監督:マルガレーテ・フォン・トロッタ
出演:バルバラ・スコバ、アクセル・ミルベルク、ジャネット・マクティア、ユリア・イェンチ、ウルリッヒ・ノエテン、ミヒャエル・デーゲン
原題:Hannah Arendt
制作:ドイツ・ルクセンブルク・フランス/2012
URL:http://www.cetera.co.jp/h_arendt/
場所:吉祥寺バウスシアター
伝記映画の一つの手法として、その人の生涯の中でもとりわけて重要な事件に焦点を当てて、そこから人物像を浮かび上がらせる方法があるんだけど、この『ハンナ・アーレント』は、彼女が1961年にイスラエルで行われたナチス戦犯アドルフ・アイヒマンの裁判を傍聴し、ザ・ニューヨーカー誌に「彼は思考を停止した凡人にすぎない」とレポートを書いたことから世論から糾弾された事件にフォーカスを当てた映画だった。沈思黙考することもなしに感情をむき出しにしてハンナ・アーレントを攻撃する人々を、思考を停止して仕事をこなしたアドルフ・アイヒマンと重ね合わせて、いかに「思考すること」が大切なことなのかを明らかにして行く手法はとても巧かった。生涯をジェットコースターのように突っ走る伝記映画よりも、この映画のようにしっかりとしたテーマを中心に置いて描く伝記映画のほうが断然に面白い。
一般大衆がいっときの感情によって反射的に批判的な言動をする行為は、情報過多のいまの時代にこそ顕著になって来ていて、最近でもテレビ番組やコマーシャルや、コンビニの弁当にまで! 及んでいる。その点においてもまったくタイムリーな映画だった。
→マルガレーテ・フォン・トロッタ→バルバラ・スコバ→ドイツ・ルクセンブルク・フランス/2012→吉祥寺バウスシアター→★★★★