監督:二村真弘
出演:林浩次(仮名)、林健治
制作:digTV/2024
URL:https://mommy-movie.jp
場所:シアター・イメージフォーラム
1998年(平成10年)7月25日、和歌山市園部の夏祭りで提供されたカレーに猛毒のヒ素が混入され、67人がヒ素中毒を発症し、小学生を含む4人が死亡した。当時、この「和歌山毒物カレー事件」の報道に接したとき、そのあまりの過熱報道に異様さを感じながらも、連日放映される民法のワイドショーを見れば見るほど犯人とされた林眞須美の有罪を、ご多分に漏れず、信じ込むようになって行った。
二村真弘監督の映画『マミー』の主人公は林眞須美の長男、林浩次(仮名)。事件当時、林眞須美とその次女が夏祭りのカレーの見張り番をしているのを目撃したあとに現場から離れた長男は、当時の母親の生活態度などから総合的に見てカレーに毒物を混入することなどあり得ないと云う主張をしている。もちろん肉親であることから客観性を欠くことはあるのだろうけれど、映画に登場する長男(顔にはぼかしが入っている)の言動からは、極力、客観性を保とうとしていることが見てとれる。と云うよりも、もし自分がこの長男の立場に立ったとしたらこんなに冷静でいられるのだろうか? とさえおもえるほどに、そのあまりに冷めた態度にはびっくりさせられた。
林眞須美を有罪とすることの問題点は、犯行動機が明確になってない、直接的な証拠が存在しない、にある。この事件がモヤモヤとするのはそこに尽きる。それに加えてこのドキュメンタリーでは、
・事件で使われたヒ素(亜ヒ酸)は林眞須美が持っていたものと同一性が認められる
・林眞須美がカレーの入った鍋のふたを開けるなどの不審な行動をしていたことが目撃されている
・林眞須美は長年にわたって保険金詐欺にかかわる殺人未遂等の犯行に及んでいた
についての反証も行っている。特に3つ目の「林眞須美は長年にわたって保険金詐欺にかかわる殺人未遂等の犯行に及んでいた」は、直接的な証拠ではないにしても、彼女へ疑いを向けざるを得ない大きなポイントになっているとおもう。ところがそれも、夫の林健治や長男によって事実と反することが詳しく語られている。肉親であることからその証言は裁判では採用されていないのかもしれないけれど、もし林眞須美が首謀者として保険金詐欺を計画していなかったとすると彼女を有罪とするモヤモヤ度がますます深くなってしまう。
事件から26年。その後のネットでのコミュニュケーションを経験し、やっと最近、SNSでの書き込みを客観的に見ることができるようになって、ものごとを一方的に見ることの怖さを学習してから「和歌山毒物カレー事件」を振り返ると、やはり当時の過熱報道は公平さを欠いてたように見える。あいつはおかしい、あいつがやったに違いない、と云う決めつけたイメージをマスコミがどんどんと垂れ流した結果のようにもおもえる。
このドキュメンタリーを見て、当時の和歌山市園部のコミュニティがどんなものだったのかがとても気になった。もちろん二村真弘監督もそれを明らかにしようと努力して、ちょっと行き過ぎて警察のお世話になりながらも、なんとか当時の住民の証言を取ろうとしていた。でも、ことごとく門前払いだった。あの事件のことは思い出したくもない、はわかるのだけれど、そのかたくなな姿勢がとても不気味におもえた。ただ怪しいと云うことだけで林眞須美を有罪とすることの底の浅さを露呈したとも云える。おそらくは、もっと闇は深い。それを明らかにさせたドキュメンタリーだった。
→二村真弘→林浩次(仮名)→digTV/2024→シアター・イメージフォーラム→★★★★