監督:川瀬美香
出演:イザベル・タウンゼンド、谷口稜曄、ピーター・タウンゼンド
原題:The Postman from Nagasaki
制作:The Postman from Nagasaki Film Partners/2021
URL:https://longride.jp/nagasaki-postman/
場所:武蔵大学50周年記念ホール

「被爆者の声をうけつぐ映画祭」も17回目になって、今回は川瀬美香監督の『長崎の郵便配達』を観に行った。

いつものごとく、なんの予備知識も入れずに、タイトルに「長崎」が付いているという手がかりだけで映画を観はじめた。だから、イギリス人女性イザベル・タウンゼンドのモノローグによって映画がはじまったことに不思議な感覚を覚えた。でもすぐに、彼女の父親ピーター・タウンゼンドが長崎で被ばくした男性・谷口稜曄(すみてる)さんを取材して書いたノンフィクション小説「THE POSTMAN OF NAGASAKI」について話しはじめたことで、この映画が「被爆者の声をうけつぐ映画祭」で上映されることに納得した。

谷口稜曄さんの名前は、彼が亡くなったときのニュースではじめて知った。原爆によって背中に大火傷を負い、その患部の写真を見せながら核兵器廃絶のための活動を続けた人物だった。

日本人でさえその程度の知識しかないわけなのに、イギリスの空軍大佐であったピーター・タウンゼンドがわざわざ長崎にまで出向いて、谷口稜曄さんの原爆体験を取材して本にしていることにびっくりした。そしてその本が日本では何の話題にもならずに、ましてや翻訳などもされずに(後からの注記:ナガサキの郵便配達制作プロジェクトと云うところから2018年に日本語版が出てた!)、ひそかに存在しているだけの書物であることにますます驚いた。ピーター・タウンゼンド空軍大佐はマーガレット王女と浮き名を流し、映画『ローマの休日』のモデルにもなったとも云われる(どうやらそれは眉唾ものらしい)人物で、彼が被爆者のことについて本を書いたのならそれなりの話題性もあっただろうに。

娘が父親の偉業を再認識して行く映像と共に、この映画を観る日本人も一緒にピーター・タウンゼンドと云うイギリス人が被爆者と交流を深めた事実を認識することが共有できてとても良かった。人知れず存在する偉業を明らかにしてくれることがドキュメンタリー映画の一つの醍醐味だとおもう。

→川瀬美香→イザベル・タウンゼンド→The Postman from Nagasaki Film Partners/2021→武蔵大学50周年記念ホール→★★★☆