監督:アスガル・ファルハーディー
出演:アミール・ジャディディ、サハル・ゴルデュースト、モーセン・タナバンデ、フェレシュテー・サドル・オーファン、サリナ・ファルハーディー、マルヤム・シャーダイ、アリレザ・ジャハンディデ
原題:قهرمان
制作:イラン、フランス/2021
URL:https://synca.jp/ahero/
場所:キネマ旬報シアター

アスガル・ファルハーディーの映画が面白いのは、イラン映画であると云う先入観から、日本人の我々とは違う価値観のイスラム社会の出来事を描いているのかとおもって見始めても、なんのことはない、その内容は日本でも簡単に起きうるちょっとした人間同士の諍いを描いるところだった。まずはそのギャップから映画の内容に引き込まれてしまう。それも、簡単な善悪の図式だけを描いているのだけではなくて、主人公側にも非があるのではないかと徐々に明らかになって行く過程がとても面白い、と云うか、怖い。

今回の『英雄の証明』でも、主人公の元看板職人ラヒム(アミール・ジャディディ)が別れた妻の兄とのあいだで借金トラブルを起こしてしまうことがストーリーの発端。そこにラヒムの婚約者ファルコンデ(サハル・ゴルデュースト)が金貨が入ったバッグを拾ったことで、それで借金問題を解決すべきか、それとも正直に落とし主に返すべきかの選択に迫られるのが次への展開。彼は正直にも落とし主に金貨を返すことを選択するが、そのことが想像もつかない事態へと転がって行く。

主人公のラヒムが悪い人間でないことはあきらかだった。ただ、見るからに地に足がついていない雰囲気を発散していた。だから、正しい選択をしたとしても、その浮ついた部分にズレが生じてしまって、それが積み重なるとおかしな方向に事態が転んでしまう。そんな人間だった。これって日本の、我々の周りにもいるようなあ、とおもい当たってしまう。自分にはどうして悪いことばかり起こるのだろう? と嘆いている人。それって、相手の非ばかりを責めて、自分の行動を冷静に分析できない人に多い。まあ、頭に血が上ったときの自分の行動でもあるのだけれど。

ラヒムに自分を重ね合わせることができるかどうか? それがこの映画の最大のポイントのような気がする。

→アスガル・ファルハーディー→アミール・ジャディディ→イラン、フランス/2021→キネマ旬報シアター→★★★★