監督:トッド・ヘインズ
出演:ナタリー・ポートマン、ジュリアン・ムーア、チャールズ・メルトン、コーリー・マイケル・スミス、パイパー・カーダ、D・W・モフェット
原題:May December
制作:アメリカ/2023
URL:https://happinet-phantom.com/maydecember/
場所:ユナイテッド・シネマ浦和
1997年2月26日、小学校教師であったメアリー・ケイ・ルトーノーは小学6年生の教え子ヴィリ・フアラアウと関係を持ったことにより逮捕された。メアリーは児童レイプの罪を認めて服役し、約1年後の1998年1月1日に再犯の危険性は少ないと判断されて仮釈放される。しかしすぐさまその教え子と関係を持ったことがわかり、教え子には会わないという仮釈放の条件に違反したことから刑務所に戻される。その後、2004年8月4日に仮出所し、2005年5月20日にはその教え子ヴィリ・フアラアウと結婚することになる。
この事件をモチーフに作られた映画がトッド・ヘインズ監督の『メイ・ディセンバー ゆれる真実』だった。「メイ・ディセンバー」とは「親子ほど年の離れたカップル」を意味する。
この映画の脚本(サミー・バーチ)がすごいのは、単純に事件を時系列に追って行くのではなくて、少年だったジョー(チャールズ・メルトン)が36歳になっているところから映画がはじまっているところだった。この36歳と云う年齢は、13歳だったジョーが関係を持った年上の女性グレイシー(ジュリアン・ムーア)の当時の年齢だった。つまりこの映画は少年だったショーが36歳になり、年上の女性グレイシーが59歳になった時点での結婚生活を描いていた。
さらにこの映画を重層的にしているのは、ジョーとグレイシーの関係を映画化するにあたってグレイシー役を演じることになったエリザベス(ナタリー・ポートマン)が二人の家に取材に来ることも同時に描いている点だった。23歳も離れた年下の少年と関係を持ってしまうグレイシーと云う女性の内面を理解しようとする過程を、一人の女優の目を通して見ることによって、映画を観ている我々の理解への手助けにもなっている。
しかし、グレイシーと云う女性を理解するのは到底無理だった。36歳女性と13歳少年の間の恋愛だったのか、年上女性による小児性愛だったのか、トッド・ヘインズ監督も明確な解答を用意しているわけではなくて、エリザベスと云う女優が導き出した解答を描いているだけだった。
この時点での二人の結婚生活も形骸化しているように見えてしまって、それは普通の結婚にもよくある倦怠期なのか、それとも二人のあいだに恋愛関係があったと自分たちにも納得させるためだけの結婚だったのか、それもよくわからない。ただ、ジョーの表情が絶えず虚ろなことと、グレイシーが時折見せる精神的な不安定さは、最初からこの結婚生活には無理があったんじゃないかと想像することはできる。そして、いつまで経っても完成しない庭に建設中のプールも、あるべきピースが欠けている不安を象徴しているようにも見えてしまった。
最後、エリザベスは映画での演技へと向かうが、おそらくはグレイシーの内面を正確に演じることは無理だとおもう。それは取りも直さず、この映画でグレイシーを演じているジュリアン・ムーアにも云えてしまうのが、この映画の面白い部分だった。
もちろん、元の事件にインスパイアされたまったくのフィクション映画ではあるのだけれど、このような構造にすることによってまだ存命の関係者に配慮しているようにも見えて、そこがとても良かった。
→トッド・ヘインズ→ナタリー・ポートマン→アメリカ/2023→ユナイテッド・シネマ浦和→★★★★