるでポール・シュレイダーが脚本を書いたデ・パルマの『愛のメモリー』のように360度回転する。

と、映画を観た感想をまてめてみても、最後のトラー牧師の過激な行為をなかなか理解することができない。でもそこは理詰めで理解するよりも、もしかしたら感覚的に理解するだけで良いのかもしれない。トラーが牧師を放棄して還俗したのなら、最後にメアリーと肉体的に一体化したことで何かしらの昇華が達成したと考えるだけで良いのかもしれない。

いろいろと解釈の難しい映画だったけれど、正面から捉えるショットが多いことなどからも、まっすぐに人間を描こうとする姿勢が見えて、ベルイマンなどの映画と同様にこんな部類の映画は案外好き。

→ポール・シュレイダー→イーサン・ホーク→アメリカ/2017→Movixさいたま→★★★★