監督:リドリー・スコット
出演:ホアキン・フェニックス、ヴァネッサ・カービー、タハール・ラヒム、リュディヴィーヌ・サニエ、ベン・マイルズ、シニード・キューザック、ルパート・エヴェレット、ユセフ・カーコア、マーク・ボナー、イアン・マクニース
原題:Napoleon
制作:アメリカ、イギリス/2023
URL:https://www.napoleon-movie.jp
場所:109シネマズ菖蒲

ナポレオンを映画化した映画と云えば真っ先にアベル・ガンスの『ナポレオン』(1927)をおもい浮かべる。上映時間12時間にのぼるサイレント映画の大作で、3台のカメラで撮影された映像を3面のスクリーンに映すトリプル・エクラン(ポリビジョン)という方法で上映して当時は話題になったらしい。その後『ナポレオン』はアベル・ガンスによっていくつものバージョンが作られ、全部で20バージョン以上もあると云われている。その中のバージョンの一つが、1981年にフランシス・フォード・コッポラらの後援で世界各国で上映され、日本でも1982年にたしかNHKホールあたりで公開されたとおもう。それを観に行きたかったのだけれど、料金が高かったのか、抽選に外れたのか、何の理由だったのか忘れたけど行くことはかなわなかった。

ナポレオンほどの有名な人物を映画化した作品がこのアベル・ガンスの映画とロシアのサシャ・ギトリ版(1955)くらいしか無いのが不思議だった。でもそこに新たにリドリー・スコットの作品が加わった。

リドリー・スコットが撮る『ナポレオン』でナポレオンを演じるのがホアキン・フェニックスと聞いて、今までの自分の中にあったナポレオンのイメージにぴったりだ!とまずは直感で感じてしまった。どこか危険な雰囲気を漂わせるホアキン・フェニックスのようなイメージがナポレオンだけではなく、古今東西の傑出した専制支配者に対して持つ共通のイメージなのかもしれないのだけれど。

アベル・ガンス版『ナポレオン』の上映時間12時間に対して、リドリー・スコット版は158分。最近の映画は長い、長いと文句ばかり云ってしまうけれど、ナポレオンを描くには短かったのかもしれない。もしジョゼフィーヌ(ヴァネッサ・カービー)との関係だけに焦点を絞っているのであればこの尺でOKだったとおもう。だけど、もうひとつ、ナポレオンの気の弱さを掘り下げようとしていた形跡がある。ナポレオンが24歳のとき、新たな砲兵司令官となって作戦の指揮を取ったトゥーロン攻囲戦での、まるで嘔吐せんばかりの緊張を強いられた様子を強調して描いておきながら、なぜかその精神面での描き方がどんどんと尻窄みになってしまう。ナポレオンはいったい何で持って自己を支えて、そして何をも持って戦いのモチベーションを維持して突き進んで行ったのか、そのあたりの掘り下げが中途半端になってしまった。

と云っても、史劇大好き人間なので、ひとつも飽きることはなかった。できることなら、描かれなかった有名なトラファルガーの海戦も、ロシアでの冬将軍とコザック兵からの追撃とに苦しめられてパリへと逃げ帰る過程も丁寧に描いて欲しかった。そうだなあ、上映時間は4時間ぐらいあっても良い。

→リドリー・スコット→ホアキン・フェニックス→アメリカ、イギリス/2023→109シネマズ菖蒲→★★★☆