監督:ジュスティーヌ・トリエ
出演:ザンドラ・ヒュラー、スワン・アルロー、ミロ・マシャド・グラネール、アントワーヌ・レナルツ、サミュエル・タイス、ジェニー・ベス、カミーユ・ラザフォード、ソフィ・フィリエール
原題:Anatomie d’une chute
制作:フランス/2023
URL:https://gaga.ne.jp/anatomy/
場所:MOVIXさいたま
昨年のカンヌ映画祭のパルムドールを獲ったジュスティーヌ・トリエ『落下の解剖学』をなんとなくスルーしそうになったのだけれど、今年のアカデミー賞で脚本賞を獲ったことなどから、やっぱり観ようかな、ってことになった。
ストーリーについては予告編からある程度予想はついていて、妻が夫を殺したのか、あるいは事故死だったのか、自殺だったのか、の法廷劇がメインで、目に障害のある息子が証言台に立たなければならない展開がちょっと目を引く映画ではあった。
この手のジャンルの映画は、昔ならば有罪か無罪かの真実が明らかになる過程が面白かった。ビリー・ワイルダーの『情婦』とか。でも、より複雑化した現在では、有罪、無罪の単純な2つに割り切ることのできない犯罪を描く映画が多くなってきた。この映画でも、たとえ妻(ザンドラ・ヒュラー)に無罪の判決がおりたとしても、すでに夫(サミュエル・タイス)を精神的に追い詰めていたのではないか、との見方も取れるし、夫側にしても夫婦喧嘩を密かに録音していたのは、それを何かしらに利用しようとしていたのではないのか、との疑念も湧くし、単純にどちらか一方だけに咎があると割り切ることのできない映画になっていた。
いつのころからか、たぶんベルイマンの『秋のソナタ』あたりからか、家族や夫婦の辛辣な喧嘩のシーンが好きになってしまった。今回の夫婦による言い争いも、息子がそれを裁判で聞かなければならない心情も加わって、なかなか辛い、厳しい、だからこそ良いシーンだった。でも、夫が密かに録音していたものの証拠開示だったのだから、そこは音だけでも良かったような気もする。再現シーンを入れてしまうと、映画を観ている我々が裁判以上の情報を得てしまうので、特に夫の精神的にやつれている表情を見てしまうと自殺説のほうに寄ってしまうので、そこはもうちょっとぼかしても良かったとおもう。
→ジュスティーヌ・トリエ→ザンドラ・ヒュラー→フランス/2023→MOVIXさいたま→★★★☆