監督:ヴィム・ヴェンダース
出演:役所広司、柄本時生、中野有紗、アオイヤマダ、麻生祐未、石川さゆり、甲本雅裕、深沢敦、松居大悟、柴田元幸、犬山イヌコ、モロ師岡、あがた森魚、長井短、安藤玉恵、田中泯、三浦友和
原題:Perfect Days
制作:日本、ドイツ/2023
URL:https://www.perfectdays-movie.jp
場所:109シネマズ菖蒲
ヴィム・ヴェンダースが東京を舞台に役所広司を主役にして撮った映画。役所広司はこの映画で今年のカンヌ映画祭男優賞を受賞して話題になった。ところが、なかなか日本での配給が決まらずにヤキモキしたが、こうしてなんとかシネコンでも観られるようになって、109シネマズ菖蒲では年齢層高めの人たちが大勢詰めかけていた。
外国人監督が日本人を演出すると違和感いっぱいになるのがいつものことだけれど、さすがヴェンダース、小津安二郎の映画への造詣が深いこともあってか、まったく、何の違和感もなかった。
役所広司が演じるのは東京スカイツリーの近くにある古びたアパートで独り暮らしをしている無口なトイレ清掃員。早朝、近くの神社の掃き掃除の音で目覚め、歯を磨き、ヒゲを剃り、鉢植えに水をやり、つなぎの清掃服に着替えて、アパートの前の自動販売機で缶コーヒーを買ってから、ワゴン車で渋谷区の公衆トイレに向かう。ワゴン車の中で聴くのはオーティス・レディングやルー・リード、パティ・スミスなどの曲が入った古いカセットテープ。恵比寿東公園、鍋島松濤公園、はるのおがわコミュニティパーク、代々木深町小公園などにある公衆トイレの清掃を済ませたあとは、銭湯で身体を洗い、浅草地下商店街の飲み屋で「おかえり」の声をかけられたあといつもの酎ハイをひっかける。夜、寝る前には幸田文やパトリシア・ハイスミスの本を読み、寝付いたあとはまるで白黒の実験映画のような夢を見る。
と、毎日まるで判で押したような生活を送っている男を描く映画だった。同僚の若い清掃員、その彼の彼女になろうとしているような若い女、突然訪ねてきた姪、その母親(つまり男の妹)など、様々な人が関わりはするけれども、この男の背景はまったく語られることはなく、淡々と映画は進んでいく。でもそれがめちゃくちゃ面白かった。この男の背景を想像することがとても楽しかった。
たった一つの手がかりは、この男の妹が家出した娘(男の姪)を引き取りに運転手付きの高級車で迎えに来た時に、ちらっと自分たちの父親のことを話題にしたセリフだけ。自分がわからなくなって施設に入っているけれど、もう昔のような父では無いから面会に行ってあげて、と云うセリフだけだった。そこに、とても高圧的な父親に反発する息子を想像してしまった。反発にはそれを正当化する知識が必要なので、だからトイレ清掃員と云う職を持つ人物にしては似つかわしくない本棚やレアなカセットテープのコレクションがあるのじゃないか、と想像してしまった。
男が週末に行くバーのママ(石川さゆり)と元夫(三浦友和)のくだりはいらないかなあ、とはおもうのだけれど、石川さゆりの歌う「朝日のあたる家」が素晴らしいので、そこはやっぱり「あり」と云うことで。
→ヴィム・ヴェンダース→役所広司→日本、ドイツ/2023→109シネマズ菖蒲→★★★★