監督:リチャード・リンクレイター
出演:ケイト・ブランシェット、ビリー・クラダップ、エマ・ネルソン、クリステン・ウィグ、ジュディ・グリア、ローレンス・フィッシュバーン
原題:Where’d You Go, Bernadette
制作:アメリカ/2019
URL:https://longride.jp/bernadette/
場所:MOVIXさいたま

2019年にリチャード・リンクレイターが撮った映画がやっと日本で公開された。邦題は『バーナデット ママは行方不明』。なにやらドタバタコメディを連想させるタイトルだけれど、コメディの要素はちょっとだけ、中心となるのは創造的な面で特異な才能を持つ人物が平凡な生活を余儀なくされたときに見せる苦悩の姿だった。

ケイト・ブランシェットが演じるバーナデット・フォックスはかつて、半径20マイル以内で調達した材料だけを使って建てた「20マイルの家」や使い捨ての遠近両用メガネを数多く使って建てた「メガネ邸(Beeber Bifocal House)」など、創造性のある個性的な建築家として注目を集めていたが、彼女が建てた「20マイルの家」に関してイギリスのテレビ番組ホスト、ナイジェル・ミルズ・マリーとの間に起こったトラブルを機に建築設計の仕事を辞めてしまう。そして、夫の仕事の都合でロサンゼルスからシアトルに移り住んで娘一人を育てる専業主婦になっている。

でも、クリエイティブな才能を持つ人物が平凡な人たちとの近所付き合いなどが出来るはずもなく、隣に住む主婦(“毒女”と呼んでいる!)と騒動を起こしてばかりいる。もちろんママ友の輪に加わることもなく、唯一のよりどころは娘のビー(エマ・ネルソン)だけだった。その娘が親元から離れて寄宿学校へ行くことになって、その前に家族三人で南極旅行へ行きたいと云い出す。広場恐怖症(アゴラフォビア)を持つバーナデットは、娘と旅行へ行きたい気持ちもあるのだけれど、揺れる狭い船に長時間乗せられる恐怖もあって、行くべきか、理由をつけて断るべきか葛藤する。

トッド・フィールド監督の『TAR/ター』(2022)で天才指揮者「TAR」を演じたケイト・ブランシェットは、その前にもまた違った角度からこの天才を演じていた。こちらの天才は精神症から来る不安を解消するために薬に依存してしまっているのだけれど、その不安定さが哀れには見えなくて、どちらかと云えばちょっと滑稽に見えるところがとても愛すべき人間になっていた。芸術家肌を持つ人間が、その創造性を発揮する場を失ってしまったらどうなるのか? ケイト・ブランシェットはそんな難しいキャラクターを巧く演じている。

ただ、ラストに向かっての南極行きは、バーナデットが自分を取り戻して行く過程を描く重要な部分なのに、あまりにも時間が足りなくてドタバタしてしまっているところは惜しかった。最近の映画は、長い! と文句ばかり云ってるけれど、いやここはもっと長くて良いでしょう。

エンドクレジットの背景に映る、バーナデットが設計したとおもわせる南極基地は、AECOMと云うところが設計、建築したイギリスのハレー VI 研究ステーションらしい。あまりにもカッコイイので、バーナデット作と見せるのはうってつけの建造物だ。

→リチャード・リンクレイター→ケイト・ブランシェット→アメリカ/2019→MOVIXさいたま→★★★☆