監督:アレクサンダー・ペイン
出演:ポール・ジアマッティ、ドミニク・セッサ、ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ、キャリー・プレストン、ブレディ・へプナー、イアン・ドリー、ジム・カプラン、マイケル・プロヴォスト、アンドリュー・ガーマン、ナヒーム・ガルシア、スティーヴ・ソーン、ジリアン・ヴィグマン、テイト・ドノヴァン、ダービー・リリー、ケリー・オーコイン、ダン・エイド
原題:The Holdovers
制作:アメリカ/2023
URL:https://www.holdovers.jp/
場所:イオンシネマ浦和美園
いつだったか、マニアックな映画好きから『ハイスクール白書 優等生ギャルに気をつけろ!』(1999)が面白いよ、と云われた。なにその変なタイトル、まったく面白い映画とはおもえない、と云ったら、もちろん原題までがそんなタイトルなわけではなかった。元のタイトルは「Election」。ある高校の生徒会長選挙のはなしで、まだ駆け出しのリース・ウィザースプーンが出ていた。こんなへんちくりんな邦題にもかかわらず、びっくりしたことに勧められたとおりに面白い映画だった。
監督はアレクサンダー・ペイン。主に家族や友人関係の痛いところをついて来るのが巧くて、それはその後の『サイドウェイ』(2004)『ファミリー・ツリー 』(2011)『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』(2013)と、絶えず同じテーマを扱っている監督だった。
新作の『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』も、全寮制の寄宿学校で歴史教師をするポール・ジアマッティと、クリスマス休暇中に寄宿舎に残ることになった15歳の学生アンガス(ドミニク・セッサ)との関係に焦点を当てたストーリーだった。
どんな場面でも、自分にとっての「いけ好かないやつ」はいるもので、その人の態度、仕草、発言などにイラッと来てしまって、ああ、この人とは合わないなあ、と判断してしまうことがある。いまのSNSの時代ならばリアルな人付き合い以外にも、その人の表面的な一側面をちらっとネットで見ただけで「いけ好かないやつ」と判断してしまう場面も多くなって来ている。でももし、その人のバックグラウンドを深堀りすることができるのならば、そこに何かしらの理解が生じる可能性はあるんじゃないのか、と云うことを『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』は教えてくれたような気がする。情報の切り取りが横行する世の中ならば、その小さな断面の裏にある膨大な背景を察知する感性をもう少しは養うべきなんだろうなあ、と云うことをなんとなくこの映画で教えてもらったような気がする。
そしてこの映画の良かった点をもう一つ。オープニングのユニバーサルのロゴからして70年代映画ふうにしていたところ。まるでフィルム映画のようなノイズと色調(本当にフィルムで撮っていたのか?)、カメラワークも70年代の映画のようににしていたところはびっくりした。ポール・ジアマッティがいなくなったアンガスを探して、寄宿学校の扉をバーンと開けた直後のショット。戸口に立つポール・ジアマッティをアップで撮ったあとにすぐ校庭の全景をいれるほどのロングにズームアウトするシーンは、70年代のなにかの映画(ハル・アシュビー『ハロルドとモード 少年は虹を渡る』(1971)だったか?)で見た気が、、、、
ラストシーンも、まるっきり70年代の映画だった。考えてみれば、どこかに去って行く人を見守って「THE END」(「THE END」の表記が最近ではありえない)になる映画があまり無くなってしまった。あのひとは今後、どのような人生を送って行くのかなあ、の余韻に浸れる映画を久しぶりに見て涙がでるほど嬉しかった。
→アレクサンダー・ペイン→ポール・ジアマッティ→アメリカ/2023→イオンシネマ浦和美園→★★★★