監督:濱口竜介
出演:大美賀均、西川玲、小坂竜士、渋谷采郁、菊池葉月、三浦博之、鳥井雄人、山村崇子、長尾卓磨、宮田佳典、田村泰二郎
英題:Evil Does Not Exist
制作:NEOPA、fictive/2023
URL:https://aku.incline.life
場所:川越スカラ座

この映画は、『ドライブ・マイ・カー』で作曲を務めた石橋英子が、彼女のライブパフォーマンスのための映像制作を濱口竜介に依頼したことからはじまっている。そこから二人の試行錯誤がはじまり、濱口は「従来の制作手法でまずはひとつの映画を完成させ、そこから依頼されたライブパフォーマンス用映像を生み出す」ことを決断。こうして石橋のライブ用サイレント映像「GIFT」と共に誕生したのがこの映画だった。

石橋英子の仕事場は長野県の諏訪地域にあって、そこをたびたび訪れた濱口竜介が石橋の地元の友人たちからその土地の自然の知識を得ることによってこの映画の物語が膨らんでいったらしい。それについての濱口の言及は以下の動画から。

『悪は存在しない』の舞台は、山あいにある架空の町「水挽町(みずひきちょう)」と云う小さな集落。この町の開拓三世の寡黙な男・巧と、その一人娘・花の生活を静かに追いかけながら、東京にある芸能事務所がコロナの助成金を得てグランピング場を作る計画を持ち込んでくる物語と展開していく。

これだけを見れば、自然と共存する町の人々と、利益ばかり追いかける都会の人との衝突、そして理解、融和へと、ガス・ヴァン・サントの『プロミスト・ランド』(2012)のような、よくあるストーリー展開へ向かうのではないかと先読みしてしまう。でも、それだけでは終わらせないラストを濱口竜介は用意していた。

ラストシーンの意味は何なんだろう? その正解を濱口竜介も持っていないようなことを先の動画では云っていた。たぶん、人それぞれ、自由に解釈すれば良いんだとおもう。手がかりとしては、グランピング場が作られる予定の場所は鹿の通り道であること。芸能事務所の担当者が鹿の立場になって考えられないこと。鹿は日本においても「神の使い」であったり「森の守り神」であったりすること。あたりかなあ。

映画を3回観てやっとラストの意味がわかりました! と濱口は観客に云われたそうだ。よし、あと2回観よう!

→濱口竜介→大美賀均→NEOPA、fictive/2023→川越スカラ座→★★★★