監督:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:アラナ・ハイム、クーパー・ホフマン、エスティ・ハイム、ダニエル・ハイム、モルデハイ・ハイム、ドナ・ハイム、メアリー・エリザベス・エリス、マーヤ・ルドルフ、ベニー・サフディ、ショーン・ペン、トム・ウェイツ、ブラッドリー・クーパー
原題:Licorice Pizza
制作:アメリカ/2021
URL:https://www.licorice-pizza.jp/
場所:ユナイテッド・シネマ ウニクス南古谷
つい先日、WOWOWから録画したポール・トーマス・アンダーソンの『ファントム・スレッド 』を再見して、この不思議な、偏執的な男と女の愛のかたちを繊細に映像化できる彼のテクニックはすごいなあ、と再び感心していたばかりだった。その流れで『リコリス・ピザ』を観たら、これまた同じようなヘンテコな男と女の愛のかたちをテンポよく、丁寧に映像化していて、ああ、やっぱりポール・トーマス・アンダーソンは大好きな映像作家だなあ、と再確認してしまった。
でも『リコリス・ピザ』は、『ファントム・スレッド』や『ザ・マスター』のような尖ったタイプの映画ではなくて、彼の作品の中でも『ブギーナイ』や『パンチドランク・ラブ』のようなゆるいタイプの作品だった。どちらのタイプの作品も大好きなんだけれど、ゆる系の作品のほうが遊び感覚が満載で、とくに今回の『リコリス・ピザ』では彼の70年代への懐古が顕著に現れていて、当時の映画をちょこちょことオマージュしているところがめちゃくちゃ楽しかった。
そもそも主人公の少年ゲイリー(クーパー・ホフマン)のキャラクターがハリウッドのプロデューサー、ゲイリー・ゴーツマンがベースになっている、とか、三姉妹のポップロックバンド「HAIM」のアラナ・ハイムを見たらすぐさまバーブラ・ストライサンドをイメージできて、彼女主演の『スター誕生』のプロデューサー、ジョン・ピーターズをこの映画ではブラッドリー・クーパーが演じているとか、ショーン・ペン演じるベテラン俳優ジャック・ホールデンはウィリアム・ホールデンがモデルだとか、トム・ウェイツ演じる映画監督のベースはサム・ペキンパーだとか、そのようなメインどころの詳しい説明は以下のサイトを見れば良いので、
『リコリス・ピザ』徹底解説! 実在の人物・元ネタ・時代背景 あなたを1973年の夏に導く青春映画
そのほかの細かいところで、自分の映画遍歴とも結びつく70年代映画について考えてみた。
まずは1971年のハル・アシュビー『ハロルドとモード 少年は虹を渡る』。19歳のハロルド(バッド・コート)が79歳のモード(ルース・ゴードン)に恋愛感情を持つ部分が、その年齢差には足元にも及ばないものの、15歳のゲイリー(クーパー・ホフマン)が25歳(おもわず実際の年齢である28歳と云ってしまうシーンがある!)のアラナ(アラナ・ハイム)に恋愛感情を持つ部分が似ていて、モードがユダヤ人であることや、やたらと運転が上手いところもアラナとの共通点だった。
それから1979年のジョン・ハンコック『カリフォルニア・ドリーミング』。ゲイリーがアラナに対して「おっぱい見せて」って云うあたりは、やはりこの映画のグリニス・オコナーと結びついてしまう。おそらくはエイミー・ヘッカーリング『初体験/リッジモント・ハイ』(1982)が直接的に影響する映画(ショーン・ペンも出ている!)なんだろうけれど、自分としてはやっぱり『カリフォルニア・ドリーミング』。
そしてラストの、ゲイリーとアラナが走り寄って行って、やっぱりお前がいなきゃダメなんだ! って感じで抱きつくところ。このシーンには70年代の何かの映画が閃くけれど、その映画が何なのかさっぱりおもい出せない。うーん、ハーバート・ロス『グッバイガール』(1977)あたりかなあ。いや、もうちょっと若い男女の恋愛映画だったような気もする。続行考え中。
と云うように、もちろんベースは『アメリカン・グラフィティ』(1973)だし、『タクシードライバー』(1976)のようなシーンも出てくるし、アラナ・ハイムの風貌からバーブラ・ストライサンドの映画も見えて来るし、そのような70年代映画大好きの人間としてはとても楽しい映画だった。でも反対に、そんなベースの無い人にとって、この映画は面白かったんだろうかと考えて見るとそれはちょっと疑問だった。前後のシーンのつなぎなどをすっ飛ばしているこの映画は、ほとんどの人にとっては、なにがなにやら、だったかもしれない。どうなんだろう?
→ポール・トーマス・アンダーソン→アラナ・ハイム→アメリカ/2021→ユナイテッド・シネマ ウニクス南古谷→★★★★