監督:三宅唱
出演:岸井ゆきの、三浦誠己、松浦慎一郎、佐藤緋美、中原ナナ、足立智充、清水優、丈太郎、安光隆太郎、渡辺真起子、中村優子、中島ひろ子、仙道敦子、三浦友和
制作:「ケイコ 目を澄ませて」製作委員会/2022
URL:https://happinet-phantom.com/keiko-movie/
場所:ヒューマントラストシネマ有楽町

今年最初の映画はTwitter界隈で話題になっていた三宅唱監督の『ケイコ 目を澄ませて』。

障害のある人を主人公とする映画を作る場合に、その障害に真正面から向き合うことを目的とする映画があってももちろんOKだとおもう。でも、ハンデのある部分をストーリーの中に溶け込ませてしまう映画のほうが個人的には好きだったりする。『ケイコ 目を澄ませて』は後者だった。

耳の聞こえないケイコ(岸井ゆきの)は、なぜか日々ボクシングに打ち込んでいる。プロライセンスを取るほどの力の入れようだ。彼女のトレーナーは記者からの「耳の聞こえない人がボクシングをやるのは危険じゃないですか?」の問いに「もちろん危険だ」とも答えているのに。なぜそんなにボクシングを続けるのか? の疑問の答えを得るためにこの映画を観続けていた。

その手がかりとなるーンがひとつあった。それはケイコがおもわずサラリーマンとぶつかってしまって怒鳴りつけられるシーンだった。耳の聞こえない人は、目の見えない人や手足のない人に比べて健常者に見られやすい。だからこのシーンように何かに付けて相手に嫌悪感を抱かせる場面があるんじゃないかと想像してしまう。そんな場面に対して絶えず受け身でなければいけないのか。いや、そこはかえってアグレッシブさが無ければ生きて行くのが辛いんじゃないのかと、健常者の自分が勝手に推測してしまった。

彼女のボクシングスタイルは、耳の聞こえないことから当然アウトボクシングに徹するだろうとおもっていた。ところが意に反して、メキシコや韓国のボクサーのように打たれても打たれても絶えず前へ出るインファイトだった。ディフェンスをしっかりしろとトレーナーに注意されるが、それでも前へ出て相手に打ち勝とうとしている。まるでアグレッシブさが自分に課せられたスタイルであると云わんばかりに。

この映画のように屈折している人物を淡々と追いかけるシーンを観ていると昔のATG映画をおもいだしてしまった。経営がおもわしくないボクシングジムの経営者を演じている三浦友和もATGに出てくるような脇役だった。こんな感じの映画は少なくなってしまったなあ。作られてはいるのだろうけれど、昔とは環境が変わってしまったので目に触れる機会が少なくなってしまった。

→三宅唱→岸井ゆきの→「ケイコ 目を澄ませて」製作委員会/2022→ヒューマントラストシネマ有楽町→★★★☆